とにかく目の前の恐怖を都合よく利用して、ショック・ドクトリン的な方法でまったく別の目的を達成しようとする。やはりという感じです。
共謀罪は、03年からたびたび組織的犯罪処罰法改正などの関連法案を国会に提出してきましたが、世論や野党の反発で、これまでに3回廃案になっています。
共謀罪とは、2人以上の者が犯罪を行うことに合意することを処罰の対象とするもので、実際に犯罪行為が行われていなくても、合意しただけで処罰の対象にする、というものでした。しかも政府原案は、その適用範囲を600以上もの犯罪に広げた、世界にも類を見ないものとなっています。
普通、近代の刑法では、人が犯罪への意志を持つだけで処罰されることはありません。
あくまで犯罪行為が行われ、利益の侵害や現実的な危険性が生じて、初めて捜査の対象になるわけです。これは、内面には立ち入らない、内面を裁くことはできないという考え方が根底にあるからです。信仰の自由、良心の自由、思想の自由、学問の自由も、そこに根差しています。
私達には「内面の自由」があります。とんでもないことですが、どうしようもなく貧しければ「銀行強盗でもやってやろう」とふと考えたり、つい飲みの席で「やっちゃおうぜ!」と勢いで話しちゃったりするかもしれません。相手もノリで言葉に応じるかもしれない。もちろん、思ったり、話したりしたのそばから、通常の人間は、そんなことはやるに至らないと思っている。言葉のウサ晴らしでしょう。
つまり、犯罪として追及するには、思ったり、話したりするだけでなく、実行行為が伴わなければ裁いてはいけない。我々には「内面の自由」がありますから、心の中までは裁けない。当たり前です。当たり前のことだと、ずっと僕らは思ってきました。
しかし、「共謀罪」はそうした原則を破壊します。これは、怪しい奴(というより、権力が怪しいと認定したい奴)は逮捕しておきたい!まずは証拠集めのために「盗聴法」が拡大されるのでしょう。「盗聴法」と「共謀罪」は車の両輪です。さらにそこに、新たにマイナンバーが加わり、例えば誰が「あいつは貧乏しているな」とか、「あいつは借金しているな」とか、一目瞭然、怪しい対象にリストされかねない・・・。
ちなみに、政府はこれまで、「共謀罪」は2000年に国連で採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」、通称「パレルモ条約」を批准するために必要な法整備と説明してきました。日本も署名したこの条約は、国境を越えた組織的な人身売買、マネー・ロンダリング、密入国、銃器の密輸などを対象とするもので、締約国同士の法律上の相互援助、犯罪人引き渡し、裁判権に関する条項を含んでいます。
しかし、日本は条約に批准はしていません。批准には「未遂以前の段階での対応を可能とする立法措置」が求められており、そのために「共謀罪の導入」が必要なのだと前のめりに推進しようとしている政府や自民党は主張しているのです。実際に、昨日も高村正彦・自民党副総裁が「日本は、国内法が整備されていないことからパレルモ条約を批准できておらず、そうしたこともしっかりやっていかなければいけない」と述べていました。
しかし、意外に知られていないことですが、共謀罪は条約批准の必要条件ではありません。野田内閣の際に法務大臣を務めた平岡秀夫氏は、「日本には十分に国際的な犯罪防止条約に協力できる条件が整っている。特定の条項を留保して批准することもできる」と述べています。
※「共謀罪」がもたらす監視社会とは〜海渡雄一弁護士、平岡秀夫元法相らが共謀罪法案に警鐘
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/261910
取り越し苦労なんじゃないか、などと斜に構えていると、大変なことになりかねないそうです。
国連の立法ガイドでは、各国の法制に応じた幅広い裁量が認められており、事実、これまで批准したアメリカ、イギリス、ドイツでは、共謀罪を立法していません。
日本には銃刀法もあれば、テロ行為に対する処罰規定もあります。刑法で、いくつかの重大犯罪に対して「予備罪」もすでに規定されており、判例で「共謀共同正犯」が認められています。つまり、未遂以前の行為を処罰できる法制はすでに整備されているわけです。なぜ、その上に加えなくてはならないのか、わかりません。
盗聴法、マイナンバー法も組み込まれました。これらは全部つながっています。マイナンバーの問題も、問題含みの部分が多いです。いかに憲法で保障された国民の権利が、ないがしろにされようとしているのか、注意深く考えてみてください。そして、海津にいなへ皆様のご意見もお教えください。
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