1896年から始まった近代オリンピックで開催時期が一年先送りになった例は初めてである。立命館大産業社会学部の権学俊教授(スポーツ政策論)は「開催契約上、日本は開催義務だけを持っていて、前もって中止とは言えない仕組みになっている」と指摘する。世界パンデミックのさなか、東京オリンピックが「人類がコロナに打ち勝った証し」と、言える日にしていく使命がある。
ファイザー製ワクチンは、大型連休中までに65歳以上の高齢者向けとして全1741市区町村に1箱ずつ(1瓶6回分前提で1170回分)配送される。調達を担う河野太郎担当相の説明を踏まえれば、5月中にはさらに1千万回分以上が入ってくることになっている。全てがその通りになれば、そこで全自治体の4分の3に当たる1300余りの自治体が1回目分の確保完了となる。経済協力開発機構(OECD)37カ国と比較しても接種率、断トツで最下位だ。
5月後半の17日の週までには、さらに計2万箱が空輸される。単純計算でもう10箱ずつが届くので、日本の高齢化率を29%として、
・人口4万人以下の自治体ならこれで全高齢者への接種1回分をカバーできる。
・東京については、入所者以外の高齢者への接種は連休から5月中旬にかけて始まる。6月以降はさらに供給スピードが上がるので、月末までには医療従事者を含めて、東京の全人口約1400万人の4分の1以上が接種を終えるか、2回分のワクチンを確保できている計算だ。
パラリンピックを含めて数万人にもなる選手や大会関係者を安心で安全な環境下に置くのは「至難の業」(政府関係者)だ。徹底した検査と厳格な行動管理が不可欠になるが、国内で医療資源が逼迫している中で、万全な態勢が構築できるか見通せない。各国・地域の選手団が来日できても、政府が求める厳しい感染対策への負担から「事前合宿」の受け入れを断念する自治体が相次いでおり、十分な事前調整ができない懸念が浮上。そこで、26日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務総長が、日本看護協会に500人の看護師確保を依頼した。
既に医師不足、看護師不足が社会問題化しているのが現状である。観戦者について言えば、一部競技では無観客試合もありそうだが、それでも医療関係者の不在はあり得ない。報道関係者も世界中から数千〜1万人が訪れると予想される。既に病床が逼迫し、医療崩壊が現実になりつつある大阪(近畿圏)の現状が、いつ東京(首都圏)に飛び火してもおかしくない。そして今、日本のコロナ死者は1万人を超えた。
五輪を盛り上げようと3月25日に福島からスタートした聖火リレーは、次々と公道での実施が中止されたため、あちこちで寸断されてしまった。政府のもくろみ通り、ワクチン接種が迅速に進み、コロナ感染を抑え込めるのが期待だ。
6割以上が抗体を持てば感染の連鎖が途切れるので、8割が抗体を持っていれば、抗体を持っていない人も感染のリスクは低くなり、安全にオリンピックが開催できると考えられている。
参照:47NEWS(5/2) 最悪の想定は、不参加国が続出。すでに、 北朝鮮はコロナを理由に不参加を表明。予選で五輪代表を決めらないため、国際ランキングで選出する競技も出てきそうだという。
しかし、戦前に嘉納治五郎師が、東洋初と熱望した東京オリンピックの決定、そして入念な準備して東京開催に向けていった百年前と比べてみれば、まだしもだ。それには学生たちを奮起させ、相当な私費を投じて、政府関係者などに理解を求め、会場用地、建設の段取りまでもしなくてはならず、関東大震災が起き、スペイン風邪のパンデミック、日本が太平洋戦争に進む中でも、東京でのオリンピック開催をと主張してIOC委員たちを説得した。それでも開催の同意を取り付けて、帰国の途上の船上で急逝した。残された家族は、嘉納師が残した多額の借金の返済に追われ、財産をあらかた処分して我孫子にあった別荘を自宅に代えて住み替えるのをやむなしの経過もあったのだ。
戦後になった1964年の東京オリンピックとして、初の東洋での開催を実現したのには、嘉納を良く知るブランデージがIOC会長になっていたこともあったといわれる。そして、第二回となる東京五輪「復興五輪」を掲げてきたが、コロナ禍での仕切なおしとなり、翌年への延期を決めると、2020年8月28日に安倍首相が辞意表明をおこなった。この頃は、五輪開催による経済効果をあてにしていたのであろうし、選手対地への希望をつなぎ、世界ともスポーツ友好のメッセージ発信にある程度の意義を継続する気分があった。
2021年3月、野村総研によると「経済効果を期待して」延期開催を支持しても期待はできないとの試算がでている。五輪開催国として、経済的利益が得られない初の開催国となる経験を通じて、世界に向けて「五輪の縮小化」に舵をきろうと声を上げる資格はできる。日本が苦心した「簡素化」や「分散化」、そして「選手第一」は確実にキーワードになる。国際社会に対してどのように踏み込んだ問題提起ができるのか課題である。
昨年3月19日の時点では、関西大学・宮本名誉教授にしても、一般的には大会開催中の経済効果がもっとも大きいと考えがちであったことに、宮本名誉教授は「本当は大会開催前および開催後の経済効果のほうがはるかに大きい」と解説。宮本名誉教授は「1年間大会を延期しても経済的損失はほとんどないとか、経済効果は変わらないとか言うのは間違いであり、かなり大きな経済的損失が予想されることになる」としていたのは、想定されるはずの経済効果=収益が無いことを損失と言っただけで、利益が得られる正常な社会情勢ではない以上、中止も延期も経済効果を期待できる条件にないということになる。
班来であれば、オリパラの経済効果は、「大会開催前」「大会開催中」「大会開催後」に3分類して、次のように試算していた。
東京オリンピック・パラリンピックが1年間延期されたときの経済的損失については、競技場や選手村などの施設の1年間の維持・修理・管理の費用として約225億円、大会に関係する各種スポーツ団体が五輪に合わせて再び準備する1年間の必要経費となる約3,900億円などを合計して約4,225億円と試算。「大会延期で失われる経済効果」については、東京オリンピック・パラリンピック準備局の「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」が示した項目をもとに約2,183億円と算出した。1年間延期の経済的損失の総計額は約6,408億円とした。なお、中止による経済的損失には、新型コロナウイルスの影響で、くるはずだった観光客がほぼゼロとの影響は含んでいない。これはコロナによる観光客の減少、国民の消費減などのマイナスの影響である。
東京五輪については、2019年12月4日、会計検査院が、関連事業に対する国の支出が約1兆600億円に達しているとの集計結果を公表している。パリ五輪は約68億ユーロ(約8000億円)、その次のロサンゼルス五輪は約70億ドル(約7500億円)の予算と言われている。金持ち国が開催する贅沢イベントとなっている。
一方、2020年東京オリンピック・パラリンピックが中止された場合、延期に伴う先に示したような諸費用は発生しないが、大会開催によって想定された経済効果の大部分が失われることになる。東京オリンピック・パラリンピック準備局の「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」によると、直接効果の経済効果は約5兆2,162億円のはずだった。ただし、設備整備費はすでに投資・消費済のため、中止になっても経済効果の約1兆7,538億円には影響しないため、その分を引き、失われる直接効果の経済効果を約3兆4,624億円とは、インバウンドを相当に盛り込んでの推定だったはずだ。五輪開催に関係なく、昨年のコロナ自粛によってほぼ同額の経済効果が消えた、期待できた消費がなかったということだろう。
大会中止で失われるレガシー効果の経済効果については、「スポーツ、都民参加・ボランティア、文化、教育・多様性などのレガシー効果」の経済効果の約1兆7,028億円は約5割が失われるとして約8,514億円と仮定。「経済の活性化・最先端技術の活用などのレガシー効果」の経済効果の約20兆1,257億円の約1%が失われると仮定して約2,013億円とし、あわせて約1兆527億円と推測。
東京オリンピック・パラリンピックが中止の経済的損失の総額は、生み出されるはずの「直接効果の経済効果」約3兆4,624億円と、「失われるレガシー効果の経済効果」約1兆527億円をあわせて約4兆5,151億円とした。損失とはいうものの、これまでの資産がマイナスになったというよりは、相当な収益も想定された事業のために資金投入したのに、リターンがされないということだ。東洋初の五輪開催国として、嘉納治五郎師の意気を思い出して、継承していくべきだろうと思うところである。
参照HP:https://resemom.jp/article/2020/03/19/55429.html
https://news.yahoo.co.jp/byline/saorii/20200510-00175990/
2021年05月02日
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