香川さんは、外国人投資家と個人投資家の動向に注目している。特に東京市場の売買高で7割くらいを占めるのが外国人投資家と指摘する。
まず、「外国人投資家が日本株を見直して買っている」と香川さんは話す。最近の物価上昇もあり、長く続いたデフレ経済から日本が脱却しつつあり、物価が上がると預金中心の個人や企業も預金の資産価値の目減り対策から投資に動き出すだろうと、海外の人たちはみているという。
さらに、東京証券取引所が企業に株価是正の対策を要請した効果もあるとみている。具体的には、株価を1株当たり純資産(PBR)と比較して改善すること。PBRが1倍にも満たない企業は、解散して資産を売却した金額にも達していないことを意味する。これは異常でないかというわけだ。企業側は株価対策として、自社株買いや配当金の充実、収益拡大につながる中期経営計画などを打ち出してきた。こうしたこともあり、香川さんは企業収益が今後も増益基調にあるとみている。
もう一つは、アジア市場で日本の位置づけが再認識されたという。中国経済は不動産バブル崩壊による調整が進みつつあり、株価も下落が続いている。香川さんは「海外投資家が中国投資を直接、間接とも減らし始めている」と指摘する。工場建設などの直接投資だけでなく、株式購入など間接投資も減らし、それに代わって、安定感のある日本や、インドに投資先を移してきている。
日本は直接投資の対象としても、見直されている。台湾の半導体大手メーカーが熊本県に工場をつくる動きも出ている。政治的なリスクなどで、日本の安定性が評価されているという。
楽天証券チーフグローバルストラテジストの香川睦さんは、一般の個人投資家が株式投資を考える際には「長期、分散、積み立て、低コスト、節税投資」の5つを念頭にとアドバイスする。香川さんは今後の日経平均株価について「今年は3万8000円を超えてもおかしくない。来年は4万円の水準も状況次第で考えられる」とみている。一方、足元の株価は「上昇ペースが速すぎたので、もみ合っている」と香川さんはみている。3月末までに底値を固めて、その後は上がっていく可能性があるという。
「楽天証券では若い人や女性の口座が増えています。ネットに対する抵抗感が若い人たちにはありません」と話す。国内の個人投資家にも、バブルやその崩壊の痛手を経験していない世代が増えて、米国株投資などで成功した人も少なくないとみている。そんな個人投資家の資金が、日本の株式市場にも入っているといわれるようになったからだ。こうした動きが、最近の日本株上昇の背景にある。
さらに、楽天証券などのネット系証券が取引手数料をゼロにするなどでネット系なら、売買手数料などのコストがかからない、口座開設が増えているので、株価を押し上げている要因になっている。
今後も日本株が堅調に推移する場合、一般の個人投資家にとって、どんな投資行動が考えられるのだろうか。
「個人投資家は個別株を選んで投資する時間がないかもしれません。個別株の売買で、プロにはかないません」
そう話す香川さんは、冒頭で紹介したように、5つのキーワードでアドバイスする。まずは長期投資。インフレで預金の資産価値が目減りしても、たとえば米国株投資ではインフレを上回る成績になっているという。短期投資は株価変動の影響を受けやすいが、長期でみれば上昇を期待しやすくなる。
分散投資も重要だ。香川さんは「個別銘柄では当たるとは限らない」と話す。具体的には、株式市場の代表的な指数に連動したインデックスファンドへの投資もいいとみている。
積み立て投資は、毎月や隔月など少額から、こつこつ投資するもの。積み上げていくだけ、複利で資産拡大が期待できる。「楽天証券では月3万円ずつとか、多い人で月10万円くらいを投資している方もいる。途中で株価は上下変動するが、最後に資産全体が増えていればいい」と香川さんは話す。
香川さんは「できるだけ安いコストのインデックスファンドなどへの投資を考えてみるのもいい。正味のリターンをできるだけ落とさないようにするのも重要です」という。
外国為替相場に影響が大きいのは金利の動向。お金は金利の高い国に流れていく。「日本株のリスク要因は円高。円高がどんどん進むと、自動車会社のような輸出企業の業績は苦しくなる」と香川さんはみている。米国はインフレリスクの高まりを受けて、利上げを繰り返してきた。一方、日本は超低金利を続けている。日米金利差の拡大で、ドル高・円安が進んできた。為替の動向を見ていく事は外せない。
最近の米国はインフレリスクが落ち着いてきて、さらなる利上げの可能性が後退している。一方、日本は賃上げが続けば、超低金利の金融政策が見直される可能性が高まっている。日米金利差が縮小すると、円高・ドル安になりやすい。
最後は節税対策。株式や投資信託などの金融商品に投資すると、受け取る配当金や、売却で得た利益に約20%の税金がかかるが、この税金を一定限度で非課税にする制度を政府が用意している。’14年に始まったNISAや、今年開始された新NISAだ 。これを活用するのがお得になる。
個人の投資家は、コアとなる資産を新NISAなどで運用し、それでも将来の老後資金などが不足するとみているのであれば、「その他のサテライト資産をインドのインデックスファンドで運用するのも考えてみてもいいかもしれない」と香川さんは話す。
参照 フライデーDesital (2/8)
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