ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は29日に、首都キーウ(キエフ)で時事通信の単独インタビューに応じた。ダニロフ氏は、ゼレンスキー大統領が議長を務め、国防相ら主要閣僚が参加する国家安全保障・国防会議を統括している人物だ。インタビューの際に、「これは過去の戦争とはまったく異なり、技術が勝敗を左右する」と説明。人工知能(AI)や無人兵器などの先端技術をいち早く確立させた国が優位に立つと述べ、技術開発に全力を挙げる考えを示した。ロシアがウクライナに侵攻したことで国家崩壊に向けて歩み始めたと指摘し、「ロシアは10年以内に崩壊する。西側諸国はそれに備えるべきだ」と訴えた。
ダニロフ氏は、ロシアについて「ずうたいは大きいが、脳みそは小さい恐竜だ」と評し、「現代社会で生き残れない」と強調。全面侵攻で莫大な資金と多くの兵力を失い続けているとして、「ウクライナ軍がロシア崩壊のプロセスを加速させている」との見方を示した。
ロシア軍は、北朝鮮から砲弾100万発以上の提供を受けたとされる圧倒的な物量に物を言わせ、ウクライナ東部ドネツク州アウディイウカやその周辺で徐々に進軍している。ミサイルやイラン製の自爆型ドローン「シャヘド」などを使った全土への空爆も激化させている。それに対してもダニロフ氏は「ロシアは他の専制国家から武器を提供されて戦力を強化したが、それは一時的なものにすぎない」と主張。「1平方メートルのウクライナ領を侵略するたびに、多大な犠牲を払っている」と述べ、ロシアが攻勢を長期間維持するのは困難だと予想した。
ロシアによる侵攻が始まると、ウクライナでは18〜60歳の男性の出国が禁じられた。多くの国民が愛国心をたぎらせた一方で、一部には社会的な圧力や当局の警告を受けても戦闘を拒否した人もいた。
自ら志願して従軍したウクライナのイワン・イシチェンコさん(30)は、ロシアによる侵攻に立ち向かった。だが前線に送られて1か月もすると、大金を払い、懲役刑のリスクを冒してでも逃げ出したいと思うようになった。イシチェンコさんは「参戦するまで、自分はスーパーヒーローだと思っていた。でもこの目で戦場を見て自分の居場所ではないと悟ると、英雄気分は消えた」と吐露した。
「脾臓の辺りを撃たれた人を見た。痛みでのたうち回っていた。斬り落とされた頭部も見た。そういうことが全て積み重なり…これ以上は見たくないと思った」
そしてイシチェンコさんはある日、母親以外誰にも告げずに脱走し、ウクライナを出国した。こうした行動に出たのは、イシチェンコさんだけではない。
イシチェンコさんは5000ドル(約70万円)を支払い、政府関係者用のナンバープレートを付けた車にハンガリーとの国境の森まで送り届けてもらった。そして、国境フェンスに開いた穴をくぐり出国した。
国境警備隊のアンドリー・デムチェンコ(Andriy Demchenko)報道官はAFPに対し、侵攻開始以降、検問所以外の場所から国外に出ようとした1万3600人が当局に拘束されたと明らかにした。また、偽造文書を用いて国外脱出を試み、拘束された者も6100人に上り、ほぼ全員が徴兵対象年齢の男性だったという。AFPは政府関係者に対し、徴兵逃れや脱走兵の人数を問い合わせたが、具体的な数字は得られなかった。
1月には法改定で罰則が強化され、徴兵逃れには5年以下の懲役、脱走兵には12年以下の懲役が科されることになった。ロシア軍に対する反転攻勢で苦戦を強いられる中、ウクライナ政府は同時進行で、徴兵逃れをめぐる取り締まりに乗り出している。
8月には、全州の徴兵責任者が解任された。捜査当局によると、「ほぼ全ての州で大規模かつ組織的な取引が発覚した」という。
今年5月、5000ドルを支払って偽の診断書を入手し、兵役を免除され国外に脱出したという24歳の男性は、徴兵逃れの方法があるということは誰でも知っていると語った。
【2023年9月1日 AFP】(c)AFP/Barbara WOJAZER and Helene DE LACOSTE
【関連する記事】