家に閉じこもらざるをえないのなら、この時期に本や映像などで日本のアナログ文化をもう一度学び直し、そのなかから何かしら自分にできるものを見つけてみてはいかがでしょう。
平安時代の貴族の女性たちは、出かけることもほとんどなく、家にこもって暮らしていました。そうした日々のなかから、和歌や日記文学といった文化が生まれました。日本のすばらしい手工芸も、家にこもって作るものがほとんどです。機織りや染色、刺繍なども、気が遠くなるくらい手間暇をかけて作ります。
江戸時代には町人、職人がさまざまな文化を生みました。たとえば浮世絵。歌川広重や葛飾北斎、喜多川歌麿などが名を馳せた浮世絵は、やがて世界的画家であるゴッホやゴーギャンにまで影響を与えます。
明治・大正、昭和初期には、日本画が見事に完成されていった。これら世界に自慢できる文化です。
なんでも日本の色は、3000色もあるそうです。それは、朱鷺(とき)、水浅葱(みずあさぎ) 、萌黄(もえぎ)色など、お納戸(なんど)色、素敵な名前がついています。歌曲の例でいえば、「城ヶ島の雨」で北原白秋が書いた一節に「利休鼠の雨がふる」とは、緑色を帯びた灰色のことで、本来は「りきゅうねず」と言うのが正しく、茶人好みの緑色がかった品のある灰色で江戸時代の流行色でした。
昔、ピエール・カルダンというフランスのデザイナーが来日した時、お会いする機会がありました。私(美輪明宏)が「日本の美術工芸をご覧になってどうでしたか」と尋ねたところ、フランスが世界一だと思っていたけれど日本のものには敵わないとおっしゃった。日本は、デジタルとは対極のアナログの宝をたくさん持っているのです。
最近は若い方のなかにも、たとえばフィギュアスケートの羽生結弦さん、将棋の藤井聡太さんなど、お手本にしたい方がいらっしゃるので嬉しい限りです。それぞれの分野ですばらしい成績をあげているけれど、闘争心はむき出しにせず、さりげなく。そして立ち居振る舞いが美しく、まわりの人への気遣いもすばらしい。まさに大和心を体現しておられる。そういう風に育ててきた周囲に応えて才能ある若い方々が何人もいるのを見ていると、日本もまんざら捨てたもんじゃないと愉しみに思います。
こういう時こそ、目の前のことに一喜一憂するのではなく、理性と理知を働かせて、自分を磨き上げる。そして、こういう時だからこそ、日本の歴史や文化の本質を見直してみる。2021年、皆さんがそういう豊かな時間をお過ごしくださるよう、心から願います。
【関連する記事】