日本の食文化の伝統を守りつつ、その発展を目指す日本ガストロノミー学会(東京・港)代表の活動などが認められ、スペイン国王から叙勲された。同国の発展や世界各国との協力関係に貢献した人物に与えられる「イサベル・ラ・カトリカ勲章エンコミエンダ章」。日本からは舞踊家の小松原庸子さんら限られた人しか受けていない。
学会は食に関する研究や教育に取り組む国際ガストロノミー学会(本部フランス)の支部として山田さんが設立に動いた。美食の街として有名なサン・セバスチャンがあるスペインと日本の自治体との橋渡しなどに尽力したのが叙勲に結びついたという。今年2月には駐日スペイン大使館が佐賀県と食や観光、スポーツでの交流に向けた覚書を結ぶのを手伝った。
米国で映画制作を手掛けるほか、日本では食べられるのに廃棄されてしまう食材の活用を手掛けるフードロスバンク(東京・港)も経営する。様々な活動の中で大切にしてきたのが食と社会貢献だ。
原体験の一つは小学生時代の奉仕活動の授業。老人ホームでピアノを演奏すると、皆が涙を流して喜んでくれた。子ども心に「こういう活動は一方的に何か与えるのではなく、自分も感動をもらうものだ」と悟った。
もう一つが語学留学先の米国での慈善活動だ。トラックで毎日約3千カ所、貧困などで困っている人に無料で食事を届ける非営利団体に加わった。食は単なる栄養補給ではなく、人生に彩りを与える文化と気づいた。
学会の調査活動を機に、見た目や大きさが規格外だからと食品が大量に捨てられている実態を知った。2020年にはそうした食品を活用し、生産者やレストランを応援するフードロスバンクをつくった。企業形態にしたのは「地球も事業もサステナブル(持続可能)にするには経済的自立が欠かせない」との思いがあった。
規格外の農産物を高級ブランド「アルマーニ」が運営するレストランなどで使ってもらう取り組みが注目を集めた。現在はイタリア料理のリゾットに使う輸入米の代わりに日本の古米を利用する活動を進める。
映画産業で培ってきた人脈は食に関する活動にも生きているという。スペインからの勲章は「重ねてきた縁のたまもの」。食を通じた社会貢献へ思いを新たにする。(堀聡)
やまだ・さきこ 東京都生まれ。聖心女子大卒。住友商事勤務を経て2000年に渡米。10年に米国で映画制作会社を設立した。11年に日本ガストロノミー学会の設立代表に任命された。20年にはフードロスバンクを創業している。
出典 日経新聞(9/1)
2022年09月03日
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