スシに代表される和食が人気であることも功を奏して、世界でもかつお・まぐろ類の消費量の伸びは著しい。漁獲量も1982年の190.1万トンから2012年には488.9万トンと、約2.6倍にも拡大している。とりわけ、かつお類の漁獲量の伸びは大きく、世界のかつお・まぐろ類の漁獲量の57%を占めて279.5万トン。30年間で約3.5倍の伸びになる。
その一方で、かつては世界一の漁業国であった日本の地位が低下している。総漁業量は1982年時には1282万トンだったが、2012年には484万トンと3分の1に激減。中国などに後れをとり、いまは世界第8位に甘んじている。かつお・まぐろ類の漁獲量に関しても、日本は45.8万トンで世界第2位を維持しているものの、第1位のインドネシアの66.6万トンに大きく引き離されている状態だ。
■ 深刻な高齢化問題
管轄官庁である水産庁に加え、国土交通省や厚生労働省、さらに外務省や法務省、財務省からも関係法規の担当者が出席し、日本のかつお・まぐろ漁業が直面する諸問題について話し合った。
「全国遠洋かつお・まぐろ漁業者協会」によると、2012年時の同会所属船の年齢構成は平均56歳で、60歳以上が37%を占める。さらに新規就業者は5名にすぎず、同協会は船員確保と育成が喫緊の課題だと訴えた。
実際に高齢化問題は深刻で、水産庁のデータでは漁業就業者は約18万人で、過去10年間で3割減少した。遠洋まぐろはえ縄漁では60歳以上の就業者が42%を占めており、50代をも含めると、全体の83.3%にも上る。
政府は漁業の存続のため、毎年度2000人の新規就業者を確保すべく、「新規漁業就業者総合対策支援事業」として本年度予算に6億1400万円を計上した。また「沿岸漁業リーダー・女性育成支援事業」に3300万円、「安全な漁業労働環境保全確保事業」に1900万円を充てている。
しかし根本的な問題を解決せずして、漁業の問題は解消されない。日本の漁業にとって乗り越えなくてはいけないのは、コストの増大と年々厳しくなる国際環境だ。
■ 高騰する入漁料
コストに関しては昨今の急激な円安による燃料費の高騰もあるが、より深刻に関係者を悩ませているのは高騰する入漁料など国際環境の変化に基づくものだろう。
2014年6月にナウル協定加盟国(PNA:パプアニューギニア、ソロモン諸島、パラオ、ミクロネシア、キリバス、ナウル、ツバル、マーシャル諸島で構成)が2015年1月から1日あたりの入漁料(VDS)を8000ドルに引き上げたことは、日本の遠洋漁業に大きな衝撃を与えた。PNAのEEZ(排他的経済水域)は日本にとって海外まき網漁獲量の9割を占めているからだ。
そもそもPNAがVDSを導入した2005年以前では、南洋海域での入漁料は漁船1隻あたり年間約2000万円で、操業日数に制限はなかったのだ。さらに2012年に最低価格制度が導入されてから、入漁料はいっそう高騰。水産庁は日本が払うべきこうした入漁料は2015年には55億5600万円に達すると見込んでおり、漁船1隻あたり必要とされる入漁経費は年間1億7000万円を超えると予想されている。
「VDSが導入されて、外国は1日あたりの漁獲量が増えるように漁船を大型化した。一方で日本は国内の利害調整ができなくて、水産庁が漁船の大型化を許さなかった」
日本漁船の建造が法律で制限を受けていた間に外国に引き離されたと述べるのは、かつお・まぐろ議連で事務局長を務める自民党の井林辰憲衆院議員だ。井林氏の地元は焼津港を擁する静岡2区。焼津港は全国トップクラスの水揚げ量や水揚げ金額を誇り、かつお漁やまぐろ漁の大拠点地でもある。
実際に日本のまき網漁船ほとんどは1000トン型で、中国や台湾、韓国などが標準とする1800トン型と比べて漁倉容積や速力などで遅れをとっている上、魚群探査用ヘリコプターの搭載もない状態だ。
外国漁船の脅威は大型化だけではない。「全国遠洋かつお・まぐろ漁業者協会」は、台湾系の小型漁船が南太平洋島嶼国に船籍を移して増隻していることに危機感を募らせている。
そもそも小型漁船は十分な冷凍設備を持たないためにOPRT(責任あるまぐろ漁業推進機構)の管理枠外とされていたが、これら新規の小型船はマイナス50度の超低温設備を備えており、規制の目をくぐりぬけているからだ。
■ 政府の積極的な研究調査も必要
また「全国近海かつお・まぐろ漁業協会」は、パラオ共和国で外国漁船商船漁業禁止法案、ミクロネシア連邦でサメ法案が出されており、日本漁船が海域から締め出される危険性について政府の対処を求めている。
こうした問題について井林氏は、「政府を通じて適切な国際ルールを作っていくこと、また島嶼国にはODAの水産無償資金協力を行っているが、これを国内漁業者の入漁確保に資するように活用していくことが重要だ。外務省は『ODAは紐付きであってはならない』と原則にこだわりがちだが、漁業を守ることこそ国益にかなうことだ」と述べる。
さらに水産資源について、政府の積極的な研究調査も必要だと井林氏は主張する。たとえば昨年はかつおが歴史的な不漁で、外国漁船による南洋での乱獲が原因ではないかと言われたが、真相はまだ解明されていない。
「実はかつおの生態はよくわかっていないところがあり、南洋で成魚に発信器を付けても、日本海域で発見されなかった。おそらくは北緯20度あたりで一度産卵し、それが成魚となり北上するのだろうと推定されているが、詳細は不明だ」。
水産庁はこの「ミッシングリンク」の早急な解明に務めることを言明。原因がわかれば対策を打つことも可能だが、それを後押しするのは政治の役割だと井林氏は述べる。「日本の漁業は伝統産業であり、食文化を担う重要な役割も果たしている。我々はこれをしっかりと守っていかなければならない」。
出典:
安積 明子(東洋経済5/28)
2015年06月16日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック