農民はふるさとを離れ、沿海部の製造現場でチャンスをつかもうと懸命に働きました。
広東省の工場で働く労働者たち(1980年代)
子どもを大学に送れるほど生活水準が上がった人や、中には起業し成功を収めた人もいて、中国の経済成長を象徴する存在になりました。
その一方で、取り残されたままの人が多いのも実情です。
農民工は2023年に2億9753万人と、統計を取り始めた2008年以降で最も多くなりました。このうち3割は50代以上です。
仕事がなければ食べていけない
そして今、中国の不動産不況の長期化で建設現場などの仕事は激減。消費も不振で、製造現場はコスト圧縮にさらされ、農民工の雇用条件も厳しさを増しています。
働き続けなければ、生活が立ちゆかなくなる人たちは、さらなる苦境に追い込まれています。
2月中旬、内陸部・河南省鄭州の郊外では、厳しい寒さの中、午前4時ごろから仕事を求める農民工が集まり、片側4車線の道路を埋め尽くしました。
日雇いの仕事を求める労働者たち
募集していたのは、建設や清掃など、日給が日本円で2000円から8000円ほどの仕事です。
農民工は年齢や技能に応じて選ばれ、それぞれの現場へ小さなワゴン車で向かいました。しかし、仕事が見つからず、その場を後にするしかない農民工も少なくありません。
その1人、姚戦士さん(60)は「どんな仕事でもやるといったのに、見つからなかった」とつぶやきました。
姚戦士さん
姚さんは、ここなら誰でも仕事にありつけると聞き、120キロほど離れたふるさとから出稼ぎに来ました。
いまは、農民工が多く暮らす地区にある家賃およそ7000円の小さな部屋に、ほかの農民工2人と暮らしながら仕事を探しています。
姚さんは、ふるさとに残した妻と息子を養わなければなりません。
しかし、収入は、農地の使用権を貸して得られる年間およそ5万円のほか、かつて所属した軍の手当と今後支給される年金があわせて月に6000円程度。
荷物は着替えだけという 姚さんの暮らす部屋
これまでも北京、内陸部・陝西省、新疆ウイグル自治区など、各地で働いてきましたが、貯蓄はなく、仕事が見つけられなければ、食べていくことさえもできません。
姚戦士さん
「食べ物も飲み物も節約できるものは節約して生きています。このままでは家族2人を食べさせられなくなります。
これまで一生懸命頑張ってきたので老後はゆっくりしたいと思っていましたが、庶民に引退などありません。どうにかしてお金を稼ぐ方法を探さないといけません。
もう数日ここに残り、それでも仕事を見つけられなかったら、別の場所に行こうと思います。本当につらい。耐えられません」
「不穏な雰囲気の高まりを感じる」
中国の労働者を研究し続けてきた専門家は、厳しい現状は農民工だけにとどまらない可能性を指摘します。
フリードリヒ・シラー大学イェーナ 許輝 氏
許輝 氏
「今は努力をしてもチャンスをつかめる時代ではなくなっています。不動産不況、コロナ禍以降の景気の減速、もはや農民工だけの危機ではありません。
社会全体、経済における危機であり、中間層も同様の状況に直面する可能性があります」
去年、市民が無差別に殺傷される事件が相次いだ中国。
専門家は、労働者が追い詰められている状況と無関係ではないと懸念も示しました。
「2024年以降に起きた事件からも、不安定な心理状態が極端なケースを招いていることがわかりますし、不穏な雰囲気の高まりを感じます。
中国には人々が安心できるセーフティーネットの拡充が急務です」
無差別殺傷事件があった学校(江蘇省 無錫 2024年11月)
人々の“リアル”が伝えられない中国
農民工が直面する苦境は、実際に社会にじわじわと広がっています。
取材で出会ったIT企業の副社長だった男性は解雇され、運転代行のアルバイトを始めていました。
中国では条件がいいとされる地方公務員でさえ「仕事ばかりが増え、休みはなくなっています。残業代は出ないし、給料は減っているようなものです。多くの人が本当は転職したいと思っていますが、能力が高い人でも仕事を見つけるのが簡単ではないので、公務員を続けるしかないのです」と話していました。
雇用環境の悪化は消費不振にもつながっていて、節約志向や「コスパ」を意識した消費行動が急速に広がり、暮らしの悪化を隠さず口にするようになっています。
しかし、習近平指導部が情報統制を強める今、官製メディアが苦境にある人々の“リアル”を取り上げることはほとんどありません。
引き続き、地道に人々の声に耳を傾けながら、実情を捉えていく必要があります。
(3月15日サタデーウオッチ9で放送 )
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