2024年1〜3月に自宅で死亡した警察庁の集計を5月13日、衆議院で明らかにされた全国統計で計2万1716人(暫定値)に上ったと分かった。
うち65歳以上の高齢者が約1万7000人で8割近くを占めることが明らかになった。これをもとに推計すると、日本の65歳以上の“孤独死”は年間約6万8000人にのぼる。高齢者を孤独死させたくない、あるいは私たち自身が孤独死したくないのであれば、ひとりひとりが公共交通にもっと関心を持たなければならない。
内閣府によれば、孤独死とは「誰にも看取られることなく亡くなった後に発見される死」と定義している。
なぜ高齢者の孤独死は増え続けるのか。実際、高齢者はどれほど社会・地域から孤立しているのだろうか。
内閣府の「令和5年度 高齢社会対策総合調査」によると、60歳以上の高齢者の外出頻度は、年齢とともに減少する傾向にある。具体的に見ていくと、60〜64歳では「ほとんど毎日外出する」割合が85.0%と高い水準にあるが、年齢が上がるにつれてその割合は低下し、75歳以上になると60.4%まで下がる。一方、「週に1回程度」「ほとんど外出しない」と回答した人の割合は、年齢とともに増加傾向にある。60〜64歳ではそれぞれ2.8%、0.9%と低い割合だが、75歳以上になると7.4%、6.7%と6倍以上に跳ね上がる。
「ほとんど外出しない」と回答した人の割合は、70〜74歳の2.7%から75歳以上では一気に6.7%と2.5倍以上に増える。
また、「週に2〜3回程度」の外出頻度も、60〜64歳の10.0%から75歳以上では23.3%と2倍以上に増加しており、全体的に年齢と共に外出頻度が低下していく傾向が見て取れる。
この外出頻度の低下には、加齢にともなう身体機能の衰えだけでなく、「移動の困難さ」が大きく影響していると考えられる。同調査では、外出時の“交通手段”についても尋ねている。それによれば、75歳以上の高齢者のバスや電車などの公共交通機関の利用割合は23.3%で、60〜64歳の40.3%と比べて大幅に低い。一方で、徒歩の割合は75歳以上で47.6%と、60〜64歳の30.3%よりも高くなっている。
これは、バスや鉄道の本数が少なく、運賃も高いといった公共交通の利便性の低さが、高齢者の外出を阻む一因となっていることを示唆している。特に、地方都市や過疎地域では、公共交通ネットワークの縮小が進み、自家用車を持たない(加齢で運転ができなくなった)高齢者にとって、外出そのものが困難な状況が生まれている。交通利便性の低さは、高齢者の社会参加の機会を奪い、人との交流を途絶えさせる。
「行きたくても行けない」
状況が、やがて孤独死へと向かうのだ。高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を送るためにはモビリティの確保、すなわち
「年齢や身体能力に関わらず利用しやすい公共交通サービス」の提供が欠かせない。それは、単なる移動手段の確保にとどまらず、高齢者の社会とのつながりを維持する上で重要な役割を果たすからである。
そこで参考にすべきは、各地で実施されている地域が一体となって公共交通のアクセシビリティ向上に取り組む動きだ。
先進事例として、富山市の「お出かけ定期券」などが挙げられる。高齢者の外出を支援するため、路面電車・バスが定額で乗り放題になるサービスで、利用者から好評を博している。このような、高齢者が自動車にかわって公共交通を利用できる環境づくりを進めることが、高齢者の社会参加を支え、孤独死防止につながるのだ。
コミュニティーバス・デマンド交通の利点
また、免許返納を機に交通手段を失った高齢者のために、タクシー利用を補助する自治体も増えている。路線バスが消滅した地域では
・コミュニティーバス
・デマンド交通
の整備も促進されている。さまざまな交通手段を整備することで、高齢者の外出のハードルを下げ、社会参加を支援することで、孤独死のリスクを着実に減らしていくことが期待できる。では、交通弱者の対策として期待されるコミュニティーバスや、デマンド交通の利点や問題点は何だろうか。
国土交通省が2019年に公表した「多様な地域公共交通サービスの導入状況に関する調査研究」報告書によれば、コミュニティーバスやデマンド型交通サービスの導入は、一定の効果を上げているとしている。
この調査では
「デマンド交通で高齢者や障害者の移動支援を主眼に置き、特定の地域や年齢層を対象とした利用実態調査を行った自治体において、利用者増加の割合が高いこと」
とする。また
「ヒアリング調査でも、高齢者の足の確保を目的とし、地域の実情を丁寧に把握した上で、地元関係者とも緊密に連携しながら運行形態を検討した事例で、利用者の着実な増加が確認された」
という。つまり、地元のニーズを十分に調査した上で運行を実施すれば、確実に交通弱者の対策になるということだ。
しかし、その一方で課題は残る。調査結果の考察では「財政負担の増大や担い手不足など、持続可能性が危ぶまれるケース」も少なくないとしている。こうした課題の克服に欠かせないのが、テクノロジーの活用であろう。例えば、デマンド交通への人工知能(AI)の導入は進んでいる。
岡山県の中央部に位置する久米南町ではAIを用いた効率的な運行が行われている。同町では2016年からオンデマンド交通「カッピーのりあい号」の利用効率の低さが課題となっていた。そこで2020年、AIを活用した新たな配車システムを導入、時刻や運行ルートの制約を撤廃し、町内どこでも自由に乗降できる利便性の高いサービスを実現した。この結果、年間利用者数は2019年の8400人から2020年は1万1800人へと1.4倍に増加。さらに、利用者の時間帯別分散にも成功し、車両数を6台から5台に削減し、約600万円の経費削減を達成している。
加えて、町内の飲食店の宅配サービスとの「貨客混載」も実現するなど、地域の利便性向上にも寄与している。大阪府河内長野市でも、2019年12月からAI運行バスが導入されている。同町では高齢化が進むニュータウンにおいて、住民の新たな足として機能しており「すぐに来てくれる」「荷物を持つ必要がない」と好評だ。
AIによる効率化のほか、自動運転の実用化も進んでいる。こうした、テクノロジーによって、先の国土交通省の報告書に挙げられた課題は次第に解決されていくことになるだろう。
モビリティの充実は、高齢者の社会参加を促し、孤立を防ぐためのインフラ整備である。しかし、これらは高齢者だけを対象とした福祉としてのみ存在するわけではない。さまざまなテクノロジーを導入して問題を解決することは、さまざまな分野での技術発展の契機ともなるはずだ。だからこそ「老人への投資」をやめてはいけない。
c Merkmal 提供
2024年05月20日
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