このところの日本経済は、バブル崩壊以降の最高値をつけた株価、相次ぐ世界の半導体大手の国内進出。そして」コロナ明けで戻ってきた外国人観光客となんだか明るい兆しが見えている。じつはその背景には、日本を過去30年間苦しめてきたポスト冷戦時代から米中新冷戦時代への大転換がある。いま日本を取り巻く状況は劇的に好転している。この千載一遇のチャンスを生かせるのか。
中島 精也『新冷戦の勝者になるのは日本』を抜粋
共産党一党独裁、習近平の専制主義が進むにつれて、人権抑圧や言論封じ込めが酷くなってきており、人心の共産党離れ、習近平批判が高まっている。共産党一党独裁の制度疲労が進行しているので、新冷戦下の中国経済の行方は極めて厳しいものになると予想される。
米政府の強い説得により、半導体製造装置で米国と並んで世界をリードする日本、オランダが中国向けの輸出制限に合意した。民主主義対専制主義の闘いを標榜するバイデン大統領の圧力もあって、西側諸国が有する先端技術や製品の中国向け輸出は制限される方向にある。この日米蘭の3ヵ国で世界の半導体製造装置の90%以上を占めており、ここから締め出されると、中国の半導体産業は立ち行かなくなり、中国の製造業に致命的なダメージを与えることになる。
米国をGDPで超えるのも時間の問題と思われていた中国だが、新冷戦時代に入り、そうは状況が進まないことが見えてきた。
まずは外患だが、新冷戦下では経済安全保障の観点から西側民主国家が構築するサプライチェーンであるフレンド・ショアリングから排除されるので、西側からの直接投資にブレーキがかかる。同時に中国の労働コスト上昇の影響も見逃せない。1992年に2635元だった賃金(年間)が2021年には10万6837元と40倍も上昇している。もはや安い労働力を求めて中国に投資する企業はいない。
内憂で言えば、やはり共同富裕の弊害だ。格差社会の是正という名目で高い税金をかけられ、賃上げによる労働分配率の変更を要請され、かつ利益の社会還元を強制される。しかも、習近平は「国有企業はより大きく、より強くならなければならない」と述べるなど、国が指導する産業政策の役割を重視し、それを実践する国有企業を優遇する「国進民退」の考え方を押し出している。これでは民間企業にイノベーションを起こす意欲が湧いてこないので民間投資は減速せざるを得ない。
結局、官製イノベーションに依存するしかなく、科学技術の「自立自強」を唱える習近平だが、これではイノベーション主導の経済発展は望み薄である。ケ小平の先富論を否定したいまの習近平の治世では、アニマルスピリッツに溢れた若手起業家の活躍の場はない。
さらに、「一帯一路」も暗礁に乗り上げている。
第1に途上国向けインフラ融資が焦げ付いて、不良債権化しつつある。
第2は中国マネーで融資国を属国化する中国の姿勢に対して途上国で反中ムードが拡がっている。
その結果、習近平のユーラシアに一大経済圏を創り上げて中国主導の経済成長を目論む構想は頓挫しつつある。これまで共産党大会や全国人民代表大会で習近平が幾度も強調していた「一帯一路」について、最近、言及しなくなった。
他方、習近平は「三条紅線」という不動産業者の負債状況を示す3つの指標を参考にした不動産向け融資規制を銀行に指示した。
それは、「共同富裕」の観点から、「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」という方針だが、日本のバブル崩壊の引き金となった「総量規制」と全く同じ末路に向かうのである。当然ながら中国版不動産バブルが崩壊して、恒大集団の破綻につながった。習近平が「三条紅線」の緩和に拙速に踏み切ったが、時すでに遅し、その後も不動産市場の低迷が続いている。結局、これも中国政府が債務処理に乗り出さない限り解決は難しい。不動産が引っ張ってきた中国の成長パターンが壊れたので成長減速は避けられないだろう。・・・詳細は つづく。
参照HP https://gendai.media/articles/-/112101?imp=0構造問題としては巨額債務が中国経済に重くのしかかっている。
第1が地方政府の債務問題である。
これまで中国の成長を支えてきた要因の一つは地方政府による道路、鉄道、港湾などのインフラ投資であり、また省内の国有企業の尻を叩いて設備投資を増大させたことである。
共産党の省トップは担当地域のGDPが急増すれば、北京に戻ってから出世が見込めるので、GDP競争で他の省に負けていられないのだ。勢い、後先を考えないで自分がトップにいる間は無茶な投資でもやらせてGDPを上げる傾向がある。これが地方債務急増の背景だ。
まだ、リーマンショック以前は不動産価格の上昇に連動して土地使用権収入が増大したので、地方財政が比較的健全であったが、リーマンショックを乗り切るために、中央政府が打ち出した4兆元(約57兆円)の景気刺激策あたりからおかしくなってきた。
中央から地方に割り当てられたノルマ達成のために、無茶な不動産開発や設備投資が進められた結果、「鬼城」と言われるゴーストタウンが生まれたり、稼働しない設備が放置されたりして社会問題化した。
第2が民間の不動産開発業者の債務問題である。
2021年11月に大手の恒大集団がドル建て債務の利払いができずデフォルトに陥った。資金難に陥った恒大集団が建設工事を途中で取りやめたために、代金を払っても入居できなくなった人たちや個人投資家が抗議行動に出るなど各地で混乱が拡がった。
中国は改革開放後に急速な経済発展を見せ、不動産需要の高まりから不動産価格が急上昇、さらに利益を求めて一段と不動産投資が活発化するという循環が生まれた。
日本のバブルと同じパターンであり、不動産投資は儲かるという経験則から「絶対に」儲かるという不動産神話が生まれて、不動産業者はさらに借り入れを増やしてバブルが醸成されていった。
2023年08月02日
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