来年1月に米ニューヨークで開催予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議が、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」による感染拡大を受けて、延期の方向で調整された。再検討会議は1月4〜28日の日程で行う予定だった。延期は当初予定の2020年春から4度目になる。
軍縮外交筋によると、関係国が12月28日に協議した結果、1月4日の開会は見送られた。各国代表がそれぞれの立場を述べる一般討論演説などを1月10日の週に、非政府組織(NGO)の参加はオンライン方式で、加盟国・地域は対面方式にする予定だった。しかし、オミクロン株は12月に入って全世界で拡大。米国では1日当たりの新規感染者が44万人超と過去最悪になり、国連本部があるニューヨーク市も2万人を超えている。会議を支える国連職員にも感染者が増えており、国連事務局は、対面方式での開催が難しいとの見方を示しており、これに伴い、会議で議長を務める予定だったアルゼンチン出身のスラウビネン氏も渡米を見送ることになり、延期の幅については30日以降に議論が行われ、決定される。最終文書の折衝など細かいやり取りは対面方式でなければ難しく、29日、延期されることが決まったということです。
核軍縮をめぐっては、今年1月に核兵器禁止条約が発効する一方、核保有国による核軍縮の動きは停滞しており、今回の再検討会議で打開への道筋がつけられるか注目されていた。延期が決まれば、核軍縮や核不拡散などの取り組みを国際社会が検証する重要な機会がさらに遅れることになる。
出典:毎日新聞(29日)、JNN(30日09:30) 一橋大学大学院法学研究科の秋山信将教授に、核拡散防止条約再検討会議の核軍縮の現状や分断解消の糸口をどこに見いだすべきかを分析、解説して頂いた。もし昨年(20年)春のタイミングで開かれていれば、かなり厳しい結果だったと予測されていたとういうことだ。
多国間交渉に否定的だった当時のトランプ米政権では、核軍縮に関しても妥協の余地はないという姿勢でした。核禁条約もまだ発効前で、条約推進派と反対派の互いに対する警戒感は非常に大きかった。
しかし、核禁条約が発効し、条約を推進する国の中にも、核兵器国をどんなふうに核軍縮に関与させていくかについて、核禁条約を掲げて主張するだけではダメなんじゃないかと考える国も出てきています。核兵器国の側でも、米国は多国間の取り組みを重視するバイデン政権に代わり、外交を通じて核不拡散や核の脅威の削減に取り組む姿勢を打ち出しています。その意味では、前向きとは言わないまでも、全く対話の余地がないわけではないという雰囲気にはなっていると言えるでしょう。
ただ、大国間の戦略環境は悪化しています。米露では新戦略兵器削減条約(新START)が暫定的に延長され、「戦略的安定対話」も行われました。しかし、ウクライナ情勢などを考えれば、両国の戦略的対立はむしろ厳しさを増しています。米中でも対立が深刻化しています。中国は大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の地下格納施設(サイロ)を建設し、極超音速兵器からミサイルを発射させる実験を行うなど、さまざまな形で核戦力を拡張しています。
また、日本では核軍縮に焦点が当たりがちですが、NPTは核不拡散、原子力の平和利用も合わせた3本柱です。核不拡散の観点から見ると、イランの核開発は国際社会にとって極めて深刻な問題です。しかし、こちらも交渉に明るい見通しは立っていません。
実際の再検討会議の交渉で何が焦点になるのかというと、間違いなく核禁条約とイランの核問題だと思います。
核禁条約については、そもそも最終文書で核禁条約に触れるのかどうか、というところから問題になります。トランプ前政権は名前を出すことさえも拒む姿勢でしたが、バイデン大統領は核軍縮に親和的な姿勢をとってきていました。条約そのものに言及するかは予断を許しませんが、何らかの形で示唆する程度なら構わないと言うかもしれません。
ただ、パリで先日開かれた核保有5大国による会合の共同声明では、核禁条約には触れていませんでした。核兵器国側にはそうしたことを一度認めてしまうと流れを止められなくなるという警戒感がありますから、簡単ではないでしょう。つまり、ドイツは来年3月に開かれる核禁条約の締約国会議にオブザーバー参加すると伝えられていますが、同時にNATO(北大西洋条約機構)加盟国として核シェアリング(核兵器の共有)は続けるとしており、この二面性に注目する必要があります。今後、この「二重決定」について、整合性をとるために核シェアリングをやめるという選択をする可能性もないとは言えません。また、ドイツのオブザーバー参加もいったん良しとすれば、今後、オブザーバー参加国が増えていく可能性もあり、可能性が開かれていきそうです。
出典:毎日新聞(12/26)
2021年12月30日
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