オードリーファンなら、『パリの恋人』(1957年)のクライマックスに登場したウエディングドレス姿は目に焼き付いている筈だ。ストーリーは、小さな書店でバイトしていた彼女が、突然ファッション誌のキャンペーンガールに請われ、プロのカメラマンのディックとフランスのしゃれた場所で撮影を続け乍ら、色々な行き違いがありながらも、ハッピーエンディングを迎えるシーンで、ジバンシィがデザインしたバレリーナのようなチュールスカート、サブネックラインのいかにもオードリー的なウエディングドレスで踊るシーンがあった。
そのロケ地は観光地としても有名なフランス郊外のシャンティイ城だった。2つの川に挟まれた細長い島でオードリー扮するジョーとフレッド・アステア演じるカメラマンのディックが名曲“ス・ワンダフル”をバックに華麗な歌とダンスを披露するので、夢のように美しい場所で、お鳥の名手たちによってダンスが披露される、ジューンブライドの今月、フランスまでは遠いが、つくし野なら散歩がてらランチにでも足を伸ばしてみてはどうだろう。
しかし、その映画のシーン撮影では、アステアが「あんな場所じゃあ踊れないよ」と文句を言い、スタッフ全員が絶望的になる中、オードリーのユーモアがその場の気まずさを救って、完成したのだと逸話が残る。彼女は「私はフレッド・アステアと踊るチャンスを20年間も待ち続けたのよ。それなのに私が得たものは何? 目に入った泥よ!」と、緊張感溢れる映画の撮影現場をユーモアで和ませ、その機転が、『パリの恋人』の名シーンになったのだった。
彼女の出世作は、もちろん『ローマの休日』(1953年)だ。初の作品で、プリンセス役でデビュー、当時のハリウッドで人気俳優だったグレゴリー・ペックにタイトルロールの主演で並べるようにと進言されて、みごとアカデミー賞を得た。その撮影中の1952年、オードリーは当時婚約中だったイギリス人ビジネスマン、ジェームズ・ハンソンとの結婚式で着るためのウエディングドレスを試着するために、ローマのデザイナー、フォンタナ姉妹のブティックを訪れる。彼女が腕を通したのは全身シルクでできたミディアム丈のボートネックドレスだ。
しかし、1年間の婚約期間の後、オードリーは俳優としてのキャリアを優先し、婚約を破棄。ハンソンもそれを受け入れ、2人はその後も生涯交流を続ける。そして、シルクのウエディングドレスはどうなったか?
「私のドレスを他の女の子の結婚式で着て欲しい。できれば、高価なドレスを買う余裕のないイタリア人の女の子に」というオードリーの意思に従い、フォンタナ姉妹によってアマービレ・アルトビラなる貧しい女性に寄付されたのだ。その後、2009年、オードリー最初のウエディングドレスが23,000ドルで落札され、カタログにはアルトビラから『私はこのドレスのおかげで幸せな結婚生活を送ることができました』とのコメントが添えられていた。
実生活では、『ローマの休日』から約2年後、グレゴリー・ペックが主催するパーティでアメリカ人俳優のメル・ファーラーと出会い、恋に落ちたオードリーは、1954年9月25日、スイス・ビュルゲンストックの教会で結婚した。その際にピエール・バルマンがデザインしたサテンのサッシュ、ボールガウンスリーブ、ハイネックのフレア丈ドレスに肘までの手袋を合わせた。
その結婚は一旦休める貴重な時間であり、1960年7月には息子となるショーンが誕生した。その人生を賭けて家庭人であろうと務めたオードリーの夢が叶った瞬間でもあった。その後、オードリーは度重なる流産、セレブカップルにありがちなスポットライトの落差、双方の不倫の噂などで、1968年にピリオドが打た。
それから6週間後、傷心のオードリーがエーゲ海ヨットクルーズで出会った9歳年下のイタリア人精神科医、アンドレア・ドッティと出会い、スイス、モルジュの町役場で、電撃結婚した。なんとドッティは14歳の時、『ローマの休日』の撮影中にオードリーと握手していて、その時、母親に「いつか彼女と結婚する」と宣言したという偶然もあった。
急激に愛を深めて、そして、オードリーは旧友のジバンシィがデザインした薄いピンクのファルネックのミニドレスに、白いタイツとバレエシューズ、頭に巻いたヘッドスカーフもというエイジレスなドレス姿となった。9歳になる長男ショーンと、この結婚を誰よりも後押ししていた親友のドリス・ブリンナー(ユル・ブリンナー夫人)と俳優のキャプシーヌ、そして、この恋が生まれたヨットのキャプテン、ポール・ウェイレルたちだったという。いずれのウエディングドレスも、オードリーというファッションアイコンの際立つ美しさにデザイナーが触発されて作られたものだった。
ハリウッドの女優達の中でも、いつまでも記憶に残る、オードリー、マリリン、エリザベスは一度ならずも結婚、離婚を繰り返す。美しさゆえに、出会う男性が夢中になれば、はたまたメディアに相手役同士の二人が恋に落ち、不倫を取り沙汰すと話題になってしまう為だったろう。注目される幸不幸を多く経験する宿命の美女たちのウエディング姿は一回では終わらなかった。
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