帝政ロシアの崩壊からレーニン、スターリン、ゴルバチョフからエリツィン。ソ連が崩壊して現れたのがプーチン。ロシアという国は、専制支配が倒れた後に出てくるシナリオは前よりむしろ悪くなるという歴史を繰り返しています。ウクライナ侵攻で「プーチンをつぶせば解決する」というのは短絡的な考えでしょう。プーチン大統領が失脚し、たとえそこで戦争が終わっても、ロシア国内は内戦に反転する可能性もあります。世界最大の核保有国でそういう事態が起きたら、まさに悪夢の始まりです。
米国も経済のダメージを恐れていて、ロシアがデフォルトにならないよう国債の利払いのドル決済を認めました。その一方で、ウクライナ頑張れとエールを送っているのです。問題はウクライナ一国やゼレンスキー大統領、そしてプーチン大統領だけで決められることではなくなっていることです。これ以上、人の命が奪われないためには、一刻も早く停戦にもっていくような仲介の労を取らないといけません。
そのたの議論もならずのうちに「核保有論」などに政治の焦点が行くこと自体、強い憤りを感じざるを得ません。東京大学名誉教授の和田春樹さんをはじめとするロシア史研究者たちは「日印中によるウクライナ停戦仲介」を日本政府に呼びかけましたが、中国とロシアの関係は言わずもがなですが、岸田文雄首相が今回の日印首脳会談で「力による現状変更は許さない」と発表した際にも、モディ首相はロシアに言及しなかったことからもわかるように、印ロ関係は親密です。この2カ国が仲介の役を買うならばロシアを説得できる、しかし、ウクライナはそれでは乗れません。だからそこに日本の出番なのです。ロシア制裁に日本が加わったため、北方領土交渉の中断にはなってしまいましたが、それでも長年、培ってきた何らかのパイプはまだあるはずです。日本なら、インドと合流しながら中国に働きかけていく。仲介役をすることで中国は世界に自分たちは脅威ではないとアピールできますから、メリットはあります。ロシア史研究者たちの考えを本格的に検討すべき時ではないでしょうか。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2022年4月4日号
2022年04月04日
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