テレビでの解説などから、想像するのに韓国国内では長幼の序も変わり始めたということではないだろうか。それが「対北認識をめぐる世代間のギャップ」に表れていきている。有権者の半分を占め、就職難などで社会の歪みを実感する20歳〜40歳の若年層は、北朝鮮の脅威への対応よりも、韓国社会の不平等是正の方が遙かに重要だと考えたのではないかとの分析がでている。セウオル号の沈没、朴槿恵(パク・クネ)大統領スキャンダルに連なるサムスン電子の御曹司(イ・ジェヨン)副会長逮捕劇、朴氏への弾劾裁判が行われて、憲法裁判所が罷免 が妥当と判断を下し、ただちに失職。同国で民主的に選ばれた大統領が罷免されるのは初めてのことであり、これらを受験シーズンのさなかで見守ってきた若者が、こぞって革新系に投票したというと言うことが今回の選挙に表れたようだ。
文氏を支持した若年層には、「雇用問題を解決できない保守政権への反感」が強かったこと、また、保守地盤でも文氏が一定の支持を受けたのは、高齢者との「世代間の分離」が進んだからであって、今回の選挙はこれまでの「地域間の対決」から「世代間の対決になった」との見方だ。2位だった洪氏は保守層を結集させる時間が足りず、また放言が多かったため支持が広がらず、また3位に甘んじた中道左派の安氏は、地盤が光州と全羅道に限られ、全国的な組織力を持っていなかったという。今回の大統領選で、1人文氏だけが、他の候補者の打ち出さなかった格差という、韓国社会を覆う最も深刻かつ巨大な問題に取り組む政治家として若い有権者に訴えた。韓国国内の不満の矛先を反日ばかりに向けて国民に敵意と一致団結をしようとの手法に国民はウンザリしていた、しかし、洪氏は保守の新しい価値を纏うことができず、安氏は旧態依然たる地方ボスの範囲を出られなかったのを国民は察知した、と言う構図ではないか。
韓国メディアが今回の政権交代を「市民革命」と表現していることに着目。朴前大統領の弾劾、罷免に繋がった一連の動きを捉えた言葉で、選挙は「新たな革命」との考え方だ。「市民革命」とは、韓国社会に溜まった様々な不満を大統領選挙という、直接国のリーダーを選ぶ一票にたくして、社会を大きく変えようとする動きが出てきたと思われる。
文氏の所属する「共に民主党」は、「革命」の名に相応しく、裁判とは別に前大統領の問題を徹底追求する方針だそうだ。しかも、文氏自身は、若者の就職難を解消するための政策を公約の1番目に掲げていて、この点が、これまでの政治家と大きく違う「文氏周辺に現実主義者と原則主義者が入り交じっている」ことだと言われる。つまり、党には党のイデオロギーがあり、それによって結束が保たれているが、大統領と「共に民主党」はギアチェンジをしようとして、若い世代の期待になったと思われる。
韓国の民主主義はもともと、国民の力で勝ち取ってきたという側面が強い。前の政権の業績が芳しくなければ、国民が大統領選挙によって「政権交代を実現する」ということが可能だからだ。問題となる対日関係では与野党間に大きな違いはないので、「慰安婦問題などは日韓関係の中でできるだけ最小化し、北朝鮮の核ミサイル危機への対応、米中への対応、経済協力など、日韓で利害が共有できる部分を少しずつ増やしていくことだ」というのが当面の対応となるだろう。
韓国政治で難点は、国内政治を脱イデオロギー化する努力の必要性と同様に、日韓関係のような国際関係においても、脱イデオロギー可が必要だという点だろう。学歴社会の悪弊があり、徴兵制からも免れようがない中で、大卒の若者の就職難「ヘル(地獄)」を実感しているので、変えようとの意識が文新大統領をつくったと言えそうだ。
安倍政権は、「日韓合意の行方が今後の両国関係の最大の焦点」と見ているのだそうだが、とりあえずは、文氏の外交ブレーンが「歴史認識問題と経済・安全保障を切り離す方針」を口にしていることで、胸をなで下ろしているようだ。また、文氏は選挙戦中に米政府と接触し、「米韓同盟を最も重視する」と伝えたというところから、日米、米韓の接点を見出していけるかとの期待もなくはないが、先行きはわからない。
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