サンドゥ大統領は、今月13日、ロシアが外国の妨害工作員を使ってモルドバの指導者を失脚させ、クーデターを計画していると指摘した。欧州連合(EU)加盟を阻止し、ウクライナとの戦争に利用しようとしていると非難した。
モルドバはウクライナ、ジョージアとともに、2014年に欧州連合(EU)と連合協定を締結してきた。しかし、2016年にドドン大統領が登場すると、モルドバは2018年にロシア主導のユーラシア経済連合のオブザーバー国となるなど、親ロシア路線に舵を切っていった。ドドン率いる社会主義者党の政権が、国民の望む経済、雇用、年金、賃金などの問題を改善できず、有権者の多数がサンドゥ女の掲げる変化に期待してみたくなったようだ。
モルドバは人口350万人あまりの小国で、そのうち100万人近くが外国に滞在している。欧州最貧のこの国には良い働き口が乏しく、労働人口の多くが糧を求めて外国に流出しているのだ。出稼ぎ労働者が外国で稼いだお金を本国に送金する「レミッタンス」が、モルドバの経済および家計を支えている。モルドバは、世界で15番目に出稼ぎ依存度の高い国といえる。
おおよそ、在外国民100万人のうち、半分はロシアを中心とした旧ソ連圏で働き、残りの半分は欧米で働くという構図だ。しかし、2000年代に入って、対旧ソ連圏への貿易は、対EU貿易に追いつかなくなる。2003年からはじまるウクライナ危機を背景に、ロシア経済に変調が生じ、通貨ルーブルも大幅に下落して、ロシアからの送金は2015年に落ち込み、その後も回復は遅々としていた。それに代わって、EU圏への出稼ぎが相対的に比率を高めた。モルドバの旧ソ連諸国との輸出入高(その大部分は対ロシア)と、EUとの貿易高の比率は、以前はほぼ同じくらいであった。2014年以降、モルドバがEUと連合協定を結んだことから、差は大きくなった(ただし、モルドバの対EU貿易は、かなり対ルーマニア貿易に偏っている)。
そこへ更に、過去十数年ほどでモルドバはすっかりオリガルヒ(ロシア政商)支配の腐敗した国になって、国民はうんざりしていた。そうした背景にあって、サンドゥが選挙公約で真っ先に掲げたのが、司法改革と汚職撲滅だった。ドドンは、相変わらずに既得権益の保持に汲々とし、政商プラホトニューク氏との裏取引も疑われた。国民の期待がドドンから、女性政治家サンドゥに向けられのも無理からぬ流れと思わる。
2010年にアメリカのハーバードケネディスクールを卒業し、2012年まで世界銀行で勤務。本国に戻り、2012〜2015年に教育大臣を務め、大胆な学校改革を推進しました。2015年12月、後に行動・団結党となる政治団体を立ち上げ。2016年10〜11月の大統領選に親欧米路線を掲げて立候補するも、この時は上述のとおり左派・親ロシア派のドドンに惜敗。それでも、2019年6月から11月にかけては首相を務めています。妥協を許さず信念を曲げないその政治姿勢から、サンドゥは「鉄の女」の異名を付けられている。
しかし、彼女が直ちに大きな権力を行使できるわけではない。101議席の議会でサンドゥの行動・団結党は、わずか15議席だ。あいかわらず最大議席数を誇るのは、ドドンの出身母体である社会主義者党が37議席を占め、現在のキク内閣もそれに基盤を置いているからだ。
参照 Asahi Globale