レイクプラシッドは人口わずか2000人ほどのリゾートタウンで、観客は関係者も含めて100人いるかどうかという、ほとんど空のアリーナだった。だがその瞬間、悲鳴にも似たかん高い歓声が響き渡った。1980年冬季オリンピックの開催地でもあるこの地で、フィギュアスケートに新たな歴史が刻まれた瞬間だった。
「どのようにしたら4アクセルをうまく降りることができるかというのは、身体ではもう習得していました。でも本番で成功させるというのは、また別な話。緊張もあるし、プレッシャーもありました。だからここで降りることができて、とても嬉しいです」
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実際に練習を始めてみたのは、今年の春の3月か4月のことだと会場に同行していたマリニンの父であり、コーチでもあるローマン・スコルニアコフは「4アクセルの練習を始めたのは、世界ジュニアが終わってからでした」と証言する。
息子が初めて4アクセルをやってみたい、と言ってきたときは「クレイジーだと思いました」と苦笑した。「当時はそんなことが可能だとは、思わなかったんです」
だがポールに吊るしたハーネスをつけて練習を始めて間もなく、「もしかしたらできるのではないか」と思うようになったのだという。
「イリアはもともと好奇心旺盛で、新しいことに挑戦するのが大好きな性格なんです」
「もちろん、ユヅには大きなインスピレーションを与えてもらいました」とマリニン。
「4アクセルに挑戦した選手は、これまでもアルトゥール・ディミトリエフなど何人かいました。でもユヅほど成功に近づいた選手はいなかった。ぼくはユズが世界で初めて成功させた選手になったら良いなと思っていたんです」
優勝が確定してから改めて感想を聞くと、「優勝は嬉しいけれど、演技の内容的には願っていたものではありませんでした。でもまだシーズン初めだし、これからもっと練習をつめていって調子を上げていけたらと思います」と冷静に反省の言葉を口にした。
「どこかのインタビューでユヅが、ぼくが試合で4アクセルを成功できるかも、意思が強いから、と言ってくれたと聞いて光栄に思いました4アクセルも、今日のようにようやく降りるのではなく、練習の時のようにもっときれいに着氷できるように安定させていきます。僕はジャンプに関しては完璧主義なので」
両親ともにウズベキスタン選手という文化的背景もあるのだろうか、平均的な米国人ティーンエージャーのようにはしゃがない。表彰式後の撮影中、カメラマンに何度も「笑って」と言われると、隣にいたプルキネンが「僕は笑っているよ! 君のせいだね」とマリニンに突っ込み、二人とも笑い崩れるという微笑ましい一場面もあった。
出典 Number Web(9/15)
羽生さんは4回転アクセルの難しさについて、回転軸の位置の違いについても語っていた。ほかの5種類のジャンプはテイクオフの瞬間から回転が始まるため、体を締めるだけで回転軸に入ることができる。しかしアクセルは、空中に上がったあとに右の回転軸を探すことになるため、回転軸の精度が変わるというのだ。
ところが、このUSクラシックでマリニンが成功させた4回転アクセルは、全くといっていいほど違う跳び方だった。なんと、左から右への体重移動を行わないのだ。左から右へと移動させるのではなく、体の中央に回転軸を作っていた。両手も、リラックスさせた状態で踏み込み、跳び上がる瞬間は真上に向かって引き上げることで、高さをサポートしていた。斬新なアイデアであり、そして非常に効率的な跳び方である。マリニンの最も優れた能力は跳躍力や回転力ではなく、空中で右足と左足をいかようにでも動かせる空中感覚にあるようだ。
実際のところ、マリニンは羽生さんに憧れて育ってきたスケーターだ。ノービス時代には、羽生さんのプログラム「SEIMEI」そっくりの衣装で滑ったこともある。羽生さんの4回転アクセルへの挑戦を4年間見つめて、その技術の変遷を知っていることが、マリニンの4回転アクセルのベースにある。
マリニンの跳び方は、効率的でかつ、新しい時代を象徴するアクセルである。しかし答えは1つではない。羽生さんが追い求める、飛距離がありダイナミックで美しい4回転アクセルは、また違うアプローチの先にある。羽生さんが4回転アクセルを完成させたその時、2人それぞれのアクセルの魅力が、より輝きを増すことになるだろう。
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