参考にされたのが、同じ非英語圏の先進国、フランスだった。フランスでは当時、高等教育機関で学ぶ学生のうち留学生が12パーセントを占めていた。ならば日本も約300万人の学生の1割程度は留学生にしてはどうかと、「30万人」という数字がはじき出された。
しかし、「30万人計画」は思うように進まなかった。留学生全体の6割を占めた中国人が、この頃の中国人留学生には、「業務体験」「留学」を出稼ぎに利用していた者が多かった。ところが、2011年に福島第一原発事故が起き、実習生、留学生の数が減少に転じた。中国経済の発展によって、日本へと出稼ぎにくる必要がなくなった事ももう一つの理由だったのだ。
そこに誕生したのが安倍政権だった。「30万人計画」は、13年に閣議決定されたアベノミクス「成長戦略」の1つに掲げられ、留学生の数も一気に増え始める。12年末には18万919人だった留学は、7年後の19年末までに34万5791人へと2倍近くにもなった。ベトナムなどアジア新興国から大量に留学生が受け入れられた結果である。そして「30万人計画」も、20年を待たずに達成された。
留学ビザは本来、日本でアルバイトなしに留学生活を送れる経済力のある外国人にしか発給されない。留学希望者はビザ申請時、親の年収や預金残高の記された証明書の提出が求められる。ビザの発給基準となる金額は明らかになっていないが、年収と預金残高それぞれ日本円で最低200万円は必要だ。新興国では、かなりの富裕層でなければクリアは難しい。そこで留学希望者は、留学斡旋業者経由で行政機関や銀行の担当者に賄賂を渡し、証明書を捏造する。捏造といっても、行政機関などが正式に発行した“本物”の証明書である。金額を支払い、ビザを得られるようでっち上げられている。証明書を捏造してビザを取得し、出稼ぎ目的で多額の借金を背負い来日する留学生を、筆者は“偽装留学生”と呼んでいる。その数を特定するのは難しいが、安倍政権で増加した留学生の大部分は“偽装”である可能性が高い。
たとえば、ベトナムの貧しい田舎に暮らす農民の年収が「300万円」といった具合に、あり得ない額の数字が証明書に記されているのだ。日本側で証明書を審査する法務省入管当局や在外公館にすれば、捏造は簡単に見破れる。だが、いちいち問題にすれば、留学生は増やせず、「30万人計画」も達成できない。そのため捏造に目をつむり、留学ビザを発給し続けた。
安倍政権誕生からの7年間で、ベトナム人留学生は9倍の約8万人、ネパール人も5倍の約3万人へと急増した。証明書の捏造が黙認された結果である。こうしたアジア新興国出身者には、かつての中国人留学生たちがそうだったように、出稼ぎ目的の留学生が数多く含まれる。留学生には「週28時間以内」でアルバイトが認められる。そこに目をつけ、留学を出稼ぎに利用するのだ。
ただし、留学には費用がかかる。留学先となる日本語学校に支払う初年度の学費や留学斡旋業者への手数料などで、軽く100万円以上が必要だ。新興国の庶民には、自ら工面できる金額ではない。そこで留学希望者たちは費用を借金に頼る。日本で働けば、短期間で返済できると甘く考えるのだ。
偽装留学生の恩恵を最も受けたのが日本語学校業界である。「30万人計画」のもと日本語学校の数は急増し、大学をも上回る800校近くにも膨らんでいる。
人手不足の職種にも、低賃金の労働力が供給された。私たちが普通に暮らしていれば気づかない場所で働いている。コンビニやスーパーで売られる弁当や惣菜の製造工場、宅配便の仕分け、新聞配達、ホテルの掃除などである。いずれも重労働で、日本語ができなくてもこなせる仕事ばかりだ。そして留学生たちは、日本人の嫌がる夜勤に就くケースが多い。留学生のアルバイトといえば、コンビニや飲食チェーンの店頭で働く外国人を思い浮かべがちだが、それよりずっと多くの留学生たちが見えない所で働いているのだ。
「週28時間以内」の法定上限を守って働いていれば、月に得られるアルバイト代は10万円少々に過ぎない。それでも生活はできるが、偽装留学生たちは母国で背負った借金を返済し、さらに翌年分の学費を貯めなければならない。そのためアルバイトをかけ持ちして、法定上限を超えて働くことになる。
夜勤の肉体労働は過酷だ。連日仕事に明け暮れていれば、日本語の勉強が捗るはずもない。だが、生活が嫌になっても、母国へ帰るわけにはいかない。借金を残して帰国すれば、一家丸ごと破産してしまうからだ。そんな抜け出せない暮らしを彼らは強いられる。
留学生が日本語学校に在籍できるのは最長2年だ。その間に借金を返済できない留学生は多く、奴隷同然になりながら、出稼ぎの目的も果たせない。そこで彼らは専門学校や大学に進学し、出稼ぎを続けようとする。
日本語能力を問われず、学費さえ払えば入学できる学校は簡単に見つかる。日本人の少子化で、学生不足に陥った専門学校や大学が、偽装留学生の受け入れで生き残りを図っているからだ。そうした学校に留学生たちは進学し、学費と引き換えにビザを更新する。そして日本語学校当時と同様、日本人の嫌がる底辺労働に明け暮れる、そう言う留学生の実態に目をつぶって日本社会が支えられている現状だ。
参照HP(2020/10/4)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20889?page=2
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