「これは非常に新しい材料。『本物だ』と認められるには、長い長い時間がかかるでしょう。実現には大変な努力が必要ですが、私は楽しんでいます」
発見のきっかけは、コンピューターの計算にかかる長い待ち時間だった。近畿大にいた北川さんは1990年ごろ、金属と有機物でできた化学物質(錯体)の性質にかかわる、立体的な構造を突き止めようとしていた。京大で大型計算機を借りたが、多くの研究者と共用するうえ、膨大なデータを使うので、終わるのに時間がかかった。
ある日、しびれをきらした北川さんは、計算の途中で、化学物質の構造を学生に紙に描かせてみた。すると「先生、穴があいてますよ」と。蜂の巣状の穴が並んでいることがわかった。「非常に面白いと思ったんですよ。直感で、本体じゃなく穴の方が使えそうだと。どう使えばいいのか、すぐにはわからなかったんですけど」
その後、北川さんらは実際に微小な穴が開いた化学物質を合成した。当初はすぐ崩れてしまう不安定なものだったが、金属と有機物の組み合わせを変えるなど実験を繰り返した。この穴でメタンガスの吸蔵ができるようになった。
もし、北川さんが長い待ち時間を気にせず、最後まで計算を続けていたら、違った構造が見え、蜂の巣状の穴はわからなかったかもしれないという。
だが、発見は当時の科学界の常識を覆すようなもので、すんなり認められたわけではなかった。
北川さんは99年、米国で開かれた研究者の集う「ゴードン会議」に出席した。今回のノーベル賞受賞のもとになった、金属有機構造体(MOF)でメタンガス貯蔵の可能性を示した論文がきっかけとなり、招待を受けていた。
ところが、発表を聞いた各国の研究者からの反応は予想外だった。「それは間違っている」と集中砲火を浴びた。
北川さんが見つけた物質は、金属(無機物)に有機物がくっついた有機化合物。有機物の特徴のひとつは「軟らかい」ことだ。有機EL、有機(色素増感型)太陽電池のように、薄く、曲げられる電子機器などに応用されている。
「無機物は硬い、壊れないイメージ。ところが有機物が入っていると、軟らかくて、くしゃっと壊れるという先入観があった」。当時、有機化合物は不安定で、すぐ使えなくなるというのが常識だったという。
北川さんは批判に屈せず、研究を続けた。複数種が混ざった気体から特定の気体を取り出す「分離」、穴のなかで別の気体に変える「変換」にも応用を広げたことが評価された。
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