鎌田:ぼくはね、高齢期を幸せに生きるかどうかは、「自己決定」が一番重要な気がしているんです。自分が働いて稼いできたお金をどう使うか、延命治療を受けるか受けないか、最期はどこでどんなふうに死にたいのか、そんな自己決定力は高齢者ほど必要になってくると思います。
荻原:同感です。私ね、70歳になってつくづく思うんです。人生の価値は、自分で決めて自分でやってきたことでつくられているんだなって。誰かに指示されたことをやり続けてきた人は、「自分で決める」「自分で選びとる」という力が弱いなあって感じることがあります。
鎌田:人の顔色をうかがってきた人は、とくにそうだよね。
荻原:私の周囲を見ると、定年退職したあとに無気力になってしまう男性がけっこう多いんですよ。「夫が家でずっとゲームばかりしている」「やたらと私の後ろをついて歩くようになって面倒くさい」っていう妻の声、けっこう聞きます。
鎌田:それを聞いて思い出した。女性はだんなさんが亡くなると長生きするけど、男性は奥さんが亡くなると長生きできないっていうデータがあるんです。
荻原:知り合いの保険会社の人も言っていました。妻を亡くした夫は、そのときは割と冷静なんですって。でも、半年くらいするとろうそくの火が消えるみたいに、ふ〜っと亡くなるケースが少なくないそうです。
一方で、夫を亡くした奥さんは「どうして私を置いて逝(い)ってしまったの!」って棺(ひつぎ)にすがって泣いたりするんですけど、半年後にはすっかり元気。ご主人の生命保険も入るから、「ここからが、わが世の春!」みたいになる人もいるそうです(笑)。
もちろん人によって違うと思いますけど、男性にもそれくらいのタフさをもってほしい。
鎌田:そうそう。明るく元気に生きたって、亡くなった配偶者をないがしろにしているわけじゃないんですから。男性も「ここから新しい人生を始めよう」くらいに思ってほしいですよ。
荻原:なぜそれができないんでしょうか。
鎌田:知らず知らずのうちに相手に寄りかかっていたのでしょうね。とくにぼくらの世代は、「妻がいないと靴下の場所もわからない」っていう男性も少なくない。だから定年退職を機に「ソロ立ち」することが大切なんです。
最期は一人だから「ソロ」で生きる
荻原:「ソロ活」は聞いたことがありますが、「ソロ立ち」とはどういう意味ですか?
鎌田:ぼくがつくった言葉です。一人ひとりが本来の自分らしさみたいなものをちゃんと自覚して、「自分はこうしたい」「こう生きたい」という自己決定力をもつことを「ソロ立ち」と名づけたんです。
荻原:なるほど! 「ソロ立ち」……いい言葉です。
鎌田:誰だって、命の最期は個人戦です。どんなに仲のいい夫婦でも、亡くなるときは一人。夫婦だから、親子だから、最期はなんとかしてくれるだろうなんて思わないことです。どんな治療を受けたいか、どこでどんな最期を迎えたいか、自分で選ぶことが大切なんです。
それもあって『鎌田式おきらくハッピーエンディングノート』(家の光協会)を出版しました。名前はエンディングノートなんですが、やりたいことを書く欄が多くて、実際には「リビングノート」なんですけどね。
荻原:自分がどうしたいかがわからない、っていう人も少なくないですよ。
鎌田:そういう人は「ソロ活」から始めるといいと思います。一人で映画を見るとか、一人で美術館に行くとか。友だちや家族といっしょだと相手の好みに合わせちゃうんだけど、一人だと「自分はどの映画を見たいんだろう」と考えるでしょ?
これは小さいけれど、確かな自己決定です。その積み重ねの先に、自分の人生の決断をする力がついてくるんじゃないかと思います。
荻原:「ソロ」で生きる練習ですね。でも、私の友人の中には「一人で出かけたいのに、だんなさんがついてきちゃう」っていう人もいるんですけど(笑)、それはどうしたらいいですか?
鎌田:じゃあ、とりあえずいっしょに出かけましょう。
たとえば夫婦で京都に行ったとしますよね。だんなさんはお寺に行きたい、奥さんは焼き物を買いたい。2人で両方に行くのではなくて、別行動するんです。午前中は別行動してランチで落ち合う。
そしてまた別行動して、夕方にホテルで集合。そうやって短時間でも「ソロ活」をしていけば、いつの間にか「ソロ立ち」できる関係をつくれるようになると思うんです。
荻原:いいですね、熟年離婚も避けられそうです(笑)。
鎌田:あとは奥さんのほうが勝手に「ソロ活」しちゃうんです。「毎週○曜日は主婦をお休みしますので、3食は全部自分で作ってくださいね」って。
そうすれば、だんなさんも自分で何か作るかもしれないし、ご近所の食堂を開拓するかもしれない。
荻原:面倒を見すぎない、甘やかさないってことですね。
鎌田:一人でいる時間が増えれば、家族や職場の人間関係だけじゃない、ゆるやかな友だち関係が生まれると思います。ぼくはそれを「ゆる友」って呼んでいるんですが、そういう関係性の人がご近所にいるって、とても大事だと思います。
「一人だから寂しい」なんて決めつけない
鎌田:一人暮らしの日本人って、すごく増えているでしょう? 国勢調査によると、男性の3割、女性の2割は生涯未婚です。年間約47万組が結婚しますが、約18万組が離婚しています(2023年 人口動態調査)。
最も多いのは単独世帯で、38%を占めます。高齢者だけで見ると19%、5人に1人は単独世帯です。
荻原:どちらかに先立たれれば、どうしても一人暮らしになりますしね。
鎌田:高齢者の一人暮らしって、どうしても「寂しいのではないか」と思われがちです。でもぼくは、寂しさよりも満足度のほうが大切だと思うんです。ある調査では、高齢者は夫婦で暮らしている人よりも、一人暮らしの人のほうが満足度が高いことがわかっています。
荻原:そうなんですね。
鎌田:たとえば、高齢になっても「できるだけ自宅で暮らしたい」と思っている人は多いですよね。でも病気になって体が不自由になったりすると、いっしょに暮らす家族に負担がかかる。「申し訳ないから」って施設に入る人はすごく多いんです。
でも一人暮らしなら、介護保険を使って要介護2くらいまでは家にいられる。それ以上でもいけるかもしれない。気兼ねはいらないですからね。
荻原:確かにそうですね。ソロ立ちしている人にとっては、「一人だからかわいそう」っていうわけではないということですね。