「私たちはいまだ、最も高く、硬い『ガラスの天井』を破ることができていません」。と、ラリー・クリントン氏は、初の女性大統領誕生が幻となったことをこう表現した。米国は、女性国会議員も決して多くないし、今回の大統領選でわかるように保守的なお国柄です。
翻って日本はというと、世界経済フォーラムが10月に発表した報告書では、男女格差の比較で144カ国中111位(米国は45位)。国会議員の女性比率の低さや女性首相が出ていないことが足を引っ張り、女性の活躍を阻む「ガラスの天井」はさらに分厚い。2016年1月時点で、日本の国会議員717人のうち女性は83人(衆議院45人、参議院38人)。野田氏が指摘するように、シングルマザーが大半を占めるひとり親世帯の相対的貧困率(2012年)は54.6%にものぼり、先進国の中でも最悪の水準だ。今年(2016年)は、日本の女性が参政権を獲得してから70周年です。100年前には女性が参政権を持つなんて誰も思っていなかったし、それを変とも思わなかった。
結局、国会ではいろんな法案審議が行われますけど、優先順位というのは「重要度」より「関心度」なんですね。国会議員が関心を持たない限り、法案そのものが動かない。「塩漬け」になっている代表例が、選択的夫婦別姓ですよね。9割以上は女性が姓を変える話だから、男性議員が9割の国会ではほとんど話題にものぼりません。自分たちの痛みになっていないから。出産・子育てに関しても同じ。とにかく女性議員の数を増やさないことには、重要な問題であっても、先送りが続くばかりです。
日本はどうかというと、女性総理が出るチャンスがあるとしたら、経済が落ち込んで、これまでの男性目線中心の政策が間違っていたと気づくときでしょう。日本が他国と比べてはるかに遅れているのは、女性という素晴らしい社会資本を活かしきれていないこと。女性がトップになって活躍を「見える化」することができれば、相当日本は変わると思います。
女性が「初」と評されるうちは、期待ゆえに失敗したら失望もまた大きいと思うんです。「女性は」に続く言葉が「やっぱり」「これだから」となる。男性の場合は、失敗するのも成功するのも普通のことですから言われないですよね。
似たようなことは、女性の国会議員が増えない背景にもあります。女性が立候補して残念な結果になり、再度立候補しようとすると、その方の周りが「まだやるのか」という意識を強く持つ。女性政治家希望者に対する視線が、男性が失敗することよりもはるかに厳しいんです。
それ以前の事情もあります。政治家になってもらいたい女性とお話をして、実際手を挙げていただくのにご本人が最も戸惑われるのは、結婚していたら夫の説得です。次は夫の両親で、その次は夫の親族。結婚して自分の生まれ育った地域ではない場所にいる方は、特に、です。皆さん相当悩まれ、それで立候補を断念した方もいます。
参照:http://news.yahoo.co.jp/feature/437世界の女性議員比率の平均は、過去20年間で11.3%から22.1%(2015年1月時)へと倍増しました。日本はというと、衆参両院で11.6%、衆議院に限れば9.5%(いずれも2016年1月時)で、下院(日本では衆議院が相当)での比較で191カ国中156位です。現状は世界から20年遅れということです。女性を活躍させる経済戦略を追求しながらも、世界経済フォーラムが発表する男女格差指数では2015年(101位)から10位も下げてしまった。
野田聖子氏は幹事長を務める超党派の議員連盟が、昨年から 「政治分野における男女共同参画推進法案」をまとめてきた。この法案は、政党が候補者を擁立する際に男女比の均等を目指すことなどを掲げた理念法。この臨時国会で通したいと取り組んでいる。拘束力のない努力義務ではありますが、理念を掲げることで、必ず法案の化学反応は起きます。
「政治分野における男女共同参画推進法案」に関して、自民党内の反応は、「まあ、やむを得ない」という感じかな。男性議員は自分たちが損をする話だから、嫌なんだろうなという雰囲気。でも(安倍)総理が、2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にするという政府目標の「2030(にいまるさんまる)」を掲げている以上、反対する人には、造反ですかと言うしかない。政治だけ除外にはできないでしょう。
あとは、有権者が選挙で候補者や政党を選ぶときには、原発とか安全保障とか判断材料がありますが、その3つ目くらいに女性候補者の比率を位置付けないといけないんじゃないかなと。例えば自民党は候補者の3割を女性にしました、とか。今はそういう判断材料がないでしょう。これは政党任せにせず、有権者からも求めていってほしいですね。政党はすべて男性の方が多いから、有権者から突き上げない限り、既得権益を返上するようなことはしないので。
女性議員の世界平均が上昇した最大の理由は、クオータ(quota、性別割当)制の普及です。クオータとは、なんらかの形で女性または両性に議席や候補者の一定比率を割り当てるという制度で、現在118カ国以上で施行されています。ちなみに米国はその中に入っていません。
日本では、クオータというと変わったシステムくらいのイメージしかなく、世界の半分以上の国がやっているという理解はされていないんじゃないかと思います。4分の1を意味する「クオーター(quarter)」と勘違いしている人も結構いるぐらいですから。
クオータには強制力の強いものから弱いものまで様々な制度があり、強制力が強いほど実効性は高まるものの、違憲の可能性も高まるというのが憲法学者の見解です。超党派の国会議員による「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」のワーキングチーム(作業部会)で私はアドバイザーを務めましたが、そこでは策定する法案が違憲にならないよう、まずは努力義務の理念法を作ろうということになりました。
そして「政治分野における男女共同参画推進法案」の骨子には、候補者の擁立時に「パリテ(parité)」を目指すことが盛り込まれました。
パリテとは、フランス語で同数や同等を意味します。人口は男女半々で構成されているから、議員数もそれに比例して男女均等を目指しましょう、という発想です。世界的にも、主に欧州や中南米で、クオータ制から「パリテ法」に移行してきています。
パリテはクオータと違って、反論がしにくいんですね。「男性の方が能力的に優秀だから」となると当然、疑問符がつきますし、有権者の性別が半々なのに「女は少なくていい」とはさすがに言いにくい。
2016年11月19日
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