コロナ禍以降、日本でも一時は多くの人がリモートワークを行ったが、コロナ禍の心配が後退するにしたがって会社に出勤を要請する経営者が続出。一部の業種、職種では一定の市民権は得たものの、その数はずいぶん減った。ところが米国では従業員がオフィスに戻らずにリモートワークを続けるケースが目立ち、これを契機にオフィス床を縮小するテナントが続出している。
ニューヨークやワシントン、ロサンゼルスなどの大都市のオフィス空室率は軒並み20%を超えた。築年の浅い超高層オフィスなどではテナントと長期契約を結んでいることもあって空室率はそれほどではないが、築年の古い物件はテナントの解約が相次ぎ、マーケットは苦境に陥っている。その結果2023年の米国のオフィス評価額は23%の下落という大暴落状態に陥った。
前年の半ばころにオフィス価格はピークアウトしたとされるが、政策金利の引き上げと軌を一にするようにオフィスマーケット価格が下落に向かったのである。米国では多くの商業用不動産はノンリコースローンという手法で建設資金を調達している。ノンリコースローンはオーナーの保証は求めず、物件価値の評価によって5年程度の間隔でリファイナンスする仕組みのもので、米国ではごく一般的なファイナンス手法だ。
実はこのオフィス向けローンのうち約1.5兆ドルものローンが2025年までに満期を迎える。オフィス価格が20%以上下落をしていると、ローン契約の中のデフォルト条項にヒットして、物件の売却が陸続する恐れがある。
現に先日も米国の商業用不動産に多額の投資を行っている企業が、デフォルト状態に陥り、これにファイナンスしている韓国金融機関が多額の引当金を積み増したニュースは世界を震撼させた。
今年初めには米国のNYCB(ニューヨークコミュニティバンク)、ドイツのドイチェ・ファンドブリーフバンクが商業用不動産の不調で多額の引当金を計上して赤字に陥ったとの発表があり、日本でもあおぞら銀行が約324億円の損失を引き当てる事態に陥っている。
こうした事態は日本を含めオフィス業界に深刻な影響を及ぼしている。日本の不動産会社でも多くの米国商業用不動産に投資、保有をしている。その多くはやはりノンリコースローンで調達している現状からは、オフィス価値が暴落し、ローン金利が急伸する事態が続くことは、たとえテナントが埋まっていたとしても、利払いなどの費用が嵩んで、運営収支が赤字に陥る可能性が出てきているのだ。
加えてリファイナンスでは相応の治癒(追加エクイティ出資など)を行わなければリファイナンスリスクをまともに被ることになる。
特に根が深いのがオフィスというハコで働くという誰もが信じて疑わなかった働き方の常識が変わるという恐ろしさだ。日本では今でこそ、昭和型経営者がオフィスへの出社を促す。従順な従業員は裏で文句を言いながらも黙って従っている。だが今後社会の主力にZ世代が登場するようになると、オフィスというハコに興味を示すものは少数派になるかもしれない。
米国発の商業用不動産暴落に伴う、日本を含めた世界中の金融機関の不良債権化問題は2008年とはまたひと味違う破綻を引き起こす可能性がある。既に中国不動産は大型倒産をなんとか官民一体となって食い止めている状況。香港でもオフィスの空室率は20%と底なしの状況になっている。さらに欧州でもドイツで不動産関連企業の倒産が1月から3月で630件と前年同期比30%増。今年2000件を超えるものと予測されている。
常に安定的な収入を確保できると考えてきたオフィスは、中長期にわたって不動産業界に米国発のオフィス不況が押し寄せてくるのは、オフィス投資に思い切り貸し込んでいた金融機関の破綻からだとしても不思議ではない。
米国政策金利の引き下げに転じるのを心待ちにしながら、この状況をどのようにくいとめることができるか目を離せない状況が続いている。
2024年09月04日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック