人間の視覚や聴覚は、乳幼児期のごく早い段階で環境や外的な刺激に応じて発達する。経験が脳に与える影響が特に強い限られた期間を「感受期」といい、言語や知能、愛着の形成にも関係することを研究は示唆している。
乳幼児は、泣くことで空腹や排泄の不快さを解消してもらい、表情や身ぶりでふれあいを求め、相手の語りかけをまねて言葉を覚える。信頼する特定の養育者との親密なやりとりを通じて、脳の回路をつくっていく。この時期の経験が、その後の子どもの発達に重要な役割を果たすといえる。
脳は感受期に予測された経験が得られないと、発達の過程で必要なシナプス(神経のつながり)をつくらなかったり、不必要なシナプスを残したりする。つまり、脳は「要るか、要らないか」という指示を待っているのだ。子どもたちが8歳になった時点でMRIで脳の様子を調べたところ、里親のもとで育った子の方が、脳の活動に関係する領域が多いという傾向が出た。
ある1歳3カ月の女の子は、最初のころは満足に立つこともできず、いつも泣いていた。担当の保育者にもかまわれず、自閉傾向にあった。その状態で里親のもとに移ったが、その後は会うたびに明るくなり、会話も活発になった。知能や脳活動の数値でも確実な改善がみられた。最近、12歳になった彼女と会った。里親との関係も良く、友だちもたくさんでき、青春を謳歌していた
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