7日に開かれる国際オリンピック委員会(IOC)総会で、長い招致レースはついに最終コーナーを回り、混戦のまま総会に突入、ここでの投票によって決まる。最終プレゼンテーション(招致演説)がカギを握る展開だ。現地入りしてからの3都市の記者会見では、マドリードが他の2都市の2倍以上のメディアを集め、熱気があると言われている。
スペインの経済不安が懸念されるマドリードは、それを逆手に取るかのように、3都市で最も安い施設整備費での開催に「低予算でも五輪をできることを証明したい」とアピールしている。東京の「震災から復興した姿と謝意を海外に発信する」、イスタンブールの「東洋と西洋の友好、文化の懸け橋とする」という大義は、マドリードの「コンパクト開催」より、メッセージ性が強く、演説次第では流れを変える力も秘める。
IOCの内部事情に詳しい関係者は「わずかな差だがマドリードが優勢」と語った。契機は7月のスイス・ローザンヌで行われた非公開のプレゼンテーションにおいて、フェリペ皇太子(ヨットで1992年バルセロナ五輪に出場)が情感あふれるスピーチで流れを引き寄せたとされる。また、最新の独自世論調査での国民の支持率が91%に上ることを会見で持ち出したマドリードは、中南米のスペイン語圏にも支持基盤があり、12年五輪の立候補時は最終的に31票。16年五輪を招致した4年前もリオデジャネイロとの決選投票で32票を集めた。前IOC会長の長男であるサマランチ・ジュニア理事ら3人のIOC委員を擁したロビー活動は強く、スペイン紙エルムンドは4日、「40票は固く、1回目で過半数も」とマドリードの圧勝を予想。
東京は、中国、韓国との関係が緊張状態にあり、足元のアジア票は盤石ではない。IOC委員103人のうち、1回目の投票に参加するのは、立候補都市の当該国委員とロゲ会長を除いた97人。大陸別内訳は、アジア23人、アフリカ12人、北中南米勢18人、オセアニア6人、欧州44人。欠席者がいなかった場合、1回目で「一発当選」に必要な過半数は49票となり、過半数に達した都市がない場合には、上位に都市での決選投票となる。
他方、マドリードが選ばれた場合、04年以降の5回の夏季五輪のうち3回が欧州での開催が続き、欧州偏重となるなどとして、英タイムズ紙は東と西の懸け橋になるイスタンブール開催を支持を明確にした。同紙社説において、福島第1原発の汚染水漏れには触れず、東京については懸念材料がなく選考レースでややリードしていると分析した。
明日、もし東京が開催地に決まったら、東京を取材する海外メディアが福島を取材することにも繋がることもあるはずで、東京へきた人々の何割かは福島へ足を延ばすことも考えられ、震災復興への励みにもなる。それはダーク・ツーリズム(世界の負の遺産を検証する旅)とも呼ばれる近年の新しい旅の関心が起きていることからも、可能性が考えられる。災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にしたをうした観光は、「悲しみのツーリズム(Grief tourism)」との別名もある。オリンピックの契機によって、改めて被災地・福島へ足を運ぶ新たな海外の波が起きることも考えられる。そうして福島の情報が発信されることが、苦闘する人々を忘れない、復興を推進する力にすることが出来るのではないかと私は期待する。
当落の結果は同日午後5時(日本時間8日午前5時)からIOCのロゲ会長によって発表される予定だ。ブエノスアイレス(スペイン語で、良い空気という意味)の決定に世界の注目が集まっている。
2013年09月07日
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