日本のひとり親世帯の44.5%が相対的貧困に該当し、OECD加盟38か国中、8番目に高い。OECD(経済協力開発機構)平均の31.9%を大幅に上回っている。しかも、等価可処分所得が100万円以下の層は、3年前より増えてしまっているのだ。
公的制度の不備も日本のシングルマザーたちを苦境に追いやっている。離婚後、子どもの養育費を払おうとしない父親の多さが原因の一つだ。妥当な水準の養育費を払っている父親は「全体の10%から20%」だという。実は、世界では行政主導で養育費の不払いがおきないようにしている国や地域が少なくない。
例えば、ドイツ、フランス、スウェーデン、フィンランド、韓国は行政が未払いの養育費分を立て替えて支給する。そして、そのうちのフランスと韓国は、払おうとしない親(大半は父親であろう)から取り立てもする。フランスは税の徴収官が動き、韓国では給与からの天引きがある。立て替え制度はないものの、イギリスやアメリカのニューヨーク州やカリフォルニア州では、やはり給与からの天引きなどで強制的に徴収する。ドイツやフランスは刑事責任を課すことも可能となっている。
懲罰的な措置もみられ、意外と多いのが「運転免許の没収や一時停止」だ。イギリス、アメリカの上記2州、韓国で実施されている。アメリカはとりわけ車社会なだけに、免許を取り上げるのは効果がありそうだ。
ちなみに、アメリカのその2州では「宝くじの賞金没収」というのもある。かの国の人たちの宝くじ好きが、こんなところに顔を出していて興味深い。
日本の場合、養育費に関してこうした行政の立て替えや強制徴収、懲罰は、存在しない。
その理由は、親権の問題だ。日本の民法には離婚後に父母の双方が親権を持つ「共同親権」が存在しない。親権を両方に認めるのではなく、殆どの場合が母親だけの親権になる。これが、シングルマザーに過度な責任感を押しつける。そして、元夫の責任感を希薄にさせる結果になると指摘される。
ただ、映画に登場する弁護士は、「少なくないシングルマザーが元夫から養育費を受け取ろうとしない」とも明かす。「離婚できれば、もうそれでいい」「子供に父親を会わせたくない」といった気持ちからだが、これも変えねばならないと強調される。
養育費が着実に支払われるよう、法整備を期待するシングルマザーの声が映画で紹介されている。これに関しては、最近、前進がみられた。1月30日、法務省の法制審議会家族法制部会が、夫婦の合意を前提に「共同親権」を認めるという民法改正の要綱案を決定したのだ。
法務省は3月に改正法案を国会に提出する方針だという。映画では、この動きが実現すれば養育費不払いの問題が改善へと向かうのではないかという専門家の見方が示される。
『The Ones Left Behind』は複数の海外映画祭で賞を得たほか、昨年、宮古島国際映画祭のドキュメンタリー部門で最優秀作品に選ばれた。マカヴォイ監督は続編の制作に意欲を示している。取り残されるシングルマザーを一人でも減らすには、その実像を観ることが第一歩となる。
出典 現代ビジネス
2024年02月28日
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