3月に発表された世界経済フォーラムの「男女格差報告書(ジェンダー・ギャップ指数 GGI)2021」で、日本は156カ国中120位(65.6、前年121位)だ。経済分野117位、政治分野147位は、これまでで2番目に悪い順位で、主要7カ国(G7)では最下位、韓国ですら102位(前年は108位)全体でも下から数えたほうが早い。
教育へのアクセスや政治家や閣僚の数、賃金など男女差を比べ、「100%」を「完全な男女平等」として達成度を指数化したもので、対象となった経済・教育・医療・政治の4分野のうち、教育・医療分野はそうでもないのだが、目立って低いのは、経済分野の117位と政治分野の147位だ。
とりわけ経済分野では、「労働力の男女比」は他国と比べて遜色ないのに、「管理的職業従事者の男女比」が139位、「専門・技術職の男女比」が105位と、かなり低い。職場で女性の管理職がきわめて少ないのに、かなりの「女性差別の国」を実感している男性は少ない
というわけで、2月に森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック組織委員会元会長が辞任に追い込まれた女性蔑視発言、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「組織委にも女性はいるが、わきまえている」を持ち出すまでもなく、国際的には、日本は未だに「男尊女卑の国」なのに、男性ばかりか、女性も実感していないのだ。日本がかなりひどい女性差別の国だと自覚できる人は多くない。そこを深刻に受け取るべき厳然たる事実なのだが、男性にはこのことをリアルに感じている人は、少ないのではないか。
◆欧米にはない「世間」に埋め込まれた「身分制のルール」
グローバル化していく時代に、このように日本が国際感覚とはとんでもないズレがあるのは、いったいなぜなのか?!答えは簡単で、それは海外にはない日本特有の人間関係である「世間」に、日本人ががんじがらめに縛られていることにすら気づいていないからである。
日本は先進国のなかでは、きわめて伝統的なものを多く残している唯一の国だ。その代表が「世間」という人間関係だ。目に見えぬ「世間」のために差別が構造化されており、女性差別が隠蔽されて見えにくい構造になっているからだ。見えにくい理由の一つは、生まれた時からある「世間」という「身分制」があることすら気が付かないためだ。
「世間」は『万葉集』以来1000年以上の歴史があり、日本人は伝統的な「世間のルール」を律儀に守ってきた。なぜなら、「世間を離れては生きてゆけない」と信じており、ルールを守らないと「世間」から排除されると考えるからだ。そのルールのなかに年上・年下、目上・目下、先輩・後輩、格上・格下、男性・女性などの上下の序列である。社会通念となっている「身分制のルール」がある。 日本人はこの「身分制」に縛られており、そこに上下の序列があるために、これを区別であるとして差別の温床となっていることを認識できない構図になっている。
現在の欧米社会には、日本のような相手に対して区別する「世間」という差別はない。この違いは言葉の問題を考えると分かりやすい。 英語は単純で友だちだろうが大統領だろうが、一人称の「I」と二人称の「YOU」は1種類しかない。ところが日本語では、「I」にも「YOU」にも、「オレ、私、僕、あなた、お前、君…」など山のようにある。タメ口でよいのはごく親しい間柄だけだ。日本語では一人称・二人称の使い分けが必要なのは、あらゆる場面でその都度、対話の相手との上下関係、つまり「身分」を考えて、言葉を選ばなければならない。似たようなことは、韓国語でもある。
日本のこのような「身分制のルール」は合理的な理由がない、不可視の「ルール」なのだが、「世間」には後輩の先輩への絶対的服従など、この種の「ルール」に従うのである。そして女性差別もその一つで、「世間」の「身分制のルール」のなかに構造的に埋め込まれている。
森・元組織委会長の「わきまえている」発言が意味しているのは、まさに「女性は身分をわきまえろ」という「身分制のルール」のことに他ならない。ただしこの発言にも、「よくある話なのに、なぜ辞める必要があったのか?」と思ったのは、とくに男性に多いのではないか。
そもそも「世間」自体が「身分制」という差別構造を持ち、女性差別だという実感がまるでないのは、女性差別がそのなかに見事に埋め込まれ隠蔽されるために、きわめて見えにくくなっているからだ。
◆夫との間で「母子関係」まで背負うことを求められる妻
日本人の意識の底辺にある「世間」によって、女性差別が見えにくい理由がもう一つある。たとえば、歌手で俳優でもある武田鉄矢さんは、3月にテレビ番組「ワイドナショー」に出演した際、西洋に比べて日本が「男性優位社会って言われていますけど、そんな風に感じたことはありません」と断じ、夫婦関係を念頭に、「やっぱり日本で一番強いのは奥さんたちだと思いますよ」と発言している。やっかいなのは、夫婦関係において「日本で一番強いのは奥さん」と思い込んでいる人間に、社会関係におけるジェンダーギャップを指摘しても、まるで実感をもてないのではないかということだ。
つまり日本社会のキモにおいて、夫婦関係と社会関係には一種の「ねじれ」があり、夫婦関係では、男性より女性のほうが一見「強い」ように感じて、甘んじていられる。しかし、この「ねじれ」はほんの都合であって、表面的なものにすぎない。
たとえば昨年6月、お笑い芸人の渡部建さんの不倫問題が起きたときに、妻で女優の佐々木希さんがインスタグラムで、「この度は、主人の無自覚な行動により多くの方々を不快な気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません」と、「世間」に謝罪したことは記憶に新しい。これは、夫の不祥事を妻が「世間」に謝罪しなければならないのは日本特有の現象なのだが、「世間」が謝罪を要求するのは、夫に対して妻は母親としての「監督責任」があると考えるからだ。
日本の夫婦関係は、相互に独立した個人としての男女関係にはなっておらず、非対称の依存関係としての「母子関係」である。 この点で最近、心理学者の信田さよ子さんが、日本のDV加害者の男性の特徴について、面白いことを指摘している。
たとえば、北米の男性の場合、妻への嫉妬がDVの引き金になっている例が多いのに対して、日本では妻が他の男性に惹かれることなど考えもしない例が多いのだという。「日本の男性は妻を女性としてではなく、『自分を分かってくれる存在=母』としてとらえている」ことがDVの根底にあるのではないか、というのだ。この差別的構造はきわめて自覚しにくい。
◆女性役員比率と業績に相関関係、見方や考え方の多様化で活性化
企業での男女差別や格差をなくしていくにはどうすればよいのか。この状況を変えるには、日本では差別が見えにくい構造があることをよく自覚し、すみやかにジェンダーギャップを埋める具体的な方策を講じる以外にない。
BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の報告書(2017年)によれば、興味深いことにこの報告では、東証一部上場904社を調査し、「日本企業の女性役員比率と企業業績には相関関係が見られる」と結論づける。つまり女性役員を増やすことで企業業績が上がる。それは、「ものの見方や考え方が多様化することで、企業が活性化し、イノベーションが加速する」からだという。日本企業における女性役員の割合は、ノルウェー36%、フランス30%、イギリス23%、アメリカ・ドイツ・オーストラリア19%などと比較して、危機的な状況で、わずか3%と著しく低い。
これは一つの例だが、政治のかかげる「女性活躍推進」が建前だけにならないためにも、女性の管理職を増やすなどの実効的な手立てを、躊躇することなく実施することが必要だ。
出典:ダイヤモンド(5/10) 韓国の性平等は、世界的に見るとどのあたりに位置しているのだろうか。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数(GGI)では、男女の格差を相対評価して計算する。経済活動参加率、識字率、教育率、出生性比、期待寿命、国会議員および政府閣僚の割合の男女格差を指標として用いて算出する。男女の格差であるため、男女ともに絶対的な数値が低くても、格差が相対的に小さければ点数が高くなり得る。GGいの4つの指標の中で韓国と日本は、国会議員および閣僚の割合などが基となる政治的権限の指標で、調査対象153カ国中、韓国が79位、日本が144位と下位圏となっている。
経済的な部分では、経済協力開発機構(OECD)が男女の賃金の中央値の格差を用いて発表する男女の賃金格差の順位が注目に値する。韓国は、調査対象28カ国のうち最下位だった。この統計も、各国の賃金水準の調査基準となる年度が少しずつ違うため、完璧な調査とは言えない。ただし、韓国は保健と教育の絶対的な環境は改善されているものの、職場における男女格差は依然として大きいということには注目すべきだ。
世界の主な機関が発表するジェンダーに関する指数は、参考にすることはできるが、絶対的な基準と考えるには無理がある。各国のジェンダーに関する統計は完全ではなく、それを反映する方法によって順位が大きく揺れ動くからだ。それを示す代表的な例が、国連開発計画(UNDP)のジェンダー不平等指数(GII)と先に述べたGGIに表れた韓国の順位の差だ。昨年発表されたGIIによると、韓国は189カ国中11位(0.064)で、アジア最高の優等生だが、GGIは153カ国中108位、日本121と下位圏だ。
結果が大きく異なるのは、指数を構成する要素と計算方式が違うためだ。GIIにおいて韓国は、絶対値として反映される指標である母性死亡比が11人、青少年出産率(15〜19歳の女性の人口1000人当たりの出産数)は1.4人と比較的よい指数なため、順位を上げる要因となっている。韓国政府もGIIについて「経済活動領域の指標が限定的なため、性平等水準を十分に表せていないという限界がある」とし「男女の賃金格差、労働市場における職種隔離および男女間の時間使用の差、家庭内暴力などの領域が除外されている」と指摘している。
チョ・ギウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
2021年05月17日
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