今年を「抗日戦争勝利80年」の記念の年と位置づける中国共産党・政府の方針を反映し、公開初日は中国全土の映画館を席巻する勢いで上映された。しかし、旧日本軍の秘密機関「731部隊」を描いた中国映画「731」は、9月18日の公開から3週間経過したあたりで、映画としては「不出来だ」との評価が定着。国際的な映画批評サイト「IMDb」では10段階中3・2の低評価。中国国内の映画アプリにも批判的なコメントが相次いで寄せられ、点数評価が見送られている。
中国メディアによると、公開初日の全国上映回数は25・6万回以上となり、1日あたりの上映回数の最高記録を樹立した。また映画は当初7月31日に公開される予定だったが、上映が延期されたことでも話題になり、中国国民の間で期待が高まって、興行収入は最初の10日間で14億5600万元(約311億円)に上った。
ところが、鑑賞した人たちからの評価は低かった。映画の評価を投稿できる中国のアプリ「猫眼」や「豆弁(ドウバン)」でも「世界で公開したら鼻で笑われるのではないか」などと批判的なコメントが目立つ。「より多くの人が映画を通して歴史を理解することを願っている」など一部で肯定的な投稿はあるものの、いずれのアプリも、全体的な評価点の表示を避けている。
IMDbでも「歴史や犠牲者に失礼な映画だ」「このレベルの監督はこのような重いテーマを映画化すべきではない」などと辛辣(しんらつ)なコメントが並んでいる。映画は細菌を広めるためのノミやネズミの利用、人体実験など、史実を参考にした部分はあるものの、突然「おいらん道中」が行われたり、係員がはかま姿だったりと時代考証からかけ離れた演出が目立ち、展開もわかりにくかったためだ。
3・2という「731」に関するIMDb上の評価の低さは、旧日本軍が多数の中国人を殺害した「南京事件」をテーマとした今年7月公開の中国映画「南京写真館」の8・1と比べても際立っていた。
公開10日前後で失速した「731」の10月13日時点での興行収入は約404億円。南京写真館の645億円超には届かない見通しだ。ちなみに今年最大のヒット作、中国アニメ「ナタ魔童の大暴れ」の興行収入は約3300億円に達している。
731部隊は戦時中、旧満州(現中国東北部)を拠点に細菌兵器の研究や使用、中国人捕虜らへの人体実験を行った。映画では、部隊にとらえられた中国人男性が、施設から脱出を図る物語が描かれている。中国国内では満州事変の発端となった柳条湖事件発生日の9月18日に公開され、一部海外でも上映された。
出典【毎日新聞 10/14 北京・畠山哲郎】
1937年に起きた「南京事件(南京大虐殺)」を描いた映画『南京写真館(南京照相館、Dead To Rights)』が中国で7月25日に公開されて以来、興行収入でトップを走っている。香港の英語日刊紙のサウスチャイナ・モーニング・ポストは、この映画を「雷のような迫力」と評する一方、一部の暴力シーンは「まるで反日感情をあおるために仕組まれたかのようだ」と評した。
巧みな演出と豪華なスター陣がそろった『南京写真館』は、旧日本軍が6週間にわたり大量虐殺、レイプ、略奪を繰り返し、数十万とは言わずとも数万人が命を落としたとされる当時の中華民国の首都南京を舞台にしている。南京事件を描いた他の映画と同様、『南京写真館』も残虐行為を遠慮なく描写しているが、観客は気にしていない。
上海にある映画の撮影所は現在一般公開されており、AFPが今週訪れた際には、熱狂的なファン(多くは幼い子どもたち)であふれかえっていた。次々と押し寄せる人々が、自撮り写真を撮ったり、興奮気味にライブ配信したりしていた。
この映画は、軽薄さの裏で、強い感情を呼び起こした。「He」という名字の女性は日本に対する思いについて、「深い心の痛み、根深い憎しみを覚える」「将来何が起ころうとも、歴史を心から消し去ることはできない」と語った。ある男性は、この映画を観た5歳の息子を連れて、2000キロ近く離れた寧夏回族自治区北部からやって来たと語った。 別の少年は、焼け焦げたがれきと割れたガラスの山の上で、中国国旗を掲げ、勝ち誇ったポーズを取り、両親が夏の青空を背景に息子の写真を撮っていた。
この映画のストーリーは、写真館に隠れた南京市民たちが、旧日本軍による戦争犯罪の「記念品」となる写真を現像させられるというものだ。
中国ではこの夏、『南京写真館』以外にも日中戦争を描いた映画が複数公開されている。中国人の多くはこの戦争で旧日本軍が大勢の中国人を殺害したにもかかわらず、日本側がきちんと償いをしていないと感じている。
中国は、抗日戦争勝利80周年を記念する9月3日の大規模な軍事パレードに向けて準備を進めていた。『南京写真館』のポスターには、「中国人は誰も忘れないだろう」と書かれている。撮影所を訪れたジャン・シャンさん(37)は「(このような映画が)憎しみを表現しているとは思わない。歴史を修復する必要があるからだ」と語った。
南京事件の死者数は依然として議論の的になっているが、中国は30万人だと主張している。南京事件があったことは圧倒的な国際的証拠で示されているにもかかわらず、日本の超保守派の一部は事件そのものを否定し、「南京は虐殺事件ではなかった」と主張している。
ジャンさんは、中国の苦しみに対する認識は世代を超えて受け継がれ、「私たち(中国人)は自らを頼り、強くなり続ける必要がある」と教えるべきだと述べた。
■「歴史理解」か「反日感情扇動」か
撮影所の写真館では、ゲストノートが愛国的なコメントと下品なコメントで埋め尽くされていた。子どもっぽい走り書きで「日本は世界で最も愚かな国だ」と書かれたものもあった。
AFPが取材した親のほぼ全員が、子どもにこの映画を観せたと回答した。南京出身のある母親は、学校からこの映画を観せるよう勧められたと語った。
中国には映画のレイティングシステムがなく、他の国で過度に暴力的とみなされるようなコンテンツを子どもが見ることも珍しくない。
ある子どもは木の柱の横を通過する際、友達に向かって「見て、(映画の中では)そこに首がぶら下がっていたよ!」と笑いながら話しかけていた。
先述の「He」さんは、「(目的は)子どもたちに歴史を理解してもらうことで、憎しみなどを植え付けたりすることではない」「先祖が私たちのためにどのように戦ったかを子どもたちに教えてくれる」と述べた。
ある中学生は、日本人は「嫌い」だと感じたが、恨みを抱かないよう警告。「日本人は残酷なことをたくさんしたが、われわれは日本人を尊重する必要がある。なぜなら、今は平和に焦点を当てなければならないからだ」と述べた。
出典【上海AFP=時事 8/29】
2025年10月17日
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