あまりに凄惨な戦中・戦後の日々を過ごして、言葉にもできないまま亡くなった人も多い。そうした苦い経験が後世に伝えられない事によって、国に命をささげるという尊い行為のように戦争を美化して若者を教育された当時の若年世代が逆に賛美や懐古の想いを強くして潔しと、突き進むだけに陥らないようにしていただきたい。
作家の角野栄子さん(80)は宮崎駿の「魔女の宅急便」の原作者として知られる。角野さんの戦争体験をもとにした新しい物語「トンネルの森 1945」を書いた。主にファンタジーを手がけてきたが、戦争を題材にしたのは初めてで、戦時中の経験や、作品に込めたという。次はインタビュー記事から:
――なぜ戦争を描いたのですか。
母のことや、昔移民として暮らしたブラジルのことは書いたけど、まだ戦争のことは書いていないなと思ったんです。戦争の話というと大人の解釈が入りがちですが、終戦当時私は10歳でしたから、10歳の子どもの目を通した戦争だけを書こうと考えました。良い悪いの判断は読者に委ねて、私が経験したことの中に物語を入れていこうと。
――子どもから見た戦争ですね。
戦争と言っても、子どもの場合は日常が苦しくなる。ただ、疎開ではちょっと違う世界に行くんですよ。そこをどう、子どもなりに折り合いをつけて生きるかということです。私は1944年の秋に山形県に集団疎開をして、一冬過ごしました。その後、千葉県に。トンネルのような森の近くに疎開したんです。
東京大空襲では父のいた深川の家も焼けました。父はかろうじて助かりましたが、集団疎開先では、先生はそういう話はしなかった。でも、漠然と不安は感じるんです。家は焼けるし、近しい人が亡くなった子もいるし、そういうことは誰が言わなくても感じる。食べ物もないし。
覚えているのは、終戦の日、疎開先の友だちの家で白いご飯をごちそうになってしまったのね。私が何か人にもらうと、母は半襟や足袋を持ってお礼に行かなくちゃいけない。あの日、家に帰る途中で空襲があったような気がするんですけど、私は道端にあった大八車の下に入って、避難したのか、家に帰りたくなかったのか……。どっちもですね。日本が大変な日に、私は「どうしよう」って。
――疎開前は、楽しみな気持ちもあったそうですね。
私は、自分のいるところから遠くに行きたいという思いが強い子でした。深く考えないで期待したのね、変化を。だから物語も好きなんです。何が起きるだろう、主人公の運命はどう変わっていくだろうって。
自分で書くときも、主人公と自分はたいてい重なっているんですよ。「ラスト ラン」の74歳の女の人にも、「魔女の宅急便」のキキにも。
読者にも自由に物語の世界を歩いてほしい。こう読んでとか、人はこうあるべきとか、今回も書かなかったつもり。戦争から70年経ち、戦争に対する思いはいっぱいあるけど、10歳の私にはなかったのですから。
――ご自身は、戦争をどう受けとめていますか。
戦争はもうこりごりだと、経験した人は誰もが思っていると思います。物語にも書きましたが、例えば防空演習に参加しないと「あの人は協力しない」なんて言われた。
これからの時代を、そうやって一つの考えに組み込まれて生きていくのは嫌だなと思う。日本の人って意外と、今の暮らしの中でも、「同じじゃないと嫌だ」ってところがあるじゃないですか。子どもたちも、同じじゃないと仲間に入れないとか、同じ番組を見ないと話が伝わらないとか、あるでしょう?
でも、一人一人が自分のことを受けとめて、引きずられない自分というものを持つ人が増えてほしいと思います。私は、物語を書くことで、子どもたちに期待しているんです。(聞き手・伊藤舞虹)
◇
《あらすじ》
太平洋戦争が始まり、幼くして母を亡くした少女イコは、まだなじめない父の再婚相手と、生まれたばかりの弟と3人で千葉県の小さな村に疎開した。村の学校では、家の近くの暗い森で脱走兵が自殺したとうわさに。慣れない田舎で、イコは孤独と飢えに必死で耐えていたが、ある日父のいる東京が空襲で焼け野原になってしまう。
17日、角川書店から出版予定。1200円(税別)。
出典:
朝日新聞デジタル 7月6日
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