タンパク質は生命の構成要素であり、組織の強度と修復に不可欠です。その他、たんぱく質は免疫機能を維持する物質の材料になるので、不足すると免疫機能が衰えてしまいます。年を取ると風邪をこじらせて、肺炎などを起こして亡くなる高齢者が多いのは、たんぱく質の不足で免疫機能を弱らせてしまうのも一因です。
文部科学省の「食品成分データベース」によれば、各食品が含むたんぱく質の量は、卵1個(60g)に7.3g、ひきわり納豆1パック(40g)は6.6g、油揚げ1枚(30g)に7g、木綿豆腐1丁(約300g)に21gのたんぱく質が含まれています。肉の場合は、100グラムにつき、若鶏のモモ肉(皮なし)なら19g、豚ヒレなら22.7g、和牛サーロイン(脂身なし)なら17.1gのたんぱく質が含まれています。卵には最高品質のタンパク質が含まれています。卵は善玉コレステロールのレベルを改善します。卵は高密度リポタンパク質(HDL)レベルを上げるのに役立ち、これが卵が心臓病のリスクにほとんどまたはまったく影響を与えないことがわかっている理由の1つです。
肉にはセロトニンの材料となるアミノ酸・トリプトファンが豊富に含まれているため、食べると幸福感が高まる効果があります。脳内の神経伝達物質であるセロトニンは、意欲の向上やうつ病の防止に役立ちます。日々、何気ないことに幸せを感じられる人と何かにつけて文句を言う人がいますが、前者は脳内のセロトニンが多く、後者はセロトニンが少ないのだと思います。トリプトファンの含有量が多い肉は、豚肉ロース赤肉が100gにつき240mg、牛肉肩ロース赤肉が100gにつき230mg、鶏むね肉皮付きが100gにつき230mgになります。最近、元気がないというときは、これらの肉を食べると元気が出てくるかもしれません。
肉や牛乳の消費量は、平均寿命にも大きく関わっています。たんぱく質に含まれるコレステロールは免疫機能を強化する効果があるため、肉や牛乳を食べれば免疫力がついて、病気になりづらくなります。
他国を見ても、世界で最初に平均寿命が50歳を超えたのは、世界でも肉食と乳製品の消費量が多いことで知られるオーストラリアとニュージーランドでした。その後、20世紀の初めにアメリカやヨーロッパなどの肉や乳製品を食べる文化が根付いた国々の平均寿命が50歳を超えます。さらにその50年後となる戦後、日本人もたんぱく質をたくさん摂るようになり、ようやく日本人の平均寿命が50歳を超えました。
ここで「ならば、どうして世界各国の寿命を追い抜いて、日本人の寿命が世界で一番長くなったのか?」と疑問に思われるかもしれません。その理由は、欧米のように肉だけではなく、魚や大豆など複数のたんぱく質を摂取する食文化が根付いていたからだと考えられています。
食べ物は1つの食材に偏らず、満遍なく食べたほうが、体に必要な栄養素を多く摂取できるので、健康維持に効果的です。
たんぱく質をたっぷり摂る時間帯は、朝や昼など、できるだけ早い時間帯がベスト。人間の内臓は、時間帯によって動きが変わります。たんぱく質は、腸の中でアミノ酸に分解され、肝臓で消化吸収された後、それぞれの体にとって必要なたんぱく質へと作り変えられるのですが、それを行う肝臓は朝から14時くらいまでの間、活発に動きます。ですので、たんぱく質はこの時間帯に摂ることが、体への負担が一番少なくなります。
さまざまな食材の中でも、最も効率的にたんぱく質を摂取できるのは「肉」です。肉が苦手でなければ、できることなら毎日、1食は積極的に肉を食べてほしいと思います。その理由の1つは、肉に含まれているたんぱく質は分解と吸収が早いため、他のたんぱく質よりも、効率的に摂取することができるからです。
1960年代の日本人は、血圧が160mmHg程度でも脳卒中で倒れる人が珍しくありませんでした。一方、現代では、血圧200mmHgくらいある高血圧の人であっても、脳の血管が破れることはほとんどありません。つまり、現代の日本人の血管は、かつての日本人の血管よりも、太くて丈夫になっているのです。
「時間栄養学において最も重要なことは『朝食を摂る』こと」だそうで――。
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同じ食事の内容や量であっても、食べる時間帯によって体に悪影響を及ぼすこともあれば、栄養素の吸収率や効果を高め、老化や病気を予防する場合もある。ここには2017年にノーベル生理学・医学賞の授賞理由にもなった「体内時計」が深く関係する。
「体内時計の周期は、昼夜に合わせて体温やホルモン分泌など体内環境を変化させる機能の総称。人体のあらゆる細胞──胃や腸、肝臓、膵臓などの内臓器官をはじめ、皮膚や筋肉、血液に至るまで──には時計遺伝子が存在していて、細胞内で約24 時間を生み出しています。」
例えば、臓器の働きも一定でなく、それぞれに一日のうちで活性化する時間帯が異なる。肝臓は午前中、胃や膵臓は正午、腎臓は夕方以降に活動のピークがあるといわれ、体温や血糖値、ホルモン分泌も一日の中で変動がある。そういった体の仕組みを理解し、体内リズムに合わせて「何を」ではなく「いつ」食べるか。この視点から考えた食事法を「時間栄養学」という。最も重要なことは「朝食を摂る」ことだ。
体内時計は朝に太陽光を浴び、朝食を摂ることで一日のリズムを刻み始める。人では平均して24時間より少し長い周期でリズムを刻んでいるため、リセットしなければ体内時計は日々少しずつずれてしまう──。だが体内時計が乱れてうまく働かなければ、体の生理機能が最も働くべき時刻に活性化せず、さまざまな影響があるのだ。
農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員の大池秀明氏によると「朝食を摂取している人としていない人とでは、最終的に人生が変わるくらいパフォーマンスが違ってくる」という。
朝食を食べると頭が働く、もしくは食べないと頭が働かないということがわかります」
「人それぞれ何時が朝でもいいですが、起床後1時間以内にタンパク質を補給することが重要」と大池氏が続ける。
「起き抜けは栄養素が枯渇していて、その状態で動き続けると体は筋肉に含まれる貴重なタンパク質を分解し、生きるエネルギー(ブドウ糖)を生み出そうとする。筋肉が衰えますし、筋肉の時計だけが前に進み、体内時計の乱れにつながってしまうのです」
それでは朝に何を食べればいいのだろうか。
朝は脂肪の分解に関わる肝臓が活発に活動する。そのため高カロリー食を食べても脂肪として溜め込まれにくい。
健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は「朝カレー」を勧める。
「一日の始まりでもある朝は、その後に活動量が上がっていくため、カレーのように油分があってカロリーが高いものを食べても太りにくいのです。スパイスも入っているので昼にかけて体温が上昇する手助けにもなりますし、野菜も加わってバランスが整います」
ただし塩分を処理する腎臓は、朝よりも夜に活発に働くため、高血圧症の人は朝カレーを控えたほうがいいという。
塩分が気になる人や朝食はパン派なら、「ツナサンド」を。
ツナ缶は主にマグロやカツオなどの魚から製造され、その魚油には脳や血管に対する老化防止があり、心疾患のリスクを低下させるオメガ3系脂肪酸が豊富に含まれる。この吸収率が「朝」がいいというのだ。
体内時計をリセットする働きが強いことからも、ツナサンドは朝にいいというわけだ。
それでは「焼き魚」はどうか?
「もちろんOKです。私たちの実験結果では、炭水化物+タンパク質が体内時計をガツンと動かすのに一番効果的でした。ですからツナサンドならパン(炭水化物)とツナ(タンパク質、DHA・EPA)で理想形ですし、焼き魚ならごはんとセットがいいですね」
朝からそんなに食べられないよ……という人は、「魚肉ソーセージでもいい」と大池氏。
「魚肉ソーセージもツナと同様、魚由来のタンパク質が手軽に取れる。マグロやイワシを原料にしている商品もあります」
朝に摂取すると吸収率がアップする栄養成分もある。まずは美白に効果的な抗酸化物質のリコピン。
「リコピンはトマトやスイカに多く含まれますが、朝食に摂ると吸収率が高まるというデータがあります」(望月氏)
トマトジュースを継続的に(8週間以上)飲むと目の近くのしわが減ったという報告もあるから、しわが気になる人は朝にトマトを食べたり無塩のトマトジュースを料理に取り入れてもいいだろう。
食物繊維も、朝が最強。朝に食物繊維が豊富な野菜を摂取した人は、昼と夜の血糖値が上がりにくい上に便通が改善している。
「朝に食物繊維を摂ったほうがいい。24時間後の次の日の朝に効くということです。ごま油でゴボウを炒めるきんぴら料理がいいと思います」(柴田特任教授)
日中にパソコン作業が多い人なら朝食でブルーベリーを摂ろう。ブルーベリーに含まれるアントシアニンは目の瞳孔や水晶体の働きを調整するなど、目の機能改善が期待される。
「アントシアニンは種類や個人によっても変わりますが、摂取1〜3時間後に血中濃度がピークに達します」(望月氏)というから、やはり朝食のタイミングが好都合だ。
柑橘類に豊富なビタミンCは、老化防止に役立つが、これは朝食後に。
「ビタミンCは排出スピードが比較的速いのですが、食後は胃や腸に別の食べ物が入っているので排出が遅くなり、体に使われやすくなります」(同)
果物は果糖を含むため、夜に摂ると中性脂肪に変わりやすくなる。柑橘を含めた果物は朝がベストだ。
出典『老けない最強食』(文藝春秋)
●脂質の高い肉は「老ける」「太る」の原因に。寿命を延ばすには「高タンパク質な肉」を
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