アフリカ南東部のインド洋の島国モーリシャスの沖合で、日本企業の大型貨物船「わかしお」が7月25日に中国からブラジルに向かう途中のモーリシャス南東部の沖合約1・5キロの地点で座礁した。貨物船は積み荷を積載せずに中国の連雲港を現地時間2020年7月4日に出航し、シンガポール経由でブラジルのトゥバラン港(ポルトガル語版)に向かっていた。二つに割れた船体から、8月6日には約4千トンの燃料油のうちの約千トンが破損したタンクから海上に流出した。12日までに残りのほぼ全てを回収したとしていた。海上はともかく、海中のサンゴなどへの被害は分かっていないという。付近のサンゴ礁は広範囲に汚染されており、回復に20〜30年かかるとの指摘も出ていた。
貨物船は岡山県の長鋪(ながしき)汽船が所有する大型貨物船は、商船三井がチャーターして運航。顧(荷主)から荷物の運送を受託したのは長鋪ではなく商船三井。商船三井は自社で船舶を保有していている船主でもあるが、今回の業務については自社の船は使わず、今回は長鋪から船をチャーター(用船)して業務を行っていた。事故を起こした船は、たまたま長鋪が自社で船員を管理していたが、船員の管理についても別会社に依頼するケースが多い。海運は、世界でもっともグローバル化が進んでいる業界のひとつで、コストを削減するため徹底的な役割分担が行われてきた。多くの船舶は登録が簡便なパナマやバハマ、リベリアなどに船籍を置き、実質的には日本の船であっても、名目上の船籍は外国にある。商船三井はさらに、船主と船員についても役割分担が行われており、今回の貨物船にはインド人の船長と副船長もスリランカ人で、二人は安全航海の義務を怠った理由で逮捕されている。フィリピンの船員20人が乗っていたが、全員救助された。
モーリシャス政府は、船主である長鋪(ながしき)汽船(岡山県)に賠償を求める方針を示し、船は、沖合で海中投棄の予定だ。同社の広報担当者は「当事者としての責任を痛感しており、賠償については誠意を持って対応する」と説明してた。船体の一部を沖合へ引航する作業の様子を、日本から派遣されている国際緊急援助隊が8月18日、オンライン会見で明らかにした。援助隊は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が捉えた周辺海域の衛星画像を現地対策本部に提供したほか、19日にはモーリシャスの沿岸警備隊員向けに研修を開き、油流出対策の説明や油処理剤の使い方の実演などをした。
日本で大きく報道されることはなかったが、2013年にも商船三井は、インド洋沖でコンテナ船の船体が突然、真っ二つに折れて沈没するという大事故を起こした。その事故は海外では大きく報道されていた。
参照:朝日新聞オンライン
モーリシャスは、東京都とほぼ同じ面積に約130万人が暮らす。透き通った海は世界的にも有名で、「トム・ソーヤーの冒険」の著者、マーク・トウェインは、その美しさから「神はモーリシャスというパラダイスを創り、それをまねて天国を創った」と語ったとされる。
座礁現場に近いポワントデスニー地区周辺では、リゾートホテルが立ち並び、普段なら海水浴を楽しむ観光客でにぎわっていた。ただ、新型コロナウイルスの流行を受けて、3月19日から国際線の運航を停止し、今も入国を制限している。昨年は欧州や中国などから約140万人が訪問。630億モーリシャスルピー(約1690億円)の収入をもたらしたという。
リゾート地としての開発が進む一方で、海岸の環境保全や、数千とも言われる多様な生物の保護も進められ、数百メートル沖合には、亀や桃色のハト、爬虫類などが生息する小島もある。周辺の海はダイビングやシュノーケリングに人気のスポットで、色とりどりの魚やサンゴ礁を見ることができた。
現地ではボランティアが回収作業の主力になっていて、簡易な装備で、海岸やマグローブ林などに漂着した油を取り除く作業をした。また、中国国営の中国中央テレビは、現地にある中国大使館の館員や中国企業15社の従業員ら合わせて200人以上が、ボランティアで油の回収作業に参加したと伝えた。
ボランティアらは、サトウキビの葉やタオル、ペットボトルなどでオイルフェンスをつくり、油の拡散を防御しながら清掃を進め、砂浜の油の回収はおおむね終了した。しかしながら、マングローブ林では根元に黒い油が付着したままで、作業に参加した一人は「根が複雑に生えている植物のため、手作業が中心になるのではないか」と除去の難しさを指摘した。
2020年09月16日
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