浅川氏は「先進国最低レベルの食料自給率」「後継者不足」「耕作放棄地の増加」といった負のキーワード「日本農業弱者論」は、新たな自虐史観だ、と語る。過去40年間で農家の数は激減したが、農業以外の所得の増大と農業の技術革新にともない、生産性と付加価値は飛躍的に向上している。農業を本業とし、きっちり成果を挙げている優良農家は進歩を遂げているのだという。実は、今ある少数の農家だけでも日本国民の需要を十分に賄いきれるほど、農場の経営は進歩を遂げていると言われてみれば、これまでの農業の見方が変わってきそうだ。確かに農業就業人口の流動化、減少、生産性の向上は、すべての先進国が歩んできた道で何も日本に限った特殊な現象ではない。それではなぜ、こうした事実に反して「日本の農業は弱い産業だ」という単純なレッテルが貼られているのかと、問題視して浅川氏は論を進めていく。
それはすべて、農水省および日本政府が掲げる「食料自給率向上政策」の思想に起因する。
昨今の世界的な農産物価格の高騰と相まって、日本の食糧自給率(41%)が世界で最低レベルの危機的状況にあると取り沙汰されている。しかし、この主張の裏づけとなる食料自給率の数字は、実は極めていい加減だ。
日本の自給率は41%と言われるが、それはカロリーベースで計算しているからだと指摘する。
生産額ベースでは、66%となり、主要先進国の中では3位だというが、自給率を発表している国は世界で日本だけだというのには、なるほどの感になる。
スーパーに並ぶ農産物の大半は国産だし、棚には一年を通して十分すぎるほどの量が陳列され、品質についても大きな不満は聞こえてこない。それどころか、生産過剰で破棄する農産物の話も思い出す。米に至っては減反政策は40年以上続けられている。自給率が示す数字と一般的な感覚がかけ離れているのは、農水省が意図的に自給率を低く見せて、国民に食に対する危機感を抱かせようとしているからだというのだ。
窮乏する農家、自給率低下のイメージを演出し続けなければ、農水省の果たすべき仕事がなくなっていくから、危機感を煽っているのではという。民間による農業の経営、マーケットが成熟し、政府・官僚主導の指導農政が終わりを迎えているという。
2007年の先進5カ国の農産物輸入額は、1位が米国の747億ドル、2位がドイツの703億ドル、次いで英国535億ドル、日本460億ドル、フランス445億ドルという順。人口は、米国3億人、ドイツ8000万人、英国6000万人、日本1億2000万人、フランス6000万人だから、アメリカと同様、日本の輸入量が少ないのは道理だというのだ。
日本農業は実力を評価する世界標準は、メーカーである農家が作り出すマーケット規模である。
国内の農業生産額はおよそ8兆円。これは世界5位、先進国に限れば米国に次ぐ2位だという。
この数字は農水省が発表しているもので、2001年以降、8兆円台を維持している。
日本のTPP参加の前提は、農業の保護だが、日本の農業についても認識を新たにしたほうがいいのかもしれない。
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