野田佳彦首相が原子力規制委員会の人事に、採決による党の分裂をおそれた政府・与党の意向により、首相権限で任命する異例の手続きがとられることになった。本来は国会の同意が必要であるのに、首相権限で強行する。
従来の原子力安全・保安院や原子力安全委員会は原発推進派の強い影響下にあって「規制する側が規制される側(電力会社)のとりこになっていた」(国会事故調査委員会報告)。それでは原発を実質的に規制できず、安全確保もままならない。
政府は11日の閣議で、原発の新たな安全規制を担う「原子力規制委員会」を19日に発足させることや、もっとも問題であるとされた田中俊一氏を委員長に任命する予定だ。
原子力規制委員会の委員長人事は国会の同意を必要とするが、通常国会で、与野党から異論が出た他、採決による党の分裂をおそれた政府・与党の意向により、首相が任命する異例の手続きがとられることになったものだ。
福島第一原発事故から1年半が経過し、ようやく委員会発足のめどが立ったが、当初予定の4月から大幅に遅れたことにより、原発の安全基準の策定など、山積する課題への取り組みも難航が予想される。
新設する原子力規制委員会を国家行政組織法第三条に基づく独立性の高い委員会にしたのは、そんな反省に基づいて原発を推進する電力業界や経済産業省、学会などの影響力を断ち切るためだ。ところが政府が示したのは、そんな狙いからまったく外れた人事案だった。委員長候補に原子力委員会委員長代理や日本原子力研究開発機構副理事長などを務めた田中俊一氏、委員候補には日本アイソトープ協会主査の中村佳代子氏、日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門副部門長の更田豊志氏らを指名した。
田中、更田両氏が関係する日本原子力研究開発機構は高速増殖炉もんじゅを設置し、使用済み核燃料の再処理をしている。つまり核燃料サイクルの推進機関だ。中村氏の日本アイソトープ協会は研究・医療系の放射性廃棄物の集荷、貯蔵、処理をする団体である。
こうした経歴からは三人が原発推進を目指す「原子力むら」の住人であるのは明白だ。とくに中村、更田両氏は原発や核燃料再処理に関係する機関に勤める従業員の就任を禁じた規制委員会設置法に違反する疑いすら濃厚である。
法律上は国会同意がなくても後で同意を得れば、首相の任命は可能だ。ところが原子力緊急事態宣言が出ている間は同意すら得る必要がない。いったいどちらを守る法律なのだろうか。宣言発令中なので、任命が既成事実化してしまう可能性が高い。これは事実上の国会無視だ。本来なら国会事故調が提言したように、独立した第三者委員会が相当数の委員候補を選び、その中から透明で客観的なプロセスを経て委員を選ぶのが望ましい。こうした展開になった背景には国会の怠慢がある。国会は事故調報告を受けていながら、たなざらし同然にした。政府任せではだめだと、その為にロビー活動をしていたのに、なんという事だろうか!!
いまからでもいいから、ともかく国会が原子力むらの人事をどう考えるのか、総裁選に有象無象せず、しっかり検証し、意志表明すべきだ。今、まともに政治を見つめているのは、拙速に数を上げようとはしてこなかった「みんなの党」かもしれない。
参考: 東京新聞 2012年9月6日
2012年09月12日
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