年初からリスクオフの波が押し寄せ、円高・株安が止まらない。20日には一時116円を割り込み、1年ぶりに115円台へ突入した。
12月の日銀短観によると、2015年度の企業のドル/円想定為替レートは、大企業・製造業で年間119.40円、下期は118.00円となっている。現在の水準は下期水準を割り込んでいるが、1─2円程度の円高であり、企業業績に与える影響も限定的だ。」外資系投信ストラテジストは「現時点で日銀追加緩和の必要性が高まっているわけではないという。
しかし、昨年末に120円半ばだったドル/円は、わずか2週間で4円以上水準を切り下げた。来週末の日銀金融政策決定会合に向けて再び115円方向に下押し圧力が加わることになれば、「政府・日銀も1カ月で5円近く円高が進むことをスピードとして許容できないところがある」(邦銀)として政策期待が高まりやすい。
ドル/円は、日経平均株価<.N225>にのような大崩れはしていないものの、投機筋のポジションはすでに第2次安倍内閣発足後初の円買い越しに転じた。日銀追加緩和でも円安が進まなかった場合、アベノミクス政策は大きな岐路に立つことになる。
チャートでみると、昨年1月16日に付けた年間安値115.85円、14年12月16日の115.56円が下値めどとして意識されている。それらをすべて下抜け、心理的節目の115円も割り込んだ場合は、しばらく節目が見当たらない。 問題は、実際に追加緩和を実施した場合、これまでのように円安を促す効果があるのか、市場でも疑問視する声が出ていることだ。
その他にドル側の理由だ。ドル高/円安予想を支えているのは、米国の利上げが継続され、日米金利差が開くとの見方だった。だが、世界経済の減速懸念が強まる中で、12月米小売売上高などがさえず「市場の唯一の心の支え」(バークレイズ銀行の為替ストラテジスト、門田真一郎氏)であった堅調な米経済見通しが揺らいでいる。
さらに足元のリスクオフは中国や中東(原油安)が起点となっている。甘利明経済再生相は「日本の努力でどうにもならない部分がある」(19日の会見)と言う。
2013年4月4日に決定され、「バズーカ」と呼ばれたQQE第1弾は、ドル/円を93円から103円まで約1カ月半で約10円押し上げた。2014年10月31日の第2弾の時も、109円から121円まで約1カ月で約12円上昇した。しかし、今回、「逆風」が吹き荒れるなかで、ドル/円を115円付近から125円まで押し上げるのは容易ではない。今回、追加緩和を行ったことで「打ち止め感」によって警戒感が強まる場合が難題だ。
追加緩和のメニューとして、市場が予想しているのは、国債買い入れ額増額、国債買い入れ平均残存年限延長、ETF(指数連動型上場投資信託)やJ─REITの買い入れ増額、など。しかし、国債保有の年間増加ペース80兆円を仮に100兆円に増額すれば、償還分の乗り換えも含めると140兆円の買い入れが必要になる。来年度のカレンダーベースの国債発行額(短期国債除く)は122兆円程度の予定であり、大幅に上回る。銀行など金融機関が国債を売却しなければ、達成は容易ではない。
とはいえ、国債の代わりにETFなどリスク資産の買い入れ額を増額させても「国債買い入れ限界説」が強まりかねない。黒田東彦総裁はこれまで付利引き下げやマイナス金利導入などは否定的だったので、矛盾を生じさせ、これも「限界説」をあおる可能性がある。どう手綱さばきをするか、世界も祈るように注目するなかで転んではならないのである。
出典:ロイター(杉山健太郎 編集:伊賀大記)
2016年01月21日
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