元慰安婦の支援団体「正義連」(旧挺対協)の李娜栄(イ・ナヨン)理事長は本紙インタビューで、前任の尹美香(ユン・ミヒャン)氏が2015年の日韓合意当時、他の支援団体との調整に疲弊し「何度も(代表を)『やめたい』と繰り返していた」などと明らかにした。主な一問一答は次の通り。(ソウル 時吉達也)
−−「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった15年の日韓合意を認めない理由は
「謝罪内容が不透明で法的責任を認めず、奇襲のように大臣同士で会見を行ったことが問題だった。その後(韓国政府が海外での記念碑設置などを支援しないことなどを約束した)『裏合意』の存在が明らかになり、大変なことになると直感した」
「発表後の日本の政治家の妄言も残念だった。国家間で解決に至るにせよ、謝罪が『不可逆的』に終わるなどということはありえない。ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を『解決済み』という人がいないのと同じだ」
−−日本政府の「法的賠償」に固執する正義連の主張が協議の障害になっている、との声は支援者側からも上がる
「『法的責任』に基づく要求は1990年代以降、国連などでの国際的な議論の中で浮上した。韓国司法も今年、日本政府の違法性を認定している。正義連が独自に主張しているわけではない。われわれは日韓合意後、主婦の集まりから宗教団体までさまざまな抗議団体が登場したため、各団体の意見をまとめて運動の方向を設定する役割だった。当時、長年運動に関わってきた尹美香代表はあまりにも疲れてしまったため、理事会で何度も『辞めたい』とこぼしていたが、後任者が見つからなかった」
−−慰安婦問題の対日運動を主導しているのは正義連ではないということか
「各団体の調整役を務めているのにすぎない。例えば毎週日本大使館前で開催している集会も毎回主管団体は違い、それぞれの団体が各回の声明書を発表している。民族主義や反米など、それぞれの主張は全く異なり、時に過激な内容が正義連の主張として報じられたりする」
「平和の少女像(慰安婦像)建立をわれわれが主導しているというのも、まったくの誤解だ。正義連が国内で設立したのは日本大使館前の一体だけで、そのほかは一切関与していない。海外の像建立でも、公益性があると判断した場合のみに費用を一部支援する程度だ。日韓合意当時まで、像に関心を持っている人は誰もいなかった。(合意後の追加の謝罪要求などに一切応じないとした)日本の政治家らの問題発言がなければ、像が乱立する今日の事態には至らなかったはずだ」
−−日韓合意に伴う現金支給では、存命の元慰安婦の8割近くが受け入れる意向を示した。毎週の集会開催に反対する元慰安婦もいる。当事者を代表する団体といえるのか
「当然、ハルモニ(おばあさん)一人一人の考え方は違うし、長年の活動の中で変化する部分も当然ある。日韓合意を受け入れるべきだと考える人もいる。それでも、より本質的な部分で歴史的真実を明らかにし、一人一人の名誉回復を成し遂げてきた点は後世の研究者からも十分に評価されると信じている」
−−尹美香前代表のスキャンダルが昨年発覚し、詐欺や業務上横領など8つの罪で起訴された
「あくまでも前代表の問題であり、すでに辞任から1年4カ月も経過している。彼女を排除するということではないが、個人と組織を分離しつつ、判決が確定するまで距離を置くのが互いのため、支援者のためだと考えている」
−−代表として在職中の事件であり、組織の問題とは考えないのか
「問題が公になったのは私が理事長に就任した翌日だったが、発覚以前から組織運営上のリスクについては把握していた。大変巨大な組織のように誤解されているが、現在職員は14人のみで、2000年代前半には職員が尹代表を含めわずか4人ほどだった。膨大な業務処理に伴い会計上のミスが生じる余地をなくすため、理事長就任後、内部規定をすべて整備し直した」
−−「会計上のミス」で済まされる話か
「検察は無理筋の捜査を行っており、すべての罪状が認定されるとは考えていない。寄付金の横領などはなかったと信じている。運営上の問題があれば改善し、運動の意味を継承、拡散する活動に集中していく」
−−今後の活動方針は
「存命のハルモニがいなくなった後のことを考え、より普遍的に『女性・人権・平和』のための記録を残していく活動に重点を移している。当然、慰安婦問題についても引き続き取り組んでいく」
−−活動を存続させる目的で、日本に対し「抗議のための抗議」を続けていないか
「大きな誤解だ。私たちは女性の人権と平和を扱う国際的なプラットフォームとして、慰安婦問題解決以外にもさまざまなことに取り組んでいる。新たな活動に対する支援はむしろ以前より増えている」
「韓国の運動は、慰安婦問題解決のために長年日本の市民社会と連帯してきた。日本国家を非難するためではなく、植民地や帝国主義の下で行われた女性に対する性暴力を終息させるため、女性の人権と平和のためにともに闘ってきた」
−−慰安婦問題解決に必要なことは
「正直に言えば、被害者の立場で考えれば加害者の誠意ある謝罪が、(加害者処罰や金銭的賠償などの)法的手続きよりも重要ではないか。昨年から、各関連団体や研究者が『日本側に求める事実認定の範囲』と『何をもって誠実な謝罪とするのか』の2点について非公開で議論を始めた。問題意識がそれぞれ大きく異なるため時間はかかるだろうが、論点は整理されつつある」
「互いの不信や誤解を解き、問題を深く理解するための努力を次世代の若者に見せることができれば、解決に至らずとも意味はある。何よりも、日韓両国の市民が平和と人権のために協力してきた歴史を記憶・継承していきたい。そのために産経新聞の取材にも応じている」
韓国の元慰安婦が公の場で初めて証言してから、14日で30年を迎える。支援団体による強硬な抗議を受け韓国政府が国家間合意を事実上ほごにするなど問題解決の見通しが立たない中、抗議活動を主導する「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連、旧挺対協)の李娜栄(イ・ナヨン)理事長が産経新聞の取材に応じ、「われわれの実態はただの調整役にすぎない」と主張。当事者の利害が交錯する活動の内幕を明かした。
寄付金流用、補助金の不正受給…。尹美香(ユン・ミヒャン)前代表が昨年、詐欺や業務上横領などで起訴されるに至った一連のスキャンダルについて尋ねると、李氏は「あくまでも前代表の問題」と距離を置く姿勢を示しつつ、「発覚以前からリスクを把握していた」と明かした。
研究者として正義連の活動に携わるようになった李氏が初めて事務所を訪れた2000年代初頭、職員は尹前代表を含め4人ほどしかいなかった。李氏は「少人数で膨大な業務を担い、会計上のミスが生じる危険があった」と振り返る。
正義連は1992年以降、毎週日本大使館前で集会を開催し、通算千回を迎えた2011年には付近の歩道に慰安婦像を設置した。抗議活動での存在感はさらに高まり、同種の像が国内外で乱立し外交問題に発展する端緒を開いた。
インタビューに答えた李しに西岡力•麗澤大学客員教授は次のように語った。
「慰安婦問題をホロコーストと比較すること自体が話にならないし、国家と国家が約束を守ることの重要性について考慮していないこともよく伝わってくる。日本政府に何を求めるのかは、当事者のおばあさんたちを無視して運動家が勝手に決めることでなく、日本側が対応すべき相手ではない。また、前代表の在職中の犯罪を組織と無関係であると強調するのは無責任極まりない。いったん解散し、蓄財を返還した上で出直すべきだろう」
2021年10月14日
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