欧米諸国は子育て環境を整えることなどで、少子化の進行を食い止めてきた。
先進主要国における家族関係社会支出のGDP比である。これを見ると、日本はヨーロッパ主要国に比べて、かなり低いことがわかるはずだ。ヨーロッパ主要国は少子化を食い止めるために政府がそれなりにお金と労力をかけているのだ。
欧米諸国のほとんどは、1970年代の出生率のレベルを維持してきた。だから、日本ほど深刻な状況にはなっていない。
1974年の時点で、日本の合計特殊出生率はまだ2を少し上回っていた。
フランスは日本より若干高いくらいだったが、イギリスもアメリカもドイツも日本より低く、すでに出生率が2を下回っていたのだ。
しかし、フランス、イギリス、アメリカは、大きく出生率が下がることはなく、2017年は出生率は2近くになっている(図表2)。
一方、日本は70年代から急激に出生率が下がり続け、現在は1.4を切っている(2020年時点で1.33)。もちろん、出生率が2に近いのと、1.4以下とでは、少子高齢化のスピードがまったく違ってくる。
なぜ先進国の間でこれほどの差がついたかというと、日本はこの40年間に、子育てを支援するどころか、わざわざ少子高齢化を招き寄せるような失政を犯してきたからである。
30代前半の非正規男性で結婚しているのは2割のみ
少子化問題は経済問題でもある。
データを見る限りでは、現在の少子化を招いた原因として、経済も非常に大きい要素を占めている。
出典 プレジデントオンライン(8/29 by大村大次郎)
「令和4年版 少子化社会対策白書」によると、男性の場合、正社員(30〜34歳)の既婚率は約60%だが、非正規社員の既婚率は約20%である。
非正規社員の男性のうち、結婚している人が2割しかいないということは、事実上、非正規社員の男性は結婚が困難、ということである。
これは何を意味するか?
男性はやはりある程度の安定した収入がなくては結婚できない、という考え方は根強い。だから派遣社員などでは、なかなか結婚できないのである。つまり、「派遣社員が増えれば増えるだけ、未婚男性が増え少子化も加速する」ということである。現在、日本では働く人の約4割が非正規雇用である。その中で男性は、700万人近くもいる。20年前よりも倍増したのだ。つまり、結婚できない男性がこの20年間で300万人以上も増加したようなものである。
パートタイム労働者のうち男性に絞って主要先進国と比較して見ると日本の男性のパートタイム労働者はこの15年で激増している。
もちろん、パートタイム労働者だけではなく、非正規雇用に枠を広げると、その人数は非常に多くなる。
現在の日本は、世界に例を見ないようなスピードで少子高齢化が進んでいる。このままでは、日本が衰退していくのは目に見えている。どんなに経済成長をしたって、子どもの数が減っていけば、国力が減退するのは避けられない。
いまの日本にとって、経済成長よりもなによりも、少子高齢化を防がなければならないはずだ。
なのに、なぜ政治家や官僚はまったく何の手も打たなかったのか、不思議でならない。
バブル崩壊後、財界は「雇用の流動化」と称して、非正規雇用を増やす方針を打ち出した。たとえば1995年、日経連(現在の経団連の前身団体の一つ)は「新時代の“日本的経営”」として、「不景気を乗り切るために雇用の流動化」を提唱した。
「雇用の流動化」というと聞こえはいいが、要は「いつでも首を切れて、賃金も安い非正規社員を増やせるような雇用ルールにして、人件費を抑制させてくれ」ということである。
これに対し政府は、財界の動きを抑えるどころか逆に後押しをした。
1999年には、労働者派遣法を改正した。それまで26業種に限定されていた派遣労働可能業種を、一部を除いて全面解禁したのだ。
さらに2004年にも、同法は改正され、1999年改正では除外となっていた製造業も解禁された。これで、ほとんどの産業で派遣労働が可能になった。
同法の改正が、非正規雇用を増やしたことは、データにもはっきり出ている。90年代半ばまでは20%程度だった非正規雇用の割合が、98年から急激に上昇し、現在では30%を大きく超えている。
また裁量労働制などの導入で、事実上のサービス残業を激増させたのである。
労働者の生活を極限まで切り詰めさせて、一部の大企業、富裕層の富を増大させてきたのがバブル崩壊後の日本である。こんなことを30年も続けていれば、国家が破綻しかかって当然である。
現在、岸田政権は、さすがにこのことに気づいて労働環境の改善に取り組もうとはしている。しかし、日本衰退のスピードに比べると、あまりに遅すぎるというのが著者の気持ちである。
先進国最悪レベルの子どもの貧困
図表4は、OECD34カ国における子どもの相対的貧困率である。
相対的貧困率は、その国民の平均所得の半分以下しか収入を得ていない人たちの割合である。
この子どもの相対的貧困率は、日本がOECD34カ国中ワースト10に入っているのだ。
このデータは「相対的貧困率」とは言うものの、日本は現在、先進国の中で平均所得は低いほうである。そのため、この数値が高いということは「子どもの絶対的な貧困者の割合」もそれだけ多いと考えていいだろう。
OECD33カ国における「一人親世帯」の子どもの相対的貧困率のランキングでは日本はワースト1位なのである。
日本は子どもの相対的貧困率も低いが、それ以上に「一人親世帯」の相対的貧困率が低いのだ。
内閣府の令和3年度「子供の貧困の状況と子供の貧困対策の実施の状況」によると母子家庭の親の就業率は83.0%であり、父子家庭の親の就業率は87.8%となっている。
つまりは、ひとり親家庭のほとんどの親は、就業している。
しかし、ひとり親家庭の「正規雇用」の割合を見てみると、母子家庭50.7%、父子家庭71.4%となっている。ひとり親家庭の正規雇用率は著しく低い。
非正規雇用の増加が貧富の格差を招いたことは前述したが、子どもの貧困に関しても同様に、非正規雇用の増加が大きな影響を与えているのだ。
消費税が少子化問題を悪化させた
次に認識していただきたいのが、「消費税は子育て世代への負担が最も大きい」という事実である。
前述したように消費税は平成元(1989)年に導入され、この30年間にたびたび増税されてきた。少子高齢化が進んでいく時期とリンクしている。
消費税は、収入における消費割合が高い人ほど、負担率は大きくなる。
たとえば、収入の100%を消費に充てている人は、収入に対する消費税の負担割合は10%ということになる。
が、収入の20%しか消費していない人は、収入に対する消費税の負担割合は2%でいいという計算になる。
収入に対する消費割合が低い人は、高額所得者や投資家である。彼らは収入を全部消費せずに、貯蓄や投資に回す余裕があるからだ。こういう人たちは、収入に対する消費税負担割合は非常に低くなる。
では、収入における消費割合が高い人はどういう人かというと、所得が低い人や子育て世代ということになるのだ。
人生のうちで最も消費が大きい時期というのは、大半の人が「子どもを育てている時期」のはずだ。そういう人たちは、必然的に収入に対する消費割合は高くなる。
ということは、子育て世代や所得の低い人たちが、収入に対する消費税の負担割合が最も高いという現実があるのだ。
児童手当はまったく足りない
子育て世帯に対しては、「児童手当を支給しているので、負担は軽くなったはず」と主張する識者もいる。
しかし、この論はまったくの詭弁(きべん)である。
児童手当というのは、だいたい1人あたり月1万円、年にして12万円程度である。
その一方で、児童手当を受けている子どもは、税金の扶養控除が受けられない。
そのため、平均的な会社員で、だいたい5〜6万円の所得税増税となる。
それを差し引くと6〜7万円である。つまり、児童手当の実質的な支給額は、だいたい年間6〜7万円にすぎないのだ。
しかも、子育て世代には、消費税が重くのしかかる。
子ども1人にかかる養育費は、年間200万円くらいは必要である。食費やおやつ、洋服代、学用品などの必需品だけでも平均で200万円くらいにはなるだろう。
ちょっと遊びに行ったり、ちょっとした習い事などをすれば、すぐに200〜300万円になる。
子どもの養育費が200万円だとしても、負担する消費税額は概算で20万円である。
児童手当では、まったく足りないのだ。
つまり子育て世代にとって、児童手当よりも増税額のほうがはるかに大きいのである。
少子高齢化を食い止めるためには、子育てがしやすいように「支給」しなければならないはずなのに、むしろ「搾取」しているのである。
2023年08月29日
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