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震災以前から国籍取得は考えていました。
ただ、震災が起きた時に多くの外国人が日本から去っていくことには強い違和感を抱きました。
日本に長く住み、お金を儲けている人でもいざとなれば、あっさり日本を捨てるのかと。
もちろん、本当の脅威は放射能ですから、幼い子供を持った人々が去るのは理解できます。
しかし、私はそんなことはしないと再認識しました。
それ以前から国籍取得を考えていたとはいえ、今こそ日本人と一緒に居たいと思う気持ちが強まりました。
2011年の4月末に私は56年間勤めたコロンビア大学からの退官を発表しました。
それに際してNHKの取材を受けたのです。
その取材が終わった時、私は何気なく、「引退したら日本に永住する、国籍も取るだろう」と口にしました。
特に大げさなことを発表するつもりもまったくないままに。
すると半日後にはNHKはその部分だけをニュースにしたのです。
結果として大きな反響を呼びました。
東北はもちろん、日本中から手紙が届きました。
私のニューヨークのアパートに。
手紙の多くは、「あなたは勇気を与えてくれた」という内容でした。
中には「あなたは生粋の大和民族ではない」という否定的な意見も混じるだろうと予測していましたが、そいう手紙は一切ありませんでした。
いずれも感謝を表明するものばかりで、私が以前懸念した、顔つきがどうのとかはまったくの浅はかな杞憂でした。
私は自分の住む東京の一角では、ただの一人の西洋人でした。
今もそうかもしれません。
皆さんは私の顔をよくご存知でしたが、以前は通り過ぎる際に会釈をされるだけでした。
それが国籍取得のニュースの後には会釈だけではなく、声を掛けていただくようにもなりました。
「お元気ですか」「風邪をひかないように」とか。
些細な変化ですが、同時に重要な変化でした。
私はようやく、仲間として迎えられたと感じ、たいへんうれしく思いました。
今でもそう思っています。
以前から近所の皆さんはきわめて親切で、決して外国人扱いという調子ではなかったのです。
ただ、無言であっただけで。
しかし、今ではそいう点でも変わりました。
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日本と日本文学をこよなく愛している、キーンさんはニューヨークで1922年に生まれ、現在91歳。
『100年先の皆様へ』という文章も書いている。
現在の日本とはずいずん違った国になっているでしょう。
今も未来も守るべきものはあります。
それは日本語です。
100年先には日本語以外の言葉が国際語になっているかもしれません。
しかし、日本語こそが日本人の宝物と信じて疑いません。
ぜひ守ってください。これこそは私の一番の願いです。
お願いします。
“ドナルド・キーン”(鬼怒鳴門・キーンドナルド)
(同書より)
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