スウィフトは、Z世代(おおむね1997〜2012年生まれ)を中心に、働き盛りのミレニアル世代(同1981〜96年生まれ)やX世代(同65〜80年生まれ)、さらにはベビーブーム世代(同46〜64年生まれ)の一部にまで愛されている数少ないアーティストの1人だ。ほぼ無名のカントリー歌手としてスタートしたスウィフトが、どうやって世界的なスターとなり、2023年には音楽配信大手スポティファイで最も再生された(全世界で261億回以上)アーティストになったのか。
社会現象ともなってきたスウィフトを大学で研究テーマに選ぶ学生もいる。それだけではない、名門校のカリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学でウィフト研究がカリキュラムに取り入れた。スタンフォード大学、アリゾナ州立大学、テキサス大学オースティン校もスウィフトの社会的重要性やフェミニストのアイコンとなった過程などを学べる講座を既に提供している。
こうした動きは米国外にも広がっている。英ロンドン大学クイーンメリー校は夏期講習で独自のスウィフト講座を提供。ベルギーのゲント大学の英文学の授業では、学生はスウィフトの歌詞と古典的な散文を比較する試みに挑む。
さまざまな企業のマーケティング戦略の文化的側面についてコンサルティング活動をするアナリサ・ナッシュ・フェルナンデスはカギは勢いだと語る。「スウィフトは若手女性カントリー歌手というニッチな分野からスタートし、新しいトレンドやサウンドを戦略的に取り入れながら巨大なファン層を築いてきた」
スウィフトがこれほど多くの世代に支持される理由の1つは共感しやすさだと、フェルナンデスは指摘する。男性中心の業界で女性として活躍する難しさや、体形についての葛藤、恋人や女友達との関係など、スウィフトのあらゆる経験がファンの共感を呼ぶ。だから世代やジェンダーを超えた支持を集めているのだと、フェルナンデスは言う。
フェルナンデスは、「現代社会でエンゲージメントを最大化する方法を学ぶ上で、スウィフトは完璧なケースになる。社会学、人類学、ジェンダー研究、メディア研究、経営などさまざまな要素が含まれる」と高く評価する
スウィフトを研究したことを就職活動でアピール材料にできるという声もある。大学受験コンサルタントのエリック・エンは大学が受験生に、そして企業が新卒者に求める要素は極めて現代的なものになってきていると、語る。
「今は、ユニークなことを学んだ学生がかつてないほど貴重と見なされる」と、エンは語る。「スウィフトのようなポップカルチャーの象徴を扱う科目は軽薄だと思うかもしれないが、それを履修することで得られるプラス面をよく考えるべきだ」
希望する企業から内定をもらう直接的な助けにはならないかもしれないが、履歴書が採用担当者の目に留まりやすくなるのは間違いないだろう。伝統的な学問分野だけでなく、文化的に意義のある分野を探求する意欲や関心があることもアピールできる。
米国勢調査局によると、全米の大学生の数は2022年現在で1730万人余り。この数字が物語るのは就職活動における熾烈な競争だ。学生たちが求めるのは、企業の人事担当の目に留まるようなユニークな履歴書。独創的な選択科目を受講するのはそのためでもある。州内出身者に適用される4年制の州立大学の授業料は平均して年間2万4000ドル超。私立大学のハーバードの学費は2倍以上にもなる。卒業後もずっと学費ローンの支払いに追われるのだから、最終学年くらいは創意工夫に満ちた(つまりは面白い)講座を受講したいと思うのは自然なことだろう。
バークレー校のスウィフト研究講座の講師を務めるクリスタル・ハリアントは、何カ月もかけて講義内容を用意した。この講座は今年の春学期、同校のハース・ビジネススクールで開講する。性差別的な風潮が色濃く残る音楽業界で、彼女はあらゆる言動を絶えず詮索され、批判されてきた。それでもバッシングや嫌がらせの嵐に負けず、キャリアを切り開いた、そこから学べることは多いはずとの見方である。
ハリアント自身、バークレーで経済学を専攻して卒業したばかりの21歳。本業は経営コンサルティング会社のアナリストだが、8歳の時からファンだったスウィフトについて講座を持つ話が舞い込んでくると、絶対やらなくてはと思った。
これまでにも、リアリティー番組のスターから一大ビジネス帝国を築いたキム・カーダシアンや、歌手のビヨンセやレディー・ガガなど、ポップアーティストをテーマにした講座はあった。だが、スウィフトはアメリカ社会に「多面的な影響を与えている」ため、より研究価値が高いとハリアントは考えている。
「スウィフトは商業的に大きな成功を収めると同時に、アーティストとしても進化してきた。伝統的な学術研究とポップカルチャーの研究を結び付ける最高の存在だと思う」と、ハリアントは言う。「彼女のような『大物』を生み出すテクニックを解明することにも意義がある。スウィフトのマーケティングやビジネス戦略、世界中で共感を呼ぶスキルは、学生が就職したとき役に立つだろう」
かつてのレーベルで発表した楽曲の原盤権をめぐる争いであれ、最新のツアーを世界的なパーティーにするという企画であれ、スウィフトのキャリアを学べば、学生たちが将来どんな仕事に就いても役に立つだろう。「既成概念にとらわれない思考を促す科目を履修したことは、就職活動でもプラスになるはずだ」と、ハリアントは語る。「複雑化する現代の職場は、多面的な視野を持つ従業員を求めている。ユニークなカリキュラムを通してそうした視点を得られる」
ボブ・ディランがノーベル賞を授与されたこともあり、テイラー・スウィフトも現代を代表するアーティストの1人として、歴史に名を残すのは間違いない。そんな彼女を研究することは、確かに現代を理解する切り口になりそうだ。
スウィフト自身も、2022年のシングル「Bejeweled/ビジュエルド」で歌っている。「そろそろ、いろいろ教えてあげないとね」と。
出典 ニューズウイーク日本語版<アリス・コリンズ 2024年2月20日号抜粋>
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