前提条件は以下の通り。
・退職金2000万円、年金受け取りをした場合の予定運用利率は2%
・60〜64歳は再雇用で働き、給与年収は350万円
・65歳から公的年金220万円の受給がスタートする東京23区在住の人
・給与も含めた手取り収入を比較
60〜69歳の10年間の収入を下記の三つのケースで比較している。
「全額一時金」 額面収入は、当然予定運用利率2%の「全額年金受け取り」が最も多くなる。
「全額10年確定年金」
「一時金と10年確定年金半分ずつ」
しかし、手取り収入では「全額一時金」が1位と結果が逆転する。年金受け取りが優位にならないのは、年金収入が増えることで税金と社会保険料の負担が増えるからだ。
なお、自治体によって国民健康保険料や介護保険料が異なるため、手取り額はどこに住んでいるのかによっても金額が変わることは知っておきたい。
試算は前提条件に基づいた一例だが、手取りの順位はどこに住んでいたとしても大きく変わることはない。
退職金をお得に受け取る
「五つの法則」とは?
「一時金受け取りの方がお得」ということが多くの人にとって意外な試算結果だったため、注目を集めることになったのだろう。誰だって一番お得な選択をしたいと考える。
その後、コラムを読んだ定年退職直前の人から「自分の場合はどうなのか」と受け取り方法についての相談が相次いだ。相談事例が増えるほど、私の引き出しも増えていく。お得かつ自分に合った受け取り方法を考えるための「法則」を選び抜いたので、参考にしていただきたい。
(1)一時金受け取りは、税金がお得かつ社会保険料がかからないから有利なのでフル活用する
退職金を一時金で受け取ると、勤続年数に応じて一定の「退職所得控除」という非課税の枠があり、勤続38年だと退職所得控除は2060万円にもなる。控除額を差し引いた後の金額に2分の1を掛けた額に対して所得税と住民税が課税される仕組みで、会社員にとって有利な計算方法が採られている。分離課税といって、その年の他の所得と合算して課税されないのもありがたい(給与と総合課税されると所得税の税率が上がってしまう)。さらに退職所得には社会保険料がかからないのもメリットだ。退職所得控除の金額までは非課税なので、手取り額を増やしたいなら残さずに使い切りたい。
(2)年金受け取りに「終身」の選択肢があるなら、長生きリスク対策として活用する
受け取り方法の選択肢は企業によって異なる。もしも、雇用先で年金を「終身」で受け取る選択肢があるなら、長生き対策として活用するのもいい。企業年金の全額が「終身」という会社は少なく、年金原資を「10年確定年金」「15年確定年金」「終身年金」の中から組み合わせて選ぶようになっているケースが多い。
その際、同じ年金原資額なら1年当たりの年金額は、10年確定年金が最も多くなり、終身受け取りが最も少なくなる。
年金収入が増えると、税金と社会保険料の負担が増え(特に社会保険料)、額面収入に対する「手取り率」は減少する。手取り率を少しでもアップさせるには、企業年金は「長い期間」で「1年当たりの金額は少なく」受け取るのがコツだ。
参考までに年金収入ごとの手取り額と手取り率を試算した表を掲載する。
(3)年金受け取りをする期間は、可能な限り社会保険に加入して働く
企業年金を受け取りながら社会保険(厚生年金と健康保険)に加入して働くと、年金収入には国民健康保険料はかからないため、年金の手取り率はアップする。健康保険料は給与収入にだけかかり、さらに保険料は労使折半のため自治体の国民健康保険料よりも負担が少なくなるからだ。
企業年金の受け取り開始時期を「60歳」か「65歳」で選択できるなら、60歳スタートがいい。再雇用で働く期間とダブらせる方がお得である。
外資系企業で働いていた人が相談に来た時のこと。一時金受け取りと組み合わせても企業年金の金額が驚くほど多かった(なんと400万円くらい)。これほど多いと国民健康保険料の負担が重くなって手取り率が下がってしまう。
その人は60歳以降の再雇用は断って、友人の会社で経理を手伝うという。時給だけれど年収は150万円くらいになるので社会保険に加入して働くと聞いて、私は大喜び!なぜなら、社会保険料は給与収入の150万円に対してだけしかかからないからだ。年収150万円の社会保険料はいくらでもなく、手取り率は大幅にアップする!
「企業年金を受け取る間はお友達の会社で働き続けてくださいね!」とアドバイスした。
(4)勤務先のDC(確定給付年金)やiDeCo(個人型確定拠出年金)、保険会社の個人年金があるなら、65歳以降に年金が集中しないように受け取り開始時期を調整する
繰り返しになるが、年金額が多くなるほど「手取り率」は減少する。他に年金収入になるDCや個人年金があるなら、それらも考慮して退職金の受け取り方法を調整する必要がある。
受け取り時期が集中すると、年金収入が多くなり不利となる。特に65歳のリタイア後に年金額が多くなると国民健康保険料・介護保険料の負担が重くなるので、DCや個人年金は再雇用で働く60代前半に受け取りをスタートさせるのも選択肢だ。
「受け取り時期を分散させるのがいい」と覚えておこう。
(5)退職金はできる限り「一時金」で受け取るのが有利となるが、実はそれに向かない人もいる。それは「無駄遣いが過ぎる人」や「計画的にお金を使うのが苦手な人」である。支出コントロールが苦手な人は、損得を考えずに「年金受け取り」をする。
■「厚生年金が減る!」選択制DCの落とし穴と対策
企業型DCは通常、掛金を勤務先が出してくれるが、従業員が負担することもでき、その場合、所得税や社会保険料が少なくなり手取りが増える。これを「選択制DC」という。お得なようだが、注意点もあって、将来の厚生年金が減ってしまうかもしれない。
●給料の一部をDCの掛金にするか、そのまま受け取るかを選べる
選択制DC(確定拠出年金)は、給料の一部を年金の掛金にするか、そのまま給料として受け取るかを従業員が決める(選択する)制度だ。
DCの掛金となる給与の一部は「ライフプラン手当」「生涯設計手当」のような名目で再定義され、その部分をどうするかを従業員が決めるのが選択制DCの仕組みとなる。
ライフプラン手当が3万円だとして、3万円を給料のまま受け取ることもDCの掛金にすることもできる。3万円のうち1万円だけをDCの掛金にもできるのだ。DCの掛金を選ぶと、その分給料が少なくなる。
DCの掛金にした分は会社が支払った「掛金」と見なされ、給与ではなくなるが、手取りは増える。
なぜなら、DCの掛金分は所得税や社会保険料の計算の対象ではないためだ。
掛金の部分には税金や保険料がかからないので、給料としてもらったお金を自分で投資に回すよりは有利といえよう。給料には税がかかっているからだ。
●DCの掛金にすると将来受け取る厚生年金が減る
この仕組みでDCの掛金を増やすと社会保険料の負担が減るものの、デメリットとしては、将来の厚生年金も減ってしまうことがある。
厚生年金以外にも減るものとして、「傷病手当金」「出産手当金」「失業給付」などがあり、注意が必要だ。
たとえば、30歳、税込み年収400万円、掛金月額2万円での1年間の手取り増加分を概算すると、5万8,032円となる。
これは所得税や住民税、社会保険料の減った負担額だ(60歳まで給与が変わらないと仮定)。
税金・保険の種類 負担がいくら減るか
所得税 8,100円
住民税 1万6,200円
社会保険料 3万3,732円
合計(増える手取り額) 5万8,032円
(筆者作成)
30年間同じ掛金を支払い続けると、約174万円の負担減となる。
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