バチカンのフランシスコ教皇の葬儀に、各国トップクラスの首脳陣が集まる、重要な外交の場にもなっている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、訪問先のバチカンでトランプ米大統領と会談した。
停戦交渉の停滞でギクシャクする米国との関係を改善する足がかりとする狙い。トランプ氏はロシアに配慮した仲裁案の受け入れを強く迫り、追い込まれるウクライナに打開策は見えてこない。
「歴史的な会談となりえる」。ゼレンスキー氏は教皇フランシスコの葬儀直前の時間を縫い、トランプ氏と15分ほど膝詰めで会談した成果を誇示した。
激しい口論を繰り広げた2月以来の直接会談で、ゼレンスキー氏にはトランプ氏との和解を世界にアピールする思惑もある。SNSには「全面的かつ無条件の停戦」や「戦争が繰り返されるのを防ぐ確実で永続的な平和」を協議したと投稿した。
ウクライナは今回の会談を機にアメリカの歩み寄りを期待するが、先行きは不透明だ。会談では平和維持に必要な「安全の保証」などを訴えたが、米国から具体的な回答はなかったとみられる。米政府高官は「非常に生産的な話し合いをした」と述べるにとどめた。
英紙タイムズは26日、米国のウィットコフ中東担当特使に近い情報筋の話として、トランプ氏には米国の仲裁案に変更を加える考えはないと報じた。ウクライナが受け入れを拒否すれば、来週にも交渉から離脱する可能性があるという。
米紙などによると、米国の仲裁案はロシアが2014年に一方的に宣言したクリミア半島の併合承認に加え、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟断念、ウクライナ東南部4州におけるロシア占領地の実効支配を実質的に容認など、ロシアに配慮した条件が並ぶ。
ウクライナは「クリミアをロシア領と法的に認めることは憲法違反である」と主張。ゼレンスキー氏は拒否する方針を明確にしているが、交渉のカードは乏しい。
ロシア軍は26日、ウクライナ軍が越境攻撃を続けていたロシア西部クルスク州を完全に奪還したと公表した。ウクライナ側は否定しているが、前線で押し込まれる状況が続く。クルスク州の占領地を失えば、停戦交渉の材料を一つ失う。
ウクライナが米国との関係改善の糸口に期待する資源協定の締結もずれ込む。トランプ氏は26日までに締結できるとの見方を示していたが、法的な問題など詰めの交渉が難航しているもよう。トランプ氏は25日に「ウクライナは最終書類に署名していない。ただちに署名するよう望む」と圧力をかけた。
ロシアは揺さぶりをかける。ペスコフ大統領報道官は26日、プーチン大統領とウィットコフ氏が25日にモスクワで会談した際、プーチン氏が「ロシアは前提条件なしにウクライナと交渉を再開する用意がある」と伝えたと述べた。和平合意を急ぐトランプ政権をにらみ、交渉に前向きな姿勢を演出する狙いが浮かぶ。
ウクライナの政治アナリスト、イーホル・ペトレンコ氏は、ロシアは交渉を長引かせることで、ウクライナ国内の団結を乱す意図もあると説明する。首都キーウのクリチコ市長は24日、英BBCの取材において、クリミアを含む領土放棄について「公平ではないが、平和のために解決策になるかもしれない」と語った。
ペトレンコ氏は日本経済新聞に対して「ウクライナの政治エリートの間で、平和支持者と勝利絶対主義者の分裂が生まれかねない」との警戒感を示した。
出典 日経新聞4/27
2025年04月27日
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