下記は、『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉による新書)の一部を再編集し、下線はこちらで分かりやすく加筆したものです。
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◆ネイティブだって、完璧な英語を使えていない
【トモヤ】日本人選手が英語を話そうとしない大きな理由が、相手にどう思われるかを気にしすぎているからなのは間違いない。それだと、使う機会が減ってしまうから習得も遅くなる。
僕はプロのジャーナリストとして、英語でインタビューしたり記事を書いたりしているけど、文法や語法の間違いなんてしょっちゅうおかす。それでもアメリカの現地新聞でキャリアを築くことができた。
日本人選手であれば自分がやらかしそうなミスを防ぐ手立てを考えたり、言語のハンデを埋められる別の能力を身につけたりすればいい。そもそもネイティブだって、完璧な英語を使えているわけではない。でも、日本人は、文法も語法も発音も完璧にするということに価値を置きすぎている。そんなことは不可能で、とてつもなく費用対効果も低いのに。
◆プロセス重視か、結果重視か
【トモヤ】逆に、中南米から来た野球選手の多くは、文法も単語も初歩的なレベルだけど、躊躇なく英語を話すよね。(アルファベットで読み書きする南米と、漢字圏の日本人とでは、読み書きの初歩的基本構造が全く違う。南米選手は言葉の壁は低いが、日本人選手は「英語を学ぶのは学習努力」がいる)
【ディラン】一つには、アメリカに来る過程の違いもあると思う。中南米からの選手は、たいていの場合、貧しい暮らしをしていて、16歳くらいで契約する。通訳がいるとは限らないから、英語を話せるようにならざるを得ない。それに対して、日本からの選手は、すでにプロで活躍してきた億万長者だから、通訳をつけるよう交渉できる。英語を話そうとするときの乗り越える壁の高さが違う。南米の選手でも通訳を通してインタビューに応えれいる場合もある。
文化の違いってことでいえば、日本人はプロセスを重視する。アメリカ人が、「俺たちはプロセスを大事にする」なんて言うけど、クソ食らえだよ。日本人のメンタリティーと比べれば、アメリカ人は結果重視でしかない。それがあるから、日本の選手は技術的に優れているけど、競争者としてはダメなところがある。「過程」を完璧にすることにとらわれてしまうから。
【ディラン】大谷はその点では、普通の日本人と違う。完璧でなくても構わない。それよりも勝ちたいと思っている。そういう面で自分の文化を乗り越えている。WBCメキシコ戦の9回に打った球は、明らかなボール球だった。普通の日本の選手だったら、100人中99人は、あの球を振らないと思う。でもラテン系の選手たちは振る。そのメンタリティーが、野球に限らず色々なスポーツで彼らの有利に働く。
中南米では、即興が全てみたいなところがある。世界最高のサッカー選手の多くがラテンアメリカ出身なのには理由がある。彼らはのびのびと自由にサッカーをしてきた。ロナウドやマラドーナはその典型。型にはまっていないから、信じられないようなプレーをする。大谷も、そうした偉大な選手だと思う。
◆周りを気にしすぎない日本人三選手
大谷とイチローと野茂英雄が、僕にとって日本の偉大な三選手なんだけど、その理由は周りのことを気にしすぎなかったから。
ダルビッシュ有は日本人じゃないという日本の記者がいたんだけど、僕からすればダルビッシュは普通の日本人以上に日本人ぽい。ハーフであるという自意識が強いがゆえに、いつも自分は日本人であることを証明しようとしてきたんだと思う。
アメリカに来た当初は、「日本の野球を代表してここに来ている」といつも語っていた。日本の打者と対戦した時は、いつも相手の日本的な技術を褒め称える。三振に切ってとった相手に対してもだよ。彼には、周りの人のことを考えすぎてしまうところがある。メジャーは競争の激しい世界で、ある意味「嫌な奴」にならないと生き残っていけない。
【ディラン】マーケティングの観点で言えば、大谷が英語を話すかどうかは関係ないと思う。でもチーム内での人間関係においては影響はあると思う。
たとえば、サッカーの中田英寿はすごかった。何カ国語も習得していて、プレーしていた国の言葉で意思疎通できていた。イタリアでの初めての記者会見を、イタリア語でやってのけるんだから。チームメイトやコーチとコミュニケーションをとる術を身につけていた。中田と同世代で天才と呼ばれていた財前宣之は、同じイタリアに行った時に、言語の壁が原因で無理をして膝を故障してしまい、期待通りのキャリアは送れなかった。
大谷には素晴らしいコミュニケーション力がある。前にも話したけど、WBCの決勝戦の前のチームメイトへのスピーチは美しかった。チームのリーダーになる資質もある。だから、完ぺきな英語を話せなくても、コミュニケーション能力が高ければ、リーダーは可能だ。
【トモヤ】ESPN(アメリカのスポーツ専門チャンネル)コメンテーターのスティーブン・A・スミスが、大谷が通訳を使っている限り野球界の「顔」にはなれないと発言して、アジア人コミュニティーから人種差別であるとの批判を受けた。
【サム】そもそも、大谷が野球の「顔」になるためにメディアと話す必要なんてないことを理解した方がいい。英語を話す必要はないし、アメリカ文化を受け入れる必要もない。彼は好んで受け入れているみたいだけど。
大谷が野球界の「顔」となれたのは、フィールドでの大活躍やいつも真摯な立ち居振る舞い、チームメイトとの接し方、そういったことが理由だよ。
彼が英語を話すのを聞いたことはある。CMや23年のオールスター戦の前なんかにも話していた。英語を話す人たちと一緒にいる時は英語を話している。彼は自分がやりやすいようにやっているんだと思う。
【サム】公のインタビューでは話さないから、一般の人には英語を全く話していないと思われるんだろうね。
でも、誰かにもっと英語で話せなんて言うつもりはない。もし、僕が第二言語を習得していたら、他の人にも、もっと使った方がいいとか言うのかもしれない。でも僕は英語しか話せないし、新しい言語を習得する予定もない。だから偉そうに批判なんてできない。文化の違いもあるのかな。僕に言えるのは、日本語で話している大谷は、アメリカではもちろんのこと、世界でも絶大な人気があるということ。
女子プロレスで初の世界殿堂入りしたブル中野は、ノーペーパーでアイコンタクトも巧みに英語スピーチを行って喝采を浴びた。
話の中で、かつては英語は全くできなかった為、大変に苦労したというが、どうして堂にいった謝辞を述べて見事な女子チャンピンは健在だ。
1983年に全日本女子プロレス(=全女)でデビュー、1985年に「ブル中野」に改名するとブレイクを果たし1990年にはWWWA世界シングル王座を獲得する。1993年からはWWF(現WWE)に参戦、1994年11月20日の全女・東京ドーム大会でアランドラ・ブレイズ(メドゥーサ)を破ってタイトル奪取。WWE・CCOのトリプルHは自身のX(旧ツイッター)で「史上最高の女子レスラーの一人であるだけではなく、史上最高のレスラーの一人」と最大限の賛辞を送っている。WWF、日本、そしてメキシコCMLLで王者になっている。当時WWFとの二大勢力だったWCWでも活躍した。確かな技術、強い精神力、表現力などレスラーとしての評価が非常に高い。
97年に現役引退後(2012年に引退興行)は、プロゴルファー挑戦なども話題となった。
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