近隣に木が多く植えられた緑の多い場所に住む人は、健康状態が良好で、支払う医療費も抑えられる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされ、詳細は、「Environmental International」5月号に掲載された。研究論文の著者である米イリノイ大学アーバナシャンペーン校のMing Kuo氏は、「樹木を単に生活に彩りを添えるためのものとみなすのではなく、必要不可欠なサービスをもたらしてくれるものとみなすべきだ」と述べている。
今回の研究では、米カイザーパーマネンテ北カリフォルニア病院より取得した518万9,303人の13年間(2003〜2015年)のデータを分析し、自宅周囲(自宅から250m、500m、1,000mの距離)の樹木による被覆率と、その人の支払った医療費との関連を検討した。
その結果、収入やその他の因子を考慮しても、自宅から500mの範囲に木が少ない地区に住む人では、木の多い地区に住む人に比べて、健康問題が多く、年間の医療費が374ドル(約4万6,750円、1ドル125円換算、以下同)多くかかっていることが明らかになった。これは、避けられる可能性のある医療費が年間およそ1億9400万ドル(約242億5000万円)かかっているという計算になるのだという。
このような関連は、13年間の医療費、自宅からの3段階の距離それぞれにおける2通りの緑地面積の評価、緊急外来診療や入院などの複数区分の医療費について認められたという。
Kuo氏は、「この研究では、樹木に関連する医療費削減をかなり過小評価している可能性が高い」と話す。その理由について同氏は、「われわれの研究から明らかになったのは、最も緑の多い地域と最も少ない地域の差だけであり、その間に位置付けられる、小さくても無視できない医療費の差については何も示されていない」と説明する。また、当該地域でカイザーパーマネンテのネットワークに加入していない人のデータも含まれていないという。
論文の共著者で米クレムゾン大学助教授のMatthew Browning氏は、「緑の多い地域での生活と、短期的・長期的な健康へのベネフィットを関連付ける文献は増えており、今回の研究もそれに新たに加えられるものだ。自然と健康を結び付ける機序は実に多様だが、ベネフィットの理由としては、緑の多い場所にいるとストレスが軽減し、健康的な行動が促進されるほか、空気の質が向上することなども考えられる」と述べている。
(HealthDay News 2022年4月4日)
https://consumer.healthday.com/b-4-4-want-a-healthier-neighborhood-plant-a-tree-2657063515.html多くの社会的課題を解決する可能性を秘めているグリーンインフラは、SDGs(持続可能な開発目標)の目標達成に寄与すると期待されている。グリーンインフラストラクチャー(Green Infrastructure)の略で、アメリカで発案された社会資本整備手法だ。従来型の社会基盤であるコンクリートの人工構造物「グレーインフラストラクチャー」の対義語として位置付けられる。しかし、グリーンインフラとグレーインフラは決して対立する概念ではなく、双方の特性を組み合わせていくことが必要だと考えられている。「グリーンインフラ」には、単に「植物」という意味だけでなく、農地や河川、樹林地、公園などの自然環境全般を指す。
自然が持つ多様な機能をインフラ整備や土地利用に活用していく、この考え方での海外での代表的な成功事例として、アメリカでは緑化や治安の改善につながった事例の一つに、ニューヨークの鉄道の廃線跡地が放置され治安が悪化していたのだが、高架橋の構造を活かした空中都市公園として開園されたことで、ハイラインの整備に伴って線路沿いの不動産価値が上昇、徐々に住宅地として復活した例が知られている。スペイン・バルセロナは夏季の気温上昇が厳しかった。高温が原因で熱射病患者が多く発生していたことから、市内の街路樹・植生帯を整備した事で、熱射病による医療費の削減だけでなく、外国人旅行客の増加にもつながった。
国土交通省は、2020年に産官学による「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を設立した。さらに自治体や関係省庁、民間企業だけでなく個人も参加可能で、より共創が活発化していく考えられる。
最近では、美的景観の良い地域に住んでいる人やソーシャルキャピタル(社会的なつながり)が高い地域ほど健康度が高いなど、まちの構造と健康の関係について、さまざまなデータが出てきています。
海外の成功事例や最新の研究成果に基づき、緑豊かに住んでいると「歩きたくなる、歩き続けてしまう」す。住民が歩くようになると、日常の身体活動量が増加することで健康度が向上し、医療費が抑制されるという「まちづくり」の取り組みが国内外で推奨され始め、そうした地域には医療費が低い傾向が調査にでています。
国内では、平成24年度から「健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区」=生涯にわたり健やかで幸せに暮らせるまち(健幸なまち:スマートウエルネスシティ)の取り組みもスタートして、高齢化・人口減少が進んでも持続可能な先進予防型社会が推奨されています。
「自然に健康になれる」コミュニティや社会の実現,国土交通省はこれに連動しながら,コンパクトな都市構造への転換を基本とし,歩行による健康増進に視点を置いた「健康・医療・福祉のまちづくり」を推進している。この中で「緑」は,日常生活において歩数や運動量を増やす健康機能を担う交流施設として位置づけられ,都市公園への到達性や歩道の緑被率が地域を診断する指標として設定されている。
都市の生活者が病気、感染がしにくい安全・安心な環境を提供するという行政サービスには,緑の整備によって、レクリエーションと交流の場を提供すること,地域の歴史文化,自然を享受することが出来ること,地域への愛着が醸成されることなど,身体的,精神的,また社会的な意味での多様な「健康」の概念を含むものである。
そうした観点で「緑」には,都市公園に限ったものではなく,マンションや開発用地のコミュニティーガーデン、市民農園,屋上庭園,里山や農地,遊水池など,市民の生産・維持管理の関わりがあるもの,遊歩道,水辺・河川空間,あるいはこれらを包含する水・緑のネットワークも含めて、人と緑化の関係性、そのスケールも含めて多種多様であり,健康な都市に通ずるさまざまな場面,立場でのアクティビティが存在する。
参照:「これからの都市緑地と公衆衛生」(大塚芳嵩、他)
2022年05月04日
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