千葉県の北西部に位置する白井市は、人口6万2447人(2013年8月末)。もともとは純農村地帯で、人口1万人ほどだった。都心から30キロの近距離にあることから、千葉ニュータウンの開発エリアとなった。
町と都心とを結ぶ北総鉄道(京成電鉄の子会社)が1979年に開通し、人口は爆発的に増加。5万人を超え、一大ベッドタウンへと変貌していった。そして、2001年4月に市制に移行し白井市が誕生。
郊外に生まれた千葉ニュータウンの一角にある白井市には、北総線(印旛日本医大駅―京成高砂駅間の約32キロ)が1979年から順次延伸させていった。バブル期の建設費の金利負担も響き、累積赤字を増大させていた。そこで、千葉ニュータウンの開発計画の縮小により乗降客数は伸び悩んだ結果、新住民の通勤・通学の足となる北総鉄道の運賃が値上がりしたのだ。このため、運賃アップを8回(消費税率改定分を除く)も繰り返し上昇していった。
初乗り運賃は最高290円。周辺の私鉄の2倍前後に相当し、通学定期にいたっては4倍以上。全国の高運賃鉄道の中でも3本の指に入るといわれている。
生活に大打撃を与える高運賃に、利用者の不満が爆発した。「北総線の運賃値下げを実現する会」(以下・北実会)が結成され、値下げを求める運動が始まった。メンバーのほとんどが通勤・通学で北総線を利用する白井市や印西市などのニュータウンの住民で、旧白井町の町議経験を持つ横山久雅子が事務局長を務めた。
横山を市長にとの市民運動で二度の選挙を経て千葉初の女性市長が2008年11月に誕生した。その翌年に知事に就任した森田健作によって、北総線値下げ沿線6市と県が年に3億円の補助金を出すことで、2010年7月に運賃が平均4・6%値下げされた。森田新知事の発案もあって沿線自治体が同意するなかで、白井の前述した「値下げを実現する会」はに下げ幅を不服として譲らず、その組織に関わる市議らで賛否同数の拮抗、何度も議会を持つが、補助金予算は議決に至らず、市長となった横山は苦肉の策で、先決やむなしと「議会が議決すべき事件を議決しない」事由に当るとして、10月13日に補助金予算案を専決処分した。「議会選挙まで(決着を)伸ばそうかとも思いましたが、県などに專結を迫られました。別の解決の仕方もあったのではないかとも思います」と、横山は当時の様子を無念そうに語る。
反対派は横山市長が踏み切った専決処分に猛反発し、臨時議会でもこれを不承認し、翌2011年3月議会でも補助金を削除した修正予算案を可決した。そして、横山市長への不信任案を提出し、補助金賛成派の議員からも賛同を得て可決成立させた。
不信任された横山市長は失職の道を選び、2001年5月に実施された出直し市長選に再出馬した。北実会の有力メンバーである補助金反対派市議も立候補し、結局漁夫の利を得る形で、市長選直前まで市役所で部長の職にあった井沢忠夫が、前市長にも要請されるかっこうで立候補して市長に当選した。
伊沢市長は、補助金支出なしでのさらなる運賃値下げを公約に掲げた。そのために北総鉄道の経営状況を把握する必要があるとし、印西市とともに公認会計士や弁護士などの専門家に北総鉄道の財務状況などの調査を依頼した。今年8月に提出された報告書は「公費負担なしでの値下げ維持は十分可能」というものだった。
ところで、専決処分をめぐる住民訴訟は一審判決(2013年3月)、二審判決(8月)ともに「違法」と判断し、横山前市長に支出した約2363万円を市に賠償するように求めた。上告した際に、北実会のある幹部は「本人に賠償命令まで出るとは正直、思わなかった。ちょっと気の毒かなと思いますが、仕方ないかなとも思います」ということだった。
横山前市長は組織の論理と県の専決の刹那の板挟み、組織が5%では納得できないと強硬にせまられるなかで、県からは応分負担の予算執行を求められ、市の責任を一身に引き受ける形で専決処分を強いられた感がある。2363万円の損害賠償を命じる判決が確定したが、横山元市長はこれに応じていなかった。元白井市の部長であった現市長が、訴えを取りやめようと配慮したにも関わらず、それを拒む市民たちが訴訟にもちこみ、決着をみるまでに長い期間かかっていた。
2017年10月16日、横山久雅子元市長が不法支出を補填する賠償金を支払っていないことをめぐる市の損害賠償請求訴訟は、横山元市長が1129万円を支払うとする和解案を千葉地裁が提示したことを明らかにした。和解案は、横山元市長の資産状況や専決処分が自己の利益のためでないことが考慮されたもので、市は減額分の請求を放棄するとした。
白井市議会は、25日に臨時議会を招集し、関連議案を提案したが、しかし、千葉地裁の和解案の承認を求める議案を賛成 少数で否決した。地裁が呈示した和解金額を市と横山前市長双方が受け入れる考えを示したが、和解が不調に終わったため、訴訟の請求額が求められることになった。
参照HP
http://www.藤野.jp/~no-no-kai/opinion.html産経新聞 2017/10/17
https://www.sankei.com/article/20171017-HJ6QAT5AV5IUFKTSD6WKFRYUP4/
横山元市長は平成22年、北総鉄道の運賃値下げのための市の補助金支出を再三県からも促され、専決処分を行った。議会へ報告し、後日に議会議決するのが専決処分だが、これが住民訴訟で不法支出とされ、支出を補填する2363万円の損害賠償を命じる判決が確定した。
これに対し、横山元市長はこれに応じなかった。最高裁の裁判長の補足説明のように、住民訴訟に負けて個人賠償請求が求められた事件に対し、自治体議会での請求権放棄は、その議会の裁量に委ねられる。つまり、裁判所としては司法判断は出すが、その上で自治体の請求権を放棄するか、しないかについては、議会が決める。
判例は、平成24年4月の裁判例に補足意見として出されたもので、昨今の住民訴訟を発端とした市長や知事が被る多額の請求について、それが個人の利得となったり、市に損害を与えた場合でなければ、また、議会の裁量権の逸脱と乱用がなければ議決は有効と司法判断を示していた。その後に行われた請求権放棄の議決については、たとえそのことが訴えられても「違法」と確定した事例はない。
住民訴訟そのものは市民に認められた権利で、訴えることを否定はできません。訴えられても大丈夫かと言う点で、今回の請求権放棄を、もし議会の議決に則って行えば、違法性はないということを最高裁自身が表明していたのです。
和解案は、横山元市長の資産状況や専決処分が自己の利益のためでないことが考慮されたもので、市は減額分の請求を放棄するとしてたが、議会の多数を得るに至らないでいる。
2017年10月30日
この記事へのコメント
コメントを書く