クリスマス・イブの前日にあたる12月23日(金)は天皇誕生日でした。陛下はあえて「フィリピン人」を先に置いたおられた陛下の気遣いには大岡昇平の思いに通じるものが感じられます。フィリピンでの戦闘については、大岡は『レイテ戦記』で『あの戦争でいちばん苦しんだのは日本人でもアメリカ人でもなく、現地のフィリピン人だ』と書いていたが、この日の「おことば」で天皇陛下は、今年1月末のフィリピン訪問に触れ、次のように語られました。
「今回の滞在中に、近年訪日したフィリピン人留学生や研修生と会う機会を持ち、また、やがて日本で看護師・介護福祉士になることを目指して、日本語研修に取り組んでいるフィリピンの人たちの様子に触れながら、この54年の間に、両国関係が大きく進展してきたことを、うれしく感じました。両国の今日の友好関係は、先の大戦で命を落とした多くのフィリピン人、日本人の犠牲の上に、長い年月を経て築かれてきました。この度の訪問において、こうした戦没者の霊の鎮まるそれぞれの場を訪ね、冥福を祈る機会を得たことは、有り難いことでした。また、戦後長く苦難の日々を送ってきた日系2世の人たちに会う機会を得たことも、私どもにとり非常に感慨深いことでした」
さらに今年8月8日、陛下が「譲位(生前退位)」の意向をにじませたビデオメッセージが公表されていたことから、この日の天皇陛下による「おことば」に注目が集まっていました。しかし、陛下は「多くの人々が耳を傾け、おのおのの立場で親身に考えてくれていることに深く感謝しています」とだけ述べ、「譲位(生前退位)」の問題については多くを語りませんでした。
・天皇陛下お誕生日に際し(平成28年)
http://www.kunaicho.go.jp/page/kaiken/show/7
思想家で神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏は、ブログで次のように記しています。「今回の陛下のお言葉はかなり読みでのあるものだったと思います。表面的には、ただこの一年間の出来事を羅列したように見えますが、一つ一つの扱いかたや措辞に細やかな気遣いが感じられました。経時的な理由から最初に置かれた『フィリピン訪問』には分量的には最も多くの字数が割かれたということに気づかされました。」ということです。言葉の発する意味をどう受け取るか、それを更に私たちは託されているのではないか、日本人が世界を見据えて、日本として貴重なメッセージを発する「人間天皇」をこれからの時代がどう戴くのか考える時でもありました。
・天皇の「おことば」について(内田樹の研究室、2016年12月23日)
http://blog.tatsuru.com/2016/12/23_1029.php
2016年12月23日
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