睡眠研究者のクリスティアン・ベネディクト氏は、ミンナ・トゥーンベリエルと共著『熟睡者』(サンマーク出版)がある。ベネディクト氏によると、「8時間以上の睡眠時間を確保することが重要だ。質のよい睡眠を確保することはすなわち、知識と成功のための前提条件を整えることだ」という――。
その第5章「眠って『賢者』になる 眠ったほうが知識が残る」を紹介すると、
脳は多くのエネルギーを必要とする。なにしろ、日中に収集したありとあらゆる情報のために、脳内に新たなシナプス(神経細胞の接合)が生み出されるのだ。1日が終わる頃には、脳は疲れきっている。翌日のために欠かせないパワーを蓄えるには、夜に休息をとらなければならない。
脳は夜の間、次の日に必要となる空き容量を十分に確保するために、新たに形成された神経細胞の接合の大部分を除去していく。脳内のこの清掃プロセスは「シナプスのダウンスケーリング」と呼ばれている。
何日も繰り返し練習した英単語など、脳が重要とみなす接合だけが削除されずに残る。これらのつながりを、脳は記憶に深く固定していく。その一方で、トレーニングのあとにランニングシューズを置いた場所や、子どもの遠足費用がいくらかといった、生存のために重要とはいえない大半の情報は再び消されることになる。
横浜市内で開催された日本抗加齢学会総会で、睡眠の専門医は「若い世代の睡眠不足が慢性化している一方、逆にシニア世代は必要以上に眠ろうとして、睡眠薬に頼る人も少なくない」と警鐘を鳴らした。人間は加齢とともに、必要な睡眠時間が減少する。70歳以上になると1日7時間以上の睡眠は生理学的に難しくなることは、あまり知られていない。
「若い人や働き盛りの世代は最低でも7時間の睡眠が必要で、調査によると1時間から1時間半不足している。逆に70歳以上では、1日7時間以上の睡眠を習慣にしている人は43%で、50代の16%を大幅に上回っている」
慶応大学特任教授(精神・神経科)を務め、東京都内や札幌市の睡眠専門のクリニックで長年、不眠症の診療に携わっている遠藤拓郎医師は同総会のセミナーでこう強調した。
「睡眠前にメラトニンなどのホルモンが分泌されて体温が下がり、入眠の態勢が整う。逆に目が覚める数時間前には、コルチゾールなどのホルモンが分泌されて体温が上がり、一定の体温に達すると目が覚める」
遠藤医師は「入眠」と「覚醒」のメカニズムを説明するとともに、「このようなメカニズムが自然な睡眠をもたらす」と話した。その上で「このメカニズムでは、20代までは8時間の睡眠を取ることができる一方、70代では6時間の睡眠しか取れない」と指摘した。
70歳未満の世代は逆に睡眠時間の短さが問題になる。60代までの理想的な睡眠時間は7時間とされている。しかし、日本における多くの調査によると、実際の睡眠時間は男性が6時間、女性が6時間半で、30分から1時間程度不足していた。遠藤医師は「睡眠時間の短さは、ノンレム睡眠と呼ばれる深い睡眠の比率を低下させ、睡眠の質を悪くしてしまう」と懸念する。
そこで、遠藤医師は「仕事やゲームなどでストレスや刺激にさらされている間は、コルチゾールの分泌が続いてしまう。そのまま床に就いても体温が下がらず、なかなか眠りに入れないし、眠りの質も悪くなる。ベッドに入る前には、入浴やストレッチなど自身がリラックスできる習慣を組み込み、少し長めの睡眠をとるように心掛けてほしい」と呼び掛けている。(喜多壮太郎・鈴木豊)
2023年07月23日
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