22日、スーパーコンピューター性能ランキングで日本の新型機「富岳」が世界一になった。
理化学研究所(理研)は23日、神戸・ポートアイランドに整備中のスーパーコンピューター「富岳」が、計算速度ランキング「トップ500」をはじめ、スパコンの計算性能を示す主要4部門で世界1位になったと発表した。トップ500で日本勢が1位となるのは、2011年に2期連続1位になった先代の「京(けい)」以来9年ぶり。初採用の1部門を加え、「4冠」を達成するのは世界のスパコンで初の快挙という。富岳は富士山の異名で、「京」(19年8月に運用停止)の後継機。計算速度は毎秒41京5530兆回で前回王者の米国のスパコンを大きく引き離した。国費約1100億円が投じられ、理研と富士通が共同開発し、1921年度での本格運用を目指す。
理研計算科学研究センターによると、432台の計算機(1台は幅80センチ、奥行き140センチ、高さ220センチ)が並ぶ。既に新型コロナウイルス対策のため、試験運用が始まっている。「トップ500」は4部門のうち最も古い1993年から年2回発表され、主要部である中央演算処理装置の能力を競う。今回は富岳が2位の「サミット」(米国)の約2・8倍となる性能を示した。さらに、産業利用などの処理能力の「HPCG」、ビッグデータを処理する性能の「グラフ500」、人工知能(AI)の性能を測る新指標「HPL−AI」でも1位だった。HPCGでは、2位サミット(米国)の約4・6倍となる性能。グラフ500は大規模なグラフの解析で、15〜19年に9期連続1位だった「京」の2倍以上の処理能力となった。
構想から10年、プロジェクト開始から6年の歳月を経てほぼ完成し、“世界一”を達成した。理研計算科学研究センターの松岡聡センター長は「各主要分野で、突出して世界最高性能であることを示せた。富岳のIT技術が世界をリードする形で広く普及し、新型コロナに代表される困難な社会問題を多く解決していくでしょう」とコメントした。
このことを受け、共同通信の取材に立憲民主党の蓮舫副代表は「文部科学省も理化学研究所も、前向きな改革に取り組んで来られた努力に敬意を表する」と文書で回答した。事業仕分け、行政事業レビューの結果、スパコン開発は総合的な性能を追求する方針に転換したと指摘した。
旧民主党政権の事業仕分けでスパコン開発を巡り「2位じゃ駄目なんでしょうか」とした自身の発言に関し「速度が世界一になったとしても、使い勝手が悪ければ使われない。スピードばかりにこだわる理由を問うた」と当時の経緯を説明した。
参照:神戸新聞 神戸・ポートアイランドのスーパーコンピューター「京(けい)」が役目を終え、30日に電源が落とされる。旧民主党政権時の事業仕分けで「2番じゃだめなのか」と追及され、計画凍結の危機にもさらされた京。その後、演算能力世界一になり、各分野で力を発揮してきた。後継機「富岳」の開発に携わる理化学研究所計算科学研究センター長の松岡聡さん(56)は、京の足跡に敬意を表しつつ「富岳(の演算速度)は世界2位でも全然かまわない」と話す。松岡さんによると、京の残した最大の功績は、中央演算処理装置(CPU)をたくさん並べる「超並列」の手法で米国に遅れた10年を、一気に取り戻せたことだという。日本のスパコン開発は2000年代まで一つ一つのCPUを速くすることに重きを置いていたが、1990年代から超並列に切り替えた米国に“覇権”を奪われた。京によって再び国際的競争力を取り戻した日本はその後、次々と計算科学分野で成果を上げていった。
一方、松岡さんは「特殊なソフトでしか動かせないなど汎用性に乏しく、商業的に京が成功したとはいえない」とみる。富岳では、世界的に普及するマイクロソフト社製の文書作成ソフト「ワード」でさえ動かせる汎用性を重視。性能は京の最大100倍を目指すが、それ以上に、富岳用に開発した技術が広く社会に普及することを重視しているという。松岡さんは「世界ランキングは、結果的に1位を取るかもしれないが、われわれは気にしていない」とし、「国民の関心が高い医療や防災、産業、エネルギーなどの分野で成果を挙げることを重要な目標にしている」と話す。
富岳は、京で1年かかった計算を4日で終える計算能力を持つが、松岡さんは「巨大なスマホ(スマートフォン)のようなもの」と例え、使いやすさの面をより強調する。「人工知能(AI)に対応した機能も意識して入れた。汎用性と超並列による高速化を極めたマシン、それが富岳です」
京は9月以降に解体され、富岳は2021年から稼働する予定だ。
出典:神戸新聞Next(2019/8/28)
2020年06月24日
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