国際大会ではおなじみとなった日本人サポーターの試合後の清掃。サッカーなどの試合の後にゴミ拾いをするという行為は日本に根付いているようで、横浜F・マリノスが本拠地にしている日産スタジアムに話を聞いてみると、試合後は必ずサポーターの有志の手によって行われているという。これによって業者の清掃の回数や清掃費用に変化があるのかといえば、殆どないそうだ。今回のW杯の日本-ドイツ戦でも海外から称える声が上がっていたる。ところが日本の一部の識者からは「ただの自己満足 掃除人の仕事を奪ってる」などとの声も出されていた。
これに対してフィフィさん(エジプト出身で長く日本で活躍するタレント)が、自身のツイッターで「日本サポーターのゴミ拾いに『観客が掃除すると、清掃を業にしている人が失業してしまう』って言ってる人、スタジアムイベントの清掃員の報酬がゴミの量で決まると思ってるのかな…てか、カタールのスタジアムの清掃はボランティアが多いから助かっているのよ、実際に感謝されてるのを知らないのかな」とつづった。
フォロワーからは「私もそっちの意見派!やっぱりそうだよねぇ!」「どうせ椅子を除菌したりしなきゃいけないだろうしゴミがなくても色々やることはあるはず」「清掃も簡単そうに見えて、実は決まった時間内に動かないといけないから、凄く大変なんですよね」「そうそう、いくらなんでも出来高制じゃないだろ、って思ってました」などの声が並んでいた。
海洋汚染がいわれるのも、いわゆる海のゴミ問題だ。マイクロプラスチックとして魚や海洋生物が呑み込んでしまい死んでしまう例が増えているし、捨ててしまったら知らんぷりという無責任さが世界的に問題になっているのだから、「識者」と呼ばれる方の判断であれば、職業の領域を冒すなとの観点で言うべきではないだろう。
2014年6月17日付け「WirelessWire News」という通信業界のニュースサイトで、イギリスに暮らす谷本真由美さん(情報通信コンサルティング)が、どうような指摘を受けて寄稿した記事があり、日本人サポーターの取った行為は日本人として大変誇らしく思えるエピソードであり、且つ、自分もイタリアで暮らしていたときにはゴミを持ち帰ったり、セルフサービスの店では食器などを所定の場所に戻していた、という。しかし、ボリビア人とイタリア人の同僚に「他人の仕事を奪ってはいけない」と怒られたこともあったとも書いていた。
ゴミ拾いや食器を下げる担当者がいるからで、マナーを守っていたつもりの自分は、他人の仕事を奪う「マナー違反者」だった、と書いた。親切心からの行為でも、他人の領域に手を出す人は非難される。同じようにサッカースタジアムにはゴミ拾い担当がいる。ファンがゴミを拾ってしまったら、彼らの仕事はなくなってしまう。他の国の人々がなぜゴミを拾わないのかにも理由がある、とした。
この主張にネットでは「日本の文化や習慣を貶める記事を書くな!」「スタジアムの一角を掃除しただけじゃないか」などと批判が起きちょっとした「炎上」騒ぎになっていた。記事の下にあるコメント欄には、
「マナーと仕事の話を無理矢理結びつけて信憑性がないと感じる」
「ごみを捨てる人が『雇用を作る人』と称賛されるわけでもない」
「試合後のゴミ拾いが褒められても批判されていないのはなぜでしょう?」
などといった意見がある一方で、世界には日本では考えられないことが仕事になっている場合もあるだろうし「世界の価値観を柔軟に受け入れることが大切だと思う」と賛同する意見もある。
では、記事にあるように日本のサポーターがゴミ拾いをしたことによって仕事を奪われたブラジルの人はいるのだろうか。ブラジル最大の発行部数を誇る日刊紙、フォーリャ・デ・サンパウロの電子版を見てみると、「日本の試合後のゴミ収集、ソーシャルネットワーク上で共感を得る」という見出しになっていて、素晴らしい人たちだ、とか、ブラジルもこうした教育を行うべきだ、などといった「ツイッター」のコメントを載せている。「迷惑行為」などというのは見当たらない。
日本とブラジルの経済活動の促進を目的とし01年に設立された在日ブラジル商業会議所(CCBJ)に話を聞いてみたところ、ブラジルのスタジアムにはゴミを拾う専門の業者が入っているのだという。観客が観客席に置いて行ったゴミを片づけるのが仕事で、ゴミがなければ仕事にならない。ただし、
「日本のサポーターの行為は称賛に値します。スタジアムのゴミについては、サポーターの手を煩わせることなしに、観客がおのおの所定のゴミ箱に捨ててもらうのがベターです」とCCBJは話している。
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前東京都知事の舛添要一氏が「世界が評価しているという報道は一面的。身分制社会などでは、分業が徹底しており、観客が掃除まですると、清掃を業にしている人が失業してしまう」と指摘し、大王製紙前会長の井川意高氏も同様の考えを示した上で「ファンの自己満足」「日本人の奴隷根性」「ごみ拾いを褒められて有頂天になる日本人が悲しい」などと主張したことを伝えた。
その上で、「この発言は日本で論争となり、ツイッター上では『奴隷根性』など関連ワードがトレンド入りした」と説明。井川氏らの発言に対して日本人のネットユーザーからは「世界に称賛されるのは日本人として素晴らしいし誇らしい。ごみ拾いによって今後の試合で日本を応援する外国人が増えるのなら良いこと」といった反論がある一方、「自分のごみを片付けるのはマナーだが、試合後に観客席を歩き回ってごみ袋を広げて回収するのは気持ち悪い。世界にアピールしたいだけ」といった声も上がったと紹介した。
また、「普段Jリーグをよく観戦しに行くが、周りの人がごみ拾いをしているのを私はほぼ見たことがない。普段はしていないのに注目される時だけやっているような気がする」「海外で認められたいという功名心からだろう。日本国内のイベントでみんなが自然にごみ拾いして帰っているならわかるけど(そうではない)」といった声や、「(井川氏らの)この方の発言にはちょっと賛成する部分もある。ごみ拾いのように日本人が当たり前にしていることを海外で称賛されるたびに喜んでしまうのは、日本人が自身の文化や歴史に誇りが持てていないから。ごみ拾い自体は素晴らしいが、海外メディアが称賛していることについては、日本人は平然としているべき」「自分で出したごみを処理するのは日本人として当然のこと。『海外から称賛された』などというニュースは必要ない」とマスコミの報道の過熱ぶりに疑問を呈する声も上がったとした。
観察者網の記事はさらに、「今回のW杯では各国のサポーターが試合後にごみを片付けて退場するという文明的な観戦をしているが、日本のサポーター以外ではほとんど知られていない。たとえば、イランやモロッコのサポーターだ」とし、「この“差別”にはファンからも不満の声が上がっている」と紹介。日本のサポーターによるごみ拾いを称賛する海外メディアのツイートには、「私たちモロッコ人も同じようにしているのに、なぜあなたたちが称賛するところを見られないのか。私たちモロッコ人が西洋から野蛮人だとみなされているからではないか」と訴える声も書き込まれていると伝えた。
なお、この論争について中国のネットユーザーからは「井川氏の発言は半分正しい。ごみ拾い自体は悪いことではない。しかし、あえて外国人の前でごみ拾いをして自分の素養をアピールするのは奴隷根性だろう」「日本国内のイベント後には会場にごみが散乱しているじゃないか(日本の音楽や格闘技イベントの終了後に客席にごみが散乱している写真が中国SNSで拡散)。外国に行った時だけ拾うなんて、何かの意図があるとしか思えない」「(日本人は)スタンドのごみを拾いながら、一方では核汚染水を海に流す」「良いことをしたら称賛するだけ。モロッコサポーターも一緒に称賛すればそれで良し」などのコメントが寄せられている。(翻訳・編集/北田)
2022年11月24日
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