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僕はこれまでコメディアンとして、たくさんの舞台に立ち、そしてさまざまなテレビ番組をつくってきました。いいときもあったし、何をしてもダメなときもありました。そうした中で、僕なりの「運」の法則を見つけたのです。僕の「運」に対する考え方は、これまでにも僕の本やさまざまなインタビューで言及してきたので、ご存知の方も多いかもしれません。
それは、とてもシンプルな考え方で、どん底ときには大きな運がたまり、反対に、絶頂のときには不運の種がまかれているというものです。たったこれだけのことですが、どんなに辛いことがあっても、今に大きな運がやってくると信じて努力することができました。
しかし、僕には「運」だけでなくそれと同じくらい大事にしてきたことがあります。それが、「言葉」です。
いい言葉を聞くと、とてもうれしくなります。 同様に、自分がいい言葉を話すと、周りの人もうれしくなって、いい気分になります。そうやっていい循環が生まれて、いい運がやってくると思うのです。だから僕は、いつも発する言葉一つひとつを大切にしたいと思っています。
いくら努力をしても、自分に風が吹かないときは必ずあります。 何をしても裏目に出て、うまくいかないときもあるでしょう。ダメなときでも、言葉を磨くことで、いい運を引き寄せることができます。 何も話し方を変えるというのではありません。ほんのちょっとした心がけでできることです。
たとえば、「その服、お似合いですね」と言われて、「うれしい。ありがとう!」と言ってみる。つい「いえいえ…」と謙遜してしまうところを一工夫して、喜んでいる気持も返すようにする、たったそれだけのことで、褒めてくれた相手までいい気分になり、関係も深まると思うのです。
人生とは言葉の積み重ねです。その都度、どんな言葉を話すかで、終着点も大きく変わると思います。そんな言葉の力に目を向けてみると、毎日の生活も、もっと輝いて見えるんじゃないかなと考えるようになりました。いい言葉には、幸運を手繰り寄せたり、人生を好転させる力があります。 仕事で大成功する人、磁石のように周囲の人間を惹きつける人は、間違いなく言葉遣いの名手です。
日本テレビ系の『世界の果てまでイッテQ!』という人気番組があります。この番組が始まる前、担当ディレクターが僕に聞いてきました。
「どんなことに気を配れば番組が当たりますか?」と。
僕は、「ヒントは『遠い』と『辛い』だ」とだけ言いました。
すると、そのディレクターはそれを見事に実現しました。
『イッテQ!』は、タレントが遠くまで行って辛いことをこなしてくるという実にシンプルな番組です。
それがヒットにつながったと思います。
テレビの現場は常に慌ただしいものです。だから、ともすると「近くて」「楽な」方法で番組をつくりがちです。これはテレビの番組に限った話ではありません。 何か迷ったら、自分にとって物理的な距離や心理的なハードルがあったり、これはちょっと大変かなというほうを選ぶ。そこにいい物語が生まれ、人生を豊かにしてくれるのです。
『テレビで一緒に番組を作っていた仲間が、とてもいい話をしてくれました。
ある朝、彼はドッタン、バッタンという大音響で目を覚ましたそうです。
マンションの下で、何かの工事が始まったらしい。
事前の知らせもなく、朝8時からけたたましい音を立てられて、文句を言いに行こうと起きあがりました。
「“朝っぱらからうるさいな!せめて10時からにしてくれ!”と言おうと思ったんだけど、途中で気が変わった。 欽ちゃんだったらこういうときどうするかな、と考えて、欽ちゃんがしそうなことをしてみたんだよ」と。すると彼は、工事をしていたおじさんに「大変だね」と声をかけ、缶ジュースを1本差し入れたそうです。
「そうしたら工事をしていたおじさんが“すみません、うるさいでしょうね”と言うので、思わず“いやいや…”と言っちゃった。 不思議だね、次の日も工事の音で目覚めたのに、音がそんなに気にならなくなっていた。それに、時計を見たら9時でね、おじさんも気をつかって開始時間を遅くしてくれたみたい」
やせ我慢でもいいから優しい言葉をかけてみる。すると、お互いに気遣いが生まれて、いいほうへ状況が変わっていくんですね』
優しい言葉をかける、それこそが最も強く響く言葉になる、ヒントだった。
萩本欽一『ダメなときほど「言葉」を磨こう』(集英社新書)
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