新型コロナウイルス感染症(Covid-19)が「感染症2類相当」とされたため、患者に対処する病院が公的病院や非営利病院に限定され、現実にはざっくり言ってコロナに対処していない″民間病院が数多く存在する。
テレビのモーニングショーなどは混乱の現場を捉えて「日本はいま医療崩壊の状況にある」と報道してきた。そのため国民は「医療崩壊」を自分の死″と直結して受け止め、マスコミなどが恣意的に遮断して報道しない「その他」の状況には思いが至らなかった。
しかし、発症から1年が過ぎようとする頃から、良心的かつ勇気ある医師の間から疑問の声が聞かれるようになり、冷静さを取り戻して現実を眺めることができる状況になってきた。そこに見えるのは、感染症の分類だけでなく、政府や地方自治体に欠落した正しい情報の発信、病院内および病院間の想定外を含めた非常事態対応の不備などである。
2回目の緊急事態宣言が出されたにもかかわらず、コロナに対する慣れもあろうが、今回は国民の行動に前回ほどの抑制が見られないことが問題になっている。多くの人からは前回は恐怖心も手伝って異常な自粛も受け入れたが、今回は生活するうえでの最小限の行動であり、企業は経済活動をする必要があるとの声が聞こえる。
しかし、問題は本当に日本の医療が崩壊に直面しているか否かである。 日本医師会をはじめ、都道府県医師会には言葉より先に人命尊重の有効策を提示し、国民の安全と安心を叶えてもらいたい。法改正の審議を国会でやるのではなく、医療機関が本当に″全力で対処しているにもかかわらず感染拡大が止まらないというのかである。日本医師会をはじめ、都道府県医師会には言葉より先に人命尊重の有効策を提示し、国民の安全と安心を叶えてもらいたい。
欧米では感染者や死者が日本よりはるかに多く、医療崩壊の危機が叫ばれながら凌いできたのは公的病院などがフル回転しているからである。米仏独では非営利病院を含む公的病院が70%前後、英国では大半で、民間病院は30%前後(英国では一部)である。 一方、日本では前者が約20%で、約80%は民間病院(個人経営の病院・診療所等)である(大村大次郎「国民の命より開業医の利権。コロナで物言う日本医師会の正体とは」2021.1.19)。対する日本では20%前後でしかない公的病院が主として対応しているからにほかならないことが明らかになってきた。
であれば、内閣が「命令」し、事態が収束した段階で国会に事後承認を得ればよい。しかし、そうした動きは一向に見られない。やはり「お願い」と「自粛」で、命令や罰則については今後の国会で審議するという。なんとも悠長で緊迫感がない。病院の大部分を占める民間病院は自民党の支持母体で多額の政治献金をしている日本医師会(傘下に東京医師会など各都道府県医師会)所属の開業医による経営で、コロナ対処からは一歩引けた立場にある。そこから、感染防止や医療崩壊に全力投球すべき政府・地方自治体や医療機関が全集中していないのではないかという疑念がわいてくる。
★なぜ医師会は立ち上がらないのか
日本では医療資源が十分に活用されているとはいいがたい。政府の指導もあって、団塊世代が高齢者となる平常時対策に力点を置いてきたからである。今次のコロナという非常事態が念頭になかったことは確かであろう。しかし、コロナウイルスの蔓延が現実に起きたわけで、世界の悲惨な状況を見るにつけ、平時対策はともかくとして、一時的臨時的にも非常時対策をとるべきであった。
日本医師会が厚労省を動かして2類から5類への変更要求をすべきであろうし、また医師会内で民間病院の積極関与を打ち出すべきではなかったか。政治が簡単に動かなければ、綱領の精神を発揮してまずは日本医師会と都道府県医師会が自分たちの資源を有効適切に使用できるように提供や提言すべきではなかっただろうか。
新型コロナウイルス感染症を「感染症2類相当」*に分類しているため柔軟性が殺がれている状況については、「日本の『医療崩壊』は偽善の政治的産物? 強制・罰則より医療資源の十分な活用が先だ」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63737)で言及した。
*1=2類は結核やSARS。ちなみに1類はエボラ出血熱やペストで、インフルエンザは5類
ところが国家の非常事態に必要な「緊急事態」条項が憲法にないがために、国家のあらゆるレベルにおいて緊急事態を想定した法規類が未整備である。
他方、ベッド数やICUなど世界一の医療資源を有する日本でありながら、コロナ問題が起きた直後から1年を過ぎた今日に至るまで毎日のように「医療崩壊」が叫ばれ続け、社会・経済活動には大きな制約がかかっている。
欧米と異なるのは、非常事態対応がとり得たか否かである。国会では緊急事態条項が議論になるであろうが、神学論争に終わることなく、欠落がもたらしている現実に焦点を当てた論戦を期待したい。
1月13日の会見で、日本医師会会長・中川敏男氏は感染が全国に蔓延して手遅れになることがないよう、早め早めの対策を講じることが大切。全国的な緊急事態宣言も選択肢の一つだ」と述べた。現在の医療提供体制について「全国的に医療崩壊がすでに進行している」と述べ、必要な時に適切な医療を受けることができない事態が広がっていると指摘。「首都圏など宣言対象地域において、通常の患者受け入れを断るなど、すでに医療崩壊の状態になってきている。心筋梗塞や脳卒中で倒れた患者の受け入れ機関が見つからない、がんの手術が延期された、ということが現実化している」と訴えた。そのうえで、「さらに感染者数の増加が続くと、医療崩壊から医療壊滅につながる恐れがある」とした。
東京医師会会長の尾崎治夫氏も「助かるべき命が助からない状態になっている。・・・自分や自分の周りの人が、体調が急変したのに、どこの病院にも受け入れられずに亡くなっていく、そういうのは誰でも嫌いでしょう」(小川和久「NEWSを疑え!」2021.1.10)などと発言している。
ひとえに憲法に緊急事態条項がないばかりに、その意識が共有されず、施策が思うように進まない現実からの発言ではないだろうか。
◆放置された病院間・自治体間の共助
旭川(北海道)や大阪では自衛隊に災害派遣要請が出され、自衛隊が派遣された。
日本医師会に登録している医師数で、大阪は東京に次いで2番目で、愛知・神奈川・福岡・兵庫に次いで北海道は7番目、北海道は先ほど見たように日本医師会加盟の医者数においても上位にあり、また人口当たり病床数も非常に高い医療施設が充実している地域である。ところが、コロナ患者を受け入れている病院では、医師も看護師も患者に対して従来なかった対処が必要となり、心身の疲労が蓄積し、この現場だけを見ればパニック状態で「医療崩壊」に近いと見なされてもおかしくなかったであろう。
旭川の事例を見れば、違った一面が見えてくる。
「中でも旭川は病床の多い地区で、500床クラスの大病院が3つ、300床クラスの病院が2つ存在している。こうした医療資源の豊富な地区において、医療崩壊が問題になるということは通常では考えにくい」(森田洋之「医療資源世界一 日本だけなぜ医療崩壊が起きる」、『文藝春秋』2021.2所収)。
12月16日時点の北海道で重症者向けに確保した病床は182、実際に入院していた重傷者は34人で、使用率は19%でしかなかった。
旭川市は入院重傷者を公表しなかったが札幌市が19人であったところからは15人程度とみられる。
当時、秋田県は確保病床222床に対し入院患者3人、重症患者用に確保するICUは24床であったが患者はゼロであった。
旭川や北海道で対応できなければ、秋田県のような近隣からの支援も可能ではなかっただろうか。
大阪も同様で、これらの事例からも分かることは、「病床が不足しているのは、大部分の病院が協力しないからです」と語るのは「食の安全・安心財団」の理事長で東京大学の唐木英明名誉教授である(「死神の正体見たり」、「週刊新潮」2021.1.28所収)。
日常的な患者の「たらいまわし」
今次のコロナ感染症も含めて、医療資源が世界一と言われながら、頻繁に起きる救急を要する患者のたらいまわしで死に至る状況もしばしば報道されるからである。また、無医村や僻地医療がいつも問題になる日本である。感染症患者に死力を尽くしている医師・看護師らを除く医師たちの心構えにも問題があるのではないだろうか。憲法に緊急事態条項がなくても非常事態の備えは必要不可欠のことではないだろうか。
民間病院の院長を含めて開業医の平均年収が約3000万円と言われ、外車も数台もあるのに、片や無給医がしばしば問題になる。無医村や僻地医療などもしかりである。日本の僻地とはいえ、開発途上国に比すれば衛生状況や民度は格段に良好で雲泥の差がある。僻地という名の通り都市部から離れた土地で人口も少ないであろうが、文明の利器は手にできる。
欧米諸国が新型コロナウイルスによる感染者や死者を日本の何十倍も何百倍も出しながら医療崩壊に至っていないのは、非常事態を見据えた体・態勢を整備していたからだとされる。日本は憲法の緊急事態条項云々もあろうが、現実に即した医療態勢の構築がなされていないからである。
今回のコロナに即していえば、病院内および病院間の有機的運用、診療科間や病院間の相互連携、さらには自治体間の協力、すなわち菅義偉首相がいうところの「自助」「共助」がほとんど機能せず、一気に政府と自治体の関係という「公助」に解決策を見出そうとした感が強い。医療崩壊の一因は、豊富にある医療資源、中でも病院の大半を占める民間病院が十分に活用されていないということに尽きる。
世界一の医療資源が肝心の時に生かされない医療態勢とは速やかに決別し、一人でも助かる命を助けるのが「生きた医療」ではないだろうか。
参照:JB Press https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63737?page=5
2類相当とは、致死率が高く、未知で、治療法がない病気を念頭に置いているが、武漢で発生して、1年が過ぎ、治療薬もいくつか見つかり、ワクチンも開発され接種が始まっている。今回のコロナに即していえば、診療科間や病院間の相互連携、さらには自治体間の協力、すなわち菅義偉首相がいうところの「自助」「共助」がほとんど機能せず、一気に政府と自治体の関係という「公助」に解決策を見出そうとした感が強い。
欧米諸国が新型コロナウイルスによる感染者や死者を日本の何十倍も何百倍も出しながら医療崩壊に至っていないのは、非常事態を見据えた体・態勢を整備していたからだとされる。
★医師会会長の弁
「民間病院はコロナ患者の受け入れが少ない」と記者会見で指摘された時、中川会長は「コロナ患者を診る医療機関と通常の医療機関が役割分担をした結果だ。民間病院は面として地域医療を支えている。民間は中小病院が多く、相対的に医師が少なく、コロナ専門病棟をつくるのは難しい。院内クラスターも考えられる。通常の医療提供体制も死守しなければいけないというのが医療機関の思いだ」などと語った。「医療崩壊の危機だから自粛″しましょう」ではなく、「開業医もコロナやグレーの患者を受け入れましょう」というべきだとの指摘がでてきた。
厚労省関係者によると、がん研有明病院は昨年末まではコロナ患者を受け入れない方針できたが、今は40床、病床比率で5.8%をコロナ患者用にし、東海大付属東京病院は入院患者すべてを他へ転院させた上で全99床をコロナ病床にしたという。
分科会の尾身茂氏が理事長を務める独立行政法人「地域医療機能推進機構」が東京都内で運営する5つの病院の病床数は1532床、首都圏に緊急事態宣言が発出される前日(1月6日)時点でのコロナ患者専用の確保病床数は84床、受け入れコロナ患者は57人となっていた。分科会長傘下の病院のコロナ用病床は5.5%で、有明病院の比率よりも低い。 厚労省関係者が「首都圏は感染爆発相当″などと国民の不安を煽っている彼らは、実はコロナ患者受け入れに消極的」と述べ、5.5%を「非協力的な証拠」だと語る。
米国のアルバート・アインシュタイン医科大学教授を兼ねる東京慈恵会医科大学外科統括責任者で対コロナ院長特別補佐・大木教授は「第2類から格下げすれば、国民に向けて、正しく恐れ、十分に注意しながら経済も回そうというメッセージになる」「より多くの病院が新型コロナの治療に参加できる」と語る。「日本医師会の会員大多数は勤務医ではなく開業医で、新型コロナの治療にはほとんど参画できていない」が、指定が外れれば「在宅、ホテル療養している患者のケアに、もっと積極的に関与できます」と教授は語る。教授は米英などの医療状況にも通暁しており、日本の現状を世界の大局から俯瞰して政府に独自の見解(医療体制の強化、経済との両立、コロナとの共生)を提案し、後には政府の未来投資会議民間議員に抜擢された。
日本にはICUを完備しコロナ患者の受け入れ可能な病院が1000ほどあるが、2類相当指定で310の病院しか受け入れていないし、2類相当を外せば残り700弱の病院もコロナ患者の受け入れが可能となるという。慈恵医大でも660人の医師がおり、ナースは1000人ほどいるが2類相当が障害となって、新型コロナに直接対応している医師は数十人、看護師は60人だという。
東京都はベッド4000床のうち三千数百が埋まっており使用率は9割、ICUベッドも250床のうち129床(1月10日)が埋まっており5割超と述べてきた。ところが教授の調査では、ベッド数自体は都内に10万6240床、また都内のICUとHCU(準集中治療管理室)は2045床あり、これを分母とすると、使用率は3.3%と6.5%でしかないという。
日本医師会をはじめ、都道府県医師会には言葉より先に人命尊重の有効策を提示し、国民の安全と安心を叶えてもらいたい。
2021年01月28日
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