年齢とともに栄養を消化吸収する機能が低下してくるため、60歳以上の人が若さと健康を保つために、しっかり食べて栄養補給することが必要不可欠です。60歳前後になってくると、食が細くなってくるし、便の量が減り、腸の動きが弱くなって、さらに食べなくなるという、負のスパイラルに陥りかねません。
何より注意していただきたいのは、たんぱく質不足です。毎日の食事の中で、たんぱく質をしっかりとらないと加齢とともに筋肉量が減少し、かつ筋力が減少した状態である「サルコペニア」を招きやすくなってしまうからです。サルコペニアになると、そこから「ロコモ」へ進んでしまう人が出てきます。ロコモとは、ロコモティブシンドロームの略で、運動器(骨、関節、筋肉)に障害があるために、歩行や筋力、バランスなどが低下し、日常生活に影響が出つつある状態、あるいはすでに影響が出ている状態のことで、ひとりで自由に移動することがままならなくなっていきます。
60歳を過ぎてたんぱく質をはじめとした栄養不足と運動不足により、サルコペニアが発生すると、やがてロコモに、さらにはフレイルへと進行してしまい、要介護の状態に近づいていく可能性があるわけです。フレイルとは、英語で「虚弱」を表す言葉です。世界共通基準はまだないのですが、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下など、さまざまな症状がいくつも重なっているような状態のことをいいます。
サルコペニアのような身体的な問題に限らず、認知機能の衰えなど、精神的・心理的問題、一人暮らしや経済的困窮などの社会的問題なども含んだ考え方で、要介護状態の前段階と位置づけられています。
実際、日本人の食事摂取基準2020年版では、高齢者のフレイル及びサルコペニア発症予防の観点から、たんぱく質の目標量の下限値が、50〜64歳で1日の総摂取エネルギー量の14%、65歳以上で15%と、それぞれ13%から引き上げられました。高齢者の場合は体重1kgあたり1gのたんぱく質を摂取する必要があります。
例えば、体重45kgの女性なら1日45g、65kgの男性なら1日65gのたんぱく質が必要になります。
今現在、まだ介護とは無縁の方でも、60歳を過ぎたら要介護の最初のきっかけとなりやすいサルコペニアを防ぐためにも、食事からしっかりたんぱく質を摂取するよう、十分に注意してください。
日本人の食事摂取基準2020年版によると1日のたんぱく質推奨量は、15〜64歳の男性が65g、65歳以上の男性が60g、18歳以上の女性が50gです。欲を言えば、毎食少なくとも20gずつとるのが理想です。
たとえば、以下のような食事です。
【朝食】 食パン8枚切り2枚/8.0g+卵1個50g/6.1g+牛乳(180ml)/6.1g=合計たんぱく質20.2g
【昼食】 ごはん軽く1杯(120g)/3.0g+鶏もも肉(80g)/15.2g+プロセスチーズ1個20g/4.5g=合計たんぱく質22.7g
【夕食】 ごはん軽く1杯(120g)/3.0g+さけ1切れ(80g)/17.8g+納豆小パック(20g)/3.3g=合計たんぱく質24.1g
毎食、たんぱく質を補い、しっかり食べてサルコペニアを予防していきましょう。
高齢者の場合は体重1kgあたり1gのたんぱく質を摂取する必要があります。例えば、体重45kgの女性なら1日45g、65kgの男性なら1日65gのたんぱく質が必要になります。
近年、「野菜ファースト」や「ベジファースト」という言葉が広がりました。これは、食事の際、野菜を先に食べることで、血糖値の上昇を穏やかにし、糖尿病などの生活習慣病を予防するという考え方です。野菜に含まれる食物繊維には、糖質の消化吸収を遅らせるはたらきがあるため、「野菜ファースト」が健康的な食事法として推奨されるようになったのです。最初に野菜をたっぷり食べると空腹も和らいでくるので、それ以外の食品の食べ過ぎ予防につながり、ダイエットによいと考えられていました。
しかし、60歳を過ぎた方には「野菜ファースト」は基本的におすすめできません。なぜなら、野菜を食べることでお腹がかなり満足してしまい、肉や卵といったたんぱく質が食べられなくなってしまう人が意外と多いからです。小食の方は、野菜でお腹いっぱいになりやすいので気をつけてほしいです。日々の食事では、たんぱく質の摂取量をまず確保しないと、筋肉の量や質が低下し、「フレイル」を招きやすくなります。
60歳を過ぎた皆さんは「野菜ファースト」をやめて、肉や魚、卵、大豆・大豆製品から食べる、「たんぱく質ファースト」に切り替えましょう。それから野菜、最後にごはんという順序で、バランス良く召し上がることをおすすめします。
---------- 森 由香子(もり・ゆかこ) 管理栄養士 日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科人間生活科学専攻)修士課程修了。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、“食事からのアンチエイジング”を提唱している。2005年より、東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。『おやつを食べてやせ体質に! 間食ダイエット』(文藝春秋)、『1週間「買い物リスト」ダイエット』(青春出版社)など著書多数。 ----------
2023年12月02日
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