もし苦しさを感じたとき、SOSを出せる人や社会資源を、いま思い浮かべられるだろうか。
日本政府は2021年、「孤独・孤立担当大臣」のポストを新設したばかりだが、これはイギリスに次いで、世界2番目の取り組みだ。
コロナ禍が長期化し、孤独・孤立は、私たちのメンタルヘルスをじわじわと蝕んでいく。その以前より、独居高齢者が増えいること、非婚、離婚のシングル中高年も増えていることも社会事情として認識済みだ。みんなが中流だとの過去の思いも、皆が幸せ家族を得られるというのも虚実も含めて、現実がかわってきて、孤立や孤独とどう向き合っていけばいいのだろうか。メンタルヘルスの不調を自覚するのは難しい。しかし、自覚できたとしても、病院にかかったり、誰かに相談したりするのもまた、難しい。いざというときに、孤立し孤独で人間関係が希薄であると、問題が肥大化してしまう。
不安障害と発達障害を専門とする医師の岡琢哉氏は、不安の募る日々が続く中で、孤独・孤立とメンタルケアにまなざしを向けてみることを勧め、次のような考えを述べているのでご参考まで。
◆「相談=アドバイスをもらうこと」とは限らない
「確かに、相談はとても難しいことです。自分の弱さを見せるのは勇気が要りますから。ただ、本当に困っている瞬間は、誰かに吐き出すだけでいいんです。アドバイスを受け取る余裕がないときでも、吐き出したときに『大変だったね』と一言もらえるだけで心が軽くなることもあります。困っていることを整理したり、自分にはない選択肢が見つかることもあります。」
◆そもそも「うつ病の成因」になりやすいものとは?
「つまり、コロナ禍はうつになりやすい条件をいくつも備えているのです。私たちは今、働く環境が変わったり、身近な人や著名人を喪失する体験をしたりしています。他人事にせず、みんなが気をつけておいたほうがいい状況です。
特に、孤立していると、日々更新されていく感染状況、緊急事態宣言などのニュースがどんどん入ってきて、飲まれてしまいやすいので、より注意が必要です」
冒頭に記した通り、日本では、孤独・孤立対策担当大臣のポストが新設されたばかりだ。私たちはいま改めて、孤独・孤立とメンタルケアに、どう向き合っていけばいいのだろうか。
「まずは医療機関を検討してほしいですが、病院はあくまで『検査』『診断』『治療』を行う場所であることも事実です。『福祉につなぐこと』や『支援を受けること』まで行なってくれるかどうかは、その病院の余力次第となってしまっている現状があります。私自身、医師として医療機関だけで働いていて支援が滞っていることに課題を感じたことから、精神科訪問看護事業やメディア事業を立ち上げている最中です。ご自分の住んでいる地域で、頼れる資源を確認しておいてください」
◆「拠りどころの定期点検」を
自己責任論が根強い社会ですが、医療や福祉、地域、そしてインターネットなどを介して、手を伸ばしてくれる人も実はいる。岡氏は、頼っていける人や物などの「拠りどころの定期点検」を勧める。「避難訓練と同じように、定期的に『拠りどころの定期点検』をするのがいいのではないでしょうか。自分が普段どんなものや人に頼って生きているか。つまり、当たり前に思っている道路や電気・ガス・水道、交通などのインフラ、そしていざというとき相談できる人、場所などです。不調になる前に相談できる相手を見つけておくこと、安心できる空間を持っていることで、孤立しないことが大事です」
◆「誰かを頼ることを恐れないでほしい」
最後に、岡氏はこう付け加えた。
「裏切られた経験がたくさんあったり、つながってもいいことがなかったりすると、『拠りどころ』を持つことが難しくなっていることもあると思います。ただ、人間は必ず人間を介在させて生きていて、本当の意味では1人で生きていくことはできません。誰もが1人の人間として、医療や福祉、地域にさまざまなつながりを持てることを知ってもらった上で、『誰かを頼ることを恐れないでほしい』と伝えたいです」
【岡琢哉】
1987年生まれ。岐阜大学医学部卒業。精神科専門医・指導医。都内のクリニックで臨床を行う傍ら起業し、精神科訪問看護ステーションの運営に携わっている。自閉症スペクトラム、ADHDを含む発達障害/子どもと大人の不安障害/精神療法を専門としている。
2021年05月09日
この記事へのコメント
コメントを書く