「母になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで、まちを宣伝する千葉県流山市。都心の通勤圏内でありながら緑豊かで子育てしやすいとして、ここ数年、注目が集まっている。
2016年度は転入者が転出者を3582人上回り、政令指定都市を除くと転入超過数は全国1位となった。特に子育て世代の流入が増えている。ところが、子どもの数が急増したことによる問題も出てきている。
5月28日、「母になるなら流山市はやめろ父になるなら流山市はやめろ」というタイトルの匿名ブログの投稿があった。
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何なんだよ千葉県流山市。
(中略)教育方針や環境の優れた新設小学校の学区という謳い文句で分譲マンション買って転入してきたのに
「予想より児童数が急増したので古い学校に通ってくれ」だって
母になるなら流山、父になるなら流山、子育ての街流山じゃねーのかよ。
羊も犬もびっくりの羊頭狗肉だよ
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投稿によると、「100m前にある新設小学校」の学区内のマンションを買ったはずだったのに、「1.5km先の古い小学校」の学区に変更になると説明を受けた。BuzzFeed Newsが、このブログを書いたという男性に話を聞いた。その話は後述するとして、まずは流山市で何が起きているのか調べてみた。
▼6年後は3000人の小学校?
住民基本台帳によると、流山市の子どもの数はここ10年、右肩上がりに増えている。2017年4月1日時点で12歳未満の人口は、10年前の1.34倍となった。市は、2009年度に策定していた将来人口推計を上回ったとして、2015年度に上方修正。2019年度までの人口を推計し直した。
さらに今年4月、2023年度までの児童数を推定したところ、通学児童数が2?3倍に増え、パンクしそうな小学校が複数あることがわかった。2015年度に新設され、約1000人が通っている市立おおたかの森小学校は、このままだと6年後の2023年度、約3倍の2990人になる。
こうした児童急増の対策として流山市は、小学校を新設するほか、通学区域を見直すことで、各小学校の児童数を調整している。現在、2つの小学校間で学区変更が検討されており、それがこのブログ投稿の「怒り」の原因だ。
2005年に開業したつくばエクスプレス。沿線開発が進んでいる(2005年8月、東京・秋葉原駅)
「一生の買い物を失敗しました」
投稿をしたという男性は、流山市に住む40代の会社員。2歳の子どもを育てている。
3年前、妻の妊娠中に、流山市の新築分譲マンションを購入し、東京都内から引っ越してきた。男性は都心の企業に勤めており、交通の便の良さと静かな住環境が魅力的だった。
マンション契約時に業者からは、新設小学校の学区内で間違いないと説明を受けていた。学区変更の可能性があることは、業者も把握していなかったという。古い小学校に通うことになるかもしれないなら、もっと慎重に購入を検討したはずだった。
「子育てしやすそうな環境だと思って引っ越してきたのに、だまされた気持ちです。私は、一生に一度かもしれない大きな買い物を失敗しました。これからマンション購入を考えている人には、行政の見通しってこんなに甘いんだと知ってもらいたい。そう思ってブログを書きました」
▼子どもの「密度」は質に直結
流山市議であり、小学生の子ども2人を育てている近藤美保さんの報告によると、市は、面積の5分の1にあたる広大な宅地・沿線開発を進めている。大きな公園があり、認可保育園も拡充。駅ビルと各保育園をバスで結んで親の負担を軽減する「送迎保育ステーション」など、独自の子育て支援策もある。
「子育てしやすい環境をつくるために工夫や努力はしていると思います。でも、一番おろそかにしてはいけない、人口推計の検証が甘かった。子どもの『密度』は教育や保育の質に直結するので、児童数をこまめにチェックして質を担保してほしい」(近藤さん)
年代別にみると、30?40代と、4歳以下が増えている。
▼宣伝は「やめません」
流山市マーケティング課によると、「母になるなら、流山市。」のキャッチコピーで宣伝をはじめたのは、2010年度。「首都圏に住んでいる、30代?40代前半の共働きファミリーに定住してもらいたい」と、ターゲットを絞った。2016年のアンケートでは、転入者の34%がこの広告を知っていた。
背景には、高齢者を支える次世代の人口を増やしたいという事情がある。流山市に限らず、多くの自治体が抱える少子高齢化の危機感だ。
広告が「羊頭狗肉」だと言われていることについて、どう考えているのか。マーケティング課の担当者はこう話す。
「子育て支援といっても、教育、保育、医療、公園整備などさまざまな課題があります。財政の限りもあり、いますぐすべての課題を解決することはできませんが、粛々と着実に手を打っていきます」
「広告は、市が目指す方向性の発信です。ここで発信をやめてしまうと、そういうまちを目指すこと自体をやめてしまうのかということになりかねません。大幅に変更することはありません」とのこと。
小山小学区では、「想定外」の人口増の名の下に校庭を取り壊して、2016年に校舎増築のため、運動会を開催するグランドは、50m走しかできない位の校庭しか残っていません。当然、運動会を見るための場所取りなんてもってのほか、保護者は、立ち見で交代しながらわが子の出番を待った。口の悪い人は、マンションの子ども達が越境してくるからこうなったとも市内でも温度差が広がっていました。
かつて、高度成長の中で日本各地でベットタウンが造成されて、同様な問題が起きたのだったが、残されたエリアで今また同じような問題がおきている。ただ、当時には女子供はいっしょくたに後回しにされていたが、今は違う。子供と女性がどこに住むように地域を選ぶか、不動産業界は、あの手この手での売り口上で、ファミリー層、その予備軍の心をとらえようとしている。住み続けたいよいまちづくりをするために、単なる「歴史は繰り返す」だけでなく、問題は取り除き、佳い街づくりへと進まなくてはいけないだろう。
2016年9月には NHKの朝の人気番組「アサイチ」の中で、「子育てするなら流山」として流山市が紹介された。その番組を見た、住民がブログに感想を書いていたので、切実な実感だと思うので紹介したい。http://wakei.at.webry.info/201609/article_2.html
1、「送迎保育ステーション」の問題
「子育てするなら流山」ということで、乳幼児を持った親たちが、かなり流山に転入しており、市の側も、そのようなスローガンで積極的に若い世代に呼びかけをしているとの説明があった。その若い世帯の支援体制の一つが「送迎保育ステーション」だ。 朝、直接保護者が保育園に子どもを連れて行って、それから勤め先に出かけるのではなく、出勤時に自分の使う最寄駅前のビル内にある保育施設に子どもを預ける。預けられた子どもたちはそれぞれの保育園に登園時にバスで送られ、また、降園時にはそれぞれの保育園からバスで集められて、保護者が迎えに来るまで、ビルの中の施設で過ごすというシステムだ。
仕事を持った保護者は子どもを駅前施設で受け取り帰宅する。だから、勤務時間を短縮することなく、保育園への送迎に慌てずに働くことができる。市内の主要な2駅に隣接するビル内に「送迎保育ステーション」は開設されており、市役所の報告では2015年度の利用者は延46、000人ほどということだった。
番組のコメンターたちは「素晴らしい」の連呼とはいえ、本当にそれで万々歳なのだろうか。もちろん、現在の勤務時間を前提に考えれば、それは一つの解決策であることは事実だが、子どもや家庭の視点から見れば、疑問を拭えない。番組では、かなり早い時間帯、つまり朝の7時台に駅前施設に子どもを預け、夜になってから受け取るという様子が紹介された。つまり子どもにとっては、たっぷり12時間以上も2つの保育施設に預けられていることになる。こうした家庭では、朝も帰宅後も食事や洗濯、掃除等で戦争状態だろうから、ゆっくりした親子の交流は難しいだろうし、保育園への送り迎えが省かれるので、保育にとって最も大事な保育園の保育者と保護者の子どもに関しての情報交換の日常の機会も少なくなることだろう。これで、本当に子どもに安心できてるのか。100%疑問無しのような番組の姿勢が意外だった。
よく引き合いに出されるのは北欧の充実した保育体制である。北欧では、労働時間は日本よりも格段に短く、子どもを12時間以上も保育施設に預けていることなど極めて少ないはず。夫婦共働きであれば、十分な収入も保証され、保育園もそのような前提で運営されている。もっと違うのは、オランダである。ワークシェアリングの発祥の地であるオランダでは、子どもが小さい間は可能な限り、どちらかの親が子どもと過ごせるようにしており、労働時間を夫婦で割り振ったりしながら、毎日子供を保育園に預けることを避けるような工夫をしている。
日本人は、国際的にも長時間労働であるのは今でも変わりがない。これを前提に保育園の体制を整えたら、子どもの負担も大きいだろうし、親子が共に過ごす時間は極めて制限されてしまう。そのことは、やはり番組の中で問題とすべきではないかと思うし、そのことについての悩みを語っている親もいないのが不思議だった。
2、小学校や中学校の混乱
「子育てするなら流山」は、保育園事情に関しては、ある程度妥当する面があるとしても、小学校について触れていないことにはかなり疑問を持った。つくばエクスプレス(以下TX)の開通と同時に流山の開発が進んだが、その中心は「流山おおたかの森」駅周辺地区で、続々と高層マンションが建設され、現在でも更にあちこちに大型のマンション群やアパートが建てられつつある。若い世帯の入居は、当然子どもたちの小学校が問題となる。「流山おおたかの森」駅地区には、現在の新しい駅近くに古くからの伝統のある小さな小学校があったが、マンション建設計画のために、駅から少し離れた場所に移転となった。それはあくまでも移転であって、集合住宅群建設のための新設校ではなかった。新設の小学校がなかったために、マンションに移住してきた新住民の子どもたちは、その移転した小学校に入学することになり、たちまちあふれてしまった。移転した小学校は新たに校舎を建設したので、設備が良かった。最新の設備を備えた小学校を目指して更に転居してくる住人も少なくなかった。 数年後、新設の小中一貫校が建設され始めて、ようやく昨年度開校したが、間もなく飽和状態になると予想されている。
ところが、「流山おおたかの森」駅地区周辺以外では、子どもが少なく、閑散としている学校もあった。多数空き教室のある学校と、子どもがあふれている学校というアンバランスが生じている。都市計画の不備と言わざるをえない。公団住宅が建てられて学校が必要となる事例など、全国でこれまで無数にあるのだから、そうした経験に学べば、マンション群の設置とともに学校を新設するか、あるいは、学区割の変更をするなりして、合理的な児童配置をする必要があったが、そうした行政は行われず、校庭に臨時のプレハブ校舎建設を行うなど、泥縄対応に追われているのが現状である。小学校の時期も大事な子育て時期に入ることを無視すべきではない。
3、自然
「子育てするなら流山」でもう一つ気になったことがある。番組では、自然が豊かで、広大な森が残っているような説明があった。確かに近隣の松戸市や三郷市に比べると森の面積は多い。しかし、その森がどんどん切られている現状があるのだ。「おおたかの森」という名称からも分かるように、オオタカが生息しているとされる、その森は既に伐採が進み、三分の一ほども残っていない。オオタカの生息も危ぶまれている。様々な鳥や小動物、オオタカの餌となる生き物たちが生活していた江戸川沿いの水田はものの見事に埋め立てられ、巨大なクレーン車が何本もうごめいている。
「アサイチ」の番組では、他にも綺麗な鳥が紹介されていたが、日常的には見られない。むしろ越谷市の方が、沢山の鳥を見ることができるくらいだ。越谷市には森が殆どないが、川や運河が多いので、特に冬場には多数の鳥がやって来る。越谷市は夏が非常に暑い地として有名だ。数年前までは、暑い越谷市から流山市に帰ってくるとホッとしたものだった。緑の多いはずの流山市と森の少ない越谷市の気温の差をかつて非常に大きく感じていたが、流山市の乱発が進んだ昨今は、その差をあまり感じなくなった。森がどんどん伐採され、その結果気温が上がったとしか思えないからである。
こうした開発は、殆どTXの開通とともに始まった。それまで流山市の開発があまり進まなかった理由は、根強い住民運動で自然を守ることを重視してきた成果であった。市内を横断する常磐高速道路ですら、全て地下を通るようにさせた。しかし、最近の流山市の住民構成と意識は変化してしまった。一部を除いて市内は全て地上を走っている。TX開発では、かつて森と雑木林だった3つの駅を中心に進行することになった。
流山市の市政担当者は、人口が多くなることが良いことだと信じているようだ。数十年前の都市計画に順じて大きな道路を作り、マンション群を建設し、若い人たちがどんどん移住してくるのが市の発展だと思っている。しかし、日本全体が人口減少社会なのだから、その中で人口が集中的に増えるのは、むしろ長い目で見れば、アンバランスの拡大に過ぎない。新しいマンションに人が入れば古いアパートは空き室が増え、子どもがいれば活気は出てくるが、学校や保育所等々、様々な施設が必要となり、市の財政負担も増える。合理的な市政運営の能力と十分な財政があれば、負担が増えても対応できるだろうが、実際には、小学校の校庭にはプレハブ校舎が並び、教員の補充に頭を悩ませ、とてもまっとうな教育環境とは言い難い状況も現実問題として生まれている。この傾向は10年以上続くであろう。そしてその後は、空き教室だらけの学校が残るだけである。
このような子どもをないがしろにしているような側面を無視し、自然が豊富で、野生の動物を楽しことができるかのような放映は、如何なものだろうかと、疑問を持たざるを得なかった。
2017年07月02日
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